第238回 安倍内閣の賃上げ要請は二重のまやかしです

安部内閣はこのところ労働者の賃金の引き上げを口にしています。

安部首相は今年2月には経済3団体(「経団連」「経済同友会」「日本商工会議所」)の代表者を招いて、デフレ脱却に向けて業績好調な企業に労働者の報酬(賞与)の引き上げを要請しました。最近では法人税率を引き下げるかわりに従業員の賃上げを企業に求めると言っています。経団連の米倉会長は、「経済界としても対応したい」と言っており、まるで労働界の頭越しに賃上げが実施されそうな雲行きです。

しかし、これは雲をつかむような話で、安部内閣に賃上げの期待を抱くことはできません。それは二つの単純な理由から説明できます。

第一に非正規雇用が増え続けて賃金の下落が続いています。今月2日の「注目のニュース」欄にアップしたように、厚生労働省が発表した今年8月の「毎月勤労統計」によると、基本給や残業代、賞与などを合わせた「現金給与総額」の平均は前年同月比0.6%減の27万1913円となり、2か月連続で減少しました。

この記事には「労働者全体に占めるパートタイム労働者の比率が高まり、給与総額の平均を押し下げる格好となった」という解説がついています。安部内閣の産業競争力会議や規制改革会議では非正規労働者の比率を高める提案が目白押しです。そのことを考えても、安部内閣のいう賃金の引き上げがまやかしであることは明白だと言わなければなりません。

第二に賃金を上げるというなら、まずは政府が政治の論理で決めることができる最低基準を引き上げるべきです。しかし、この10月に改定された各都道府県の地域別最低賃金は全国平均で749円から764円にわずかに15円(2%)上がったにすぎません。

それでも上がったではないかと評価する向きもあります。しかし、安部内閣は消費税率を民主党の野田前首相との合意どおり5%から8%に引き上げることを決めていました。この引き上げを織り込むなら、2014年4月時点では、賃金は少なくとも3%(正確には108÷105=1.029なので2.9%)上がっていないと、目減りすることになります。

くわえて安部内閣はインフレターゲットとして2013年と14年の2年間で物価を2パーセント引き上げるという政策目標を打ち出しています。1年では1%の上昇です。消費税率の引き上げ分が消費者に100%転嫁され、インフレターゲットが功を奏したとしましょう。その場合、消費税率の引き上げ分の3%とインフレ分の1%を加えると、他の諸条件が変わらなければ、少なくとも4%の賃上げがないと、実質賃金は下がります。

大阪で言えば、最低賃金は10月18日以降、それまでの800円から819円に、19円(2.4%)引き上げられます。消費税率の引き上げとインフレで4%の賃上げがないと実質賃金は下がるとすれば、最低賃金は832円に引き上げられてようやく現状維持になります。

民主党は、2009年の総選挙では「最低賃金の全国平均1000 円を目指す」と公約しました。ところが政権獲得後は2020年までの目標と言い直して事実上棚上げしました。今回の15円という引き上げ額ですと、単純計算では、2013年10月改定後の全国平均764円を1000円に引き上げるには16年もかかります。

安部内閣が本気で賃上げをいうなら、最低賃金の全国平均を毎年100円づつ上げて3年で300円上げるという政策を打ち出してしかるべきです。

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