第122回 書評? 鈴木 剛 『社員切りに負けない!』

『週刊エコノミスト』 2010年6月22日号

鈴木 剛『社員切りに負けない!』自由国民社、1500円+税
 
あなたは勤め先での雇用に不安を感じていますか。あなたは退職勧奨、退職強要、解雇、合意解約の違いが分かりますか。

本書は最初の質問にイエス、第2の質問にノーと答える人のために書かれた。著者は多くの解雇事件を解決してきた東京管理職ユニオンの書記次長である。

08年のリーマンショック後、90年代初めのバブル崩壊時や、97〜98年の金融不況時に続き、社員切りの3度目の波が日本の労働者を襲っている。そのために全国のユニオンへの相談件数も急増しているという。

第1章「解雇の具体例」で注目されるのは、外資系企業を中心に、退職勧奨の段階で会社への立ち入りを禁じ、退職を無理矢理受け入れさせる「ロックアウト解雇」が最近目立って増えていることである。アメリカ流の人事考課システムを導入している企業では、成果の達成度に応じて社員を上位20%層、中位70%層、下位10%層などに分け、下位層を強引に退職に追い込む例もある。

第2章「『ロックアウト解雇』を生み出した背景」では、80年代以降、労働分野の規制緩和が世界的に進められてきたことが述べられる。著者によれば、正社員を減らし非正規労働者を増やしてきた新自由主義経済は、一人ひとりの生存権と就労権を優先する社会連帯経済に転換されなければならない。

第3章「立ち上がれば解決できる」と、第5章「労働組合の法的根拠と闘い方」は、労働組合入門を兼ねた、解雇事件の相談・解決ガイドになっている。

労働者は管理職でも会社の外の労働組合に加入ができる。会社は従業員が一人で加入している組合からの申し入れでも、団体交渉に応ずる義務がある。だから組合は、解雇を跳ね返したり、有利な退職条件を勝ち取ったりするうえで頼みになる。

不当解雇にたいして労政事務所や労働委員会や労働審判などを利用する場合も、一人で悩み苦しむより、組合の「人と人とのつながり」に頼るほうが、元気も出るし力にもなる。
冒頭の2番目の質問についての答えは、第4章「社員切りに負けない対処法」にある。評者は労働問題についてそれなりに通じていると思っていたが、自宅待機の種類や意味など、本章ではじめて知ったことが多い。

最後の解雇事件当事者による「座談会」や、巻末の「全国相談先一覧」も参考になる。また写真やイラストも入って読みやすい。各種文書の例文もあって、ためになる社員切り対処法マニュアルである。

 

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