第229回(書評) 熊沢誠『労働組合運動とはなにか――絆のある働き方を求めて』

岩波書店、2100円+税

「週刊エコノミスト」2013年5月28日号

なぜ今、組合が必要か
老大家が語る抵抗の書

この本はやわらかい話し言葉で書かれています。それは連続講座が元になっているうえに、一般の読者に労働組合の役割について語りかける狙いがあるからと思われます。評者も今回は話すように書きます。

本書は、労働組合が語られないなかで、「なぜ今、組合が必要なのか」を問い、働き方を考える社会政策の老大家の抵抗の書です。

第1章は、労働組合の原点を述べています。著者はまず教科書的に、仕事量や賃金額などの具体的な労働条件について労働者の発言や決定参加を保障するのが労働組合だと言います。これに自説を加え、普通の労働者が経営者の言うなりにならずにやっていくための拠り所が労働組合運動だとも言っています。

第2章は著者の多年にわたる研究の原点である欧米の労働組合運動の歩みと成果を語っています。そこでは、歴史上、安定的な労働組合として最初に登場したイギリスの熟練労働者の職種別組合であるクラフトユニオンの話がまず出てきます。

アメリカについては、自動車産業の労働者が編み出したシットダウン(座り込み)ストライキ戦略を手に取るように紹介しています。2011年にニューヨークのウォール街で起きた経済格差に抗議する「占拠運動」に関する本のなかで、占拠という抵抗形態は労働組合がストライキで行う座り込み運動にさかのぼるという指摘がありましたが、本書でその深い意味が分かりました。

第3章は日本の戦前と戦後の労働組合運動を述べています。著者の言うには、日本的経営の特徴とされる企業別組合もその枠組みをなす年功制も、戦前に起源をもっています。また、戦前は、工員は日給・時間給、職員は月給制で、両者の間に身分差がありましたが、戦後は「従業員の平等」が労働組合運動の要求となり、工職差別はなくなりました。

戦後は電力、自動車、石炭などの産業で労働組合の歴史に残る大きな闘いと分裂、そして敗北がありました。他方、春闘は高度成長期をとおして、賃上げを勝ち取り、国民全体の生活向上に寄与しました。

第4章はストライキを打てない今の労働組合運動を扱っています。と同時に「もっとも組合を必要とする」非正規労働者が組合に組織されていないことを問題にしています。

第5章は、「ユニオン」と「若者」をキーワードに、明日の労働組合運動の希望を語っています。
本書は早くも増刷されています。労働組合は必要と思っている人は案外多いのかもしれません。

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