第212回 先進国で賃金が長期に下がり続けているのは日本だけです

1月31日、厚生労働省「毎月勤労統計調査」の2012年結果(速報)が発表されました。それによるとボーナスなどを合わせた2012年の現金給与総額(月平均)は、31万4236円で、現在の調査方法に変更した1990年以降で過去最低となりました。

給与総額は98年から減少傾向が続いており、今回は、08年秋のリーマン・ショックの影響で過去最低だった09年(31万5294円)をさらに下回りました。最も高かった97年と比べると、5万7493円(年収換算で68万9208円)も下がったことになります。

図は月額給与総額の推移 1月31日「西日本新聞」より

こういう重大な問題なのに、全国紙は総じてきわめて小さな扱いで、関連の社説は出ていないというのはどういうことでしょうか。先進国で名目賃金が10年以上にわたって下がり続けているのは日本だけですが、大新聞はこの事実にさえ目をつぶっています。

アベノミクスはデフレ脱却を掛け声に、2パーセントの物価上昇、名目3パーセント以上の経済成長率の達成を政策目標に掲げています。しかし、デフレの真の原因である長期にわたる賃金の下落に対しては何の対策もなく、所得(賃金)の引き上げは目標にさえ上げていません。アベコベミクスと言われる所以です。

安倍政権は給与(窮余)の一策としての賃上げ企業へ減税策(賃上げ分の最大10%の税額控除)を打ち出しています。これは賃金の引き下げによる増益効果のほうが大きいかぎり実効性は期待されません。経済界は、賃金はいったん上げると下げにくいが、減税は臨時的なものにすぎないという理由で、歓迎していません。

安倍首相は、経済成長さえすれば、賃金はおのずと上がるかのように考えています。しかし、2002年2月から2007年10月までは「戦後最長の景気拡大」がありました。その間(03〜07)の経済成長率はアベノミクスの目標より高い実質1.9%でした。しかし、図を見てください。その間にも賃金は1万3000円余りも下がっています。

いまは一時的な株高と円安で景気がよくなっているように見えますが、アベノミクスが成功したとしても、その結果は、物価上昇と賃金低下です。この場合、人々は名目賃金だけでなく実質賃金の低下に泣くことになるでしょう。

追記: 2月4日付け東京新聞社説は「春闘スタート 労使ともに発想変えよ」と題して、「先進国で十年以上も平均賃金(名目)が下落基調にあるのは日本だけである。この間、企業は利益が出ても賃金を抑えてきた。それが消費市場を一段と縮め、企業の値下げ競争を激化させ、デフレと低成長が常態化している」と指摘し、「正社員中心にも無理がある。働き手の三割以上となった非正規の待遇改善にもっと力を入れるべきだ。消費拡大など強い経済の実現には、非正規も含めた労働者全体の底上げが必要だからである」と述べていて注目されます。 

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