第163回 職場のパワハラの背景にある過重労働と非正規雇用に歯止めを

昨日(1月30日)、NHKラジオの夕方ニュース(「ニュースここ一番」)で、厚労省のワーキンググループがまとめた「職場のパワーハラスメントの予防・解決」に関する報告が取り上げられました。

私は求められてあまり要領を得ないコメントをしました。放送では視聴者からの職場のパワハラ事例の紹介メールを挟んで10分近く話しました。事前にシナリオのようなものを作っていたのですが、生放送はどうも苦手です。以下、本番とは少し違いますが、用意していたメモを貼り付けておきます。

Q 職場のパワハラについて、森岡さんはどう見ていらっしゃいますか。

A 背景としては、過重労働の問題と非正規雇用の問題を重視しています。

職場で深刻な問題になってきた過労死・過労自殺は、業務の適正な範囲を超えた過重労働によって引き起こされている点で、広い意味でパワハラと言えます。と同時に、最近の過労死・過労自殺の多くは、職場のいじめや嫌がらせなどの狭い意味のパワハラと一体となっています。若い社員が過大なノルマを課されて「死ぬ気でやれ」、「やれなければ辞めろ」と言われて、目標の達成を迫られ、うつ病になり自殺に追い込まれる、というケースも少なくありません。

厚生労働省の労災資料をみても、過労自殺に関わる事案が大幅に増えています。なかでも30代、さらには20代の若年労働者のあいだで過労自殺が深刻な問題になっています。最近は就職して数週間から数ヶ月という新卒社員にも一人ならず犠牲者が出ています。

Q 非正規雇用はパワハラにどう関係しているのでしょうか。

A 近年はパート、アルバイト、派遣、契約社員などの非正規雇用が増えています。今では労働者の3人に1人以上が非正規労働者です。こうした非正規労働者の増加はパワハラが増える一因にもなっています。

正社員のあいだでは、人数が減らされているのに仕事量は前より増えています。とくに若い社員は経験や知識が乏しいのに、みんなが余裕のない働き方をしているために、先輩社員から十分な指導や援助も受けられずに、罵声が飛び交うなど、パワハラが起きやすい職場になっています。

他方、非正規労働者はたいへん弱い立場におかれて、いつ雇い止めになるかわからない環境で働いています。慣れない仕事に研修期間のないまま従事することが多く、上司や先輩からきつく言われる、あるいは嫌がらせを受けることもあります。そういうなかで非正規労働者はパワハラを受けても相談することさえできない場合が多いと考えられます。

労働条件が大変劣悪で労基法が無視されているような企業を、よく「ブラック企業」と言います。最近成長している飲食、流通、サービスなどの非正規比率の高い企業は、労働条件の面で要注意です。残業が非常に長くて過労死を出したある外食系の企業は、なんと初任給に残業代を含めていました。

Q 原因として考えられることは

A 非正規化で人員が減らされ、不況で業績が落ちているもとで、従業員にとうてい達成できないような高い目標を強要する成果主義やノルマ経営が広がっていることが問題です。パワハラは目標達成のために起きているだけでなく、自主退職に追い込むためにも起きています。とくにリーマンショック以降、それが強まっていると言われています。

Q 国が乗り出したパワハラ対策に、どんなことを期待しますか。

A パワハラ防止を企業任せにせず、国が実態の把握や対策に乗り出すのはとてもよいことです。できることなら、パワハラ増加の背景になっている過重労働と非正規雇用に歯止めを掛けるためにも国は法的な整備をしてほしいと思います。

 

この記事を書いた人