第30回 「名ばかり管理職」が今年の流行語大賞トップテンに

2008年の流行語大賞トップテンに、働き方ネットのつどいでも取り上げた「名ばかり管理職」が選ばれました。「蟹工船」と並んで社会問題を表す時事用語が二つも入ったことは、企業の労働者酷使に批判が高まっている昨今の世相を反映しています。

「名ばかり管理職」の受賞者は、日本マクドナルド店長の高野広志さんです。店長であるという理由で残業賃金を支払わないのは違法だとして高野さんが起こした裁判で、東京地裁は、今年1月、高野さんの訴えを認め、店長は権限も待遇も労基法第41条の「管理監督者」には当たらないという判決を言い渡しました。

「名ばかり管理職」の違法性を問い、残業ただ働きの実態を明らかにした栄誉が高野さんに属することはあきらかです。しかし、この言葉の発案者は高野さんではありません。この言葉がいっぺんに広まるきっかけとなったのは、昨年11月19日に放送され、私も出演したNHKの「クローズアップ現代――悲鳴あげる名ばかり管理職」でした。それが大きな反響を呼んで、今年3月31の「NHKスペッシャル」が「名ばかり管理職」の実態にさらに迫ったことも、この言葉を広めることに寄与しました。

とはいえ、NHKもこの言葉の発案者ではありません。「北海道新聞」は、2年前の2006年11月18日に、高野さんが前年に起こした裁判にも触れて、「残業代なし権限なし休みなし 名ばかり管理職急増 年収300万円減も」という記事を書いています。しかし、これが初出ではありません。私が調べた限り、この言葉はいち早く2001年3月30日の「朝日新聞」に出ています。1000字近くのその記事は「部下も権限も残業代もないのに遅刻すれば賃金カットはあり――。多くの会社で増えている名ばかり『管理職』の実態が29日、東京・中央労働基準監督署の調べでわかった」と書き出しています。調べればもっと前の使用例があるかもしれません。

私は、まもなく出版される『時代はまるで資本論――貧困と発達を問う全10講』(昭和堂)というタイトルの『資本論』入門書で、次のように書きました。

社会に生起するさまざまな現象は、それを明確に表す言葉が与えられて、突然のように多くの人々に見え始めることがあります。それは、実はすでに存在しながらあまり気づかれていなかった現象が広がることによって、その事態を端的に表現する言葉が探し当てられ、次にはその言葉のレンズを通すことによって、その現象や事態が多くの人びとの目に入るようになるということかもしれません。そういう時代を写す言葉の代表例として「過労死」と「ワーキングプア」を挙げることができます。

このような視点から見ると、「名ばかり管理職」という言葉を発案し広めたのは、特定の人やメディアではなく、働き方/働かされ方が問われる時代そのものであるともいえます。

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