エコノミスト 2013年11月19日号
女性を社会から締め出す
“家事労働”の実態
著者は近年大学で教えるようになってからも、ジャーナリストとして、女性の働き方、生き方について、次々と労作を著してきた。家事労働を主題にした本書でも、現場を歩いて当事者に取材し、問題をすくい上げる記者の手法が貫かれている。
家事労働は、掃除、洗濯、食事の支度と片付け、布団の上げ下ろし、草木やペットの世話から、広くは育児、介護、買い物、地域活動などを含む、家族の暮らしに欠かせない無償労働である。
しかし、著者が言うように、日本では家事労働は、共働き社会になったいまも、大部分が女性によって担われている。その一方、男性はだれもが必要とする家事労働から逃れ、通勤を合わせれば、能動的活動時間のほとんどを会社に捧げている。
家事労働の不公正な分配は、女性を働きづらくし、既婚女性の多くをパートタイム労働に追いやってきた。その結果、女性は家事労働を含めれば男性以上に働きすぎでありながら、社会生活の多くの領域から締め出され、シングルマザーに限らず深刻な貧困にさらされている。
著者はこれを「家事労働ハラスメント」と呼ぶ。これは特定の個人や組織が個人や集団に行うパワハラとは異なる。評者が思うに、これは男性たちのサービス残業と同じように、社会制度の歪みが無数の被害者を生み出す点で、ある種の「システムハラスメント」である。
専業主婦への回避も解決にはならない。彼女らは子どもを保育所に入れて働きたくても、「働いていない」という理由で入所さえ認められない。最近では貧困でありながら専業主婦でいる子育て女性が数十万人にのぼる。夫(父親)たちは、雇用の不安定化、低賃金化の流れのただ中にいる。その結果、貧困リスクの高い「低所得の夫と専業主婦」のカップルが増えてきた。
農家を含む自営業主の妻たちも割に合わない状況に置かれている。法と政治の作為で、彼女らは独立した働き手としては認められず、税制上も社会保障上も、「サラリーマン」の妻たちに比べていろいろと不利な立場に置かれてきた。
本書にも出てくるように、安倍政権は、「三年間抱っこし放題」が可能な「三年育休」を言い出した。女性たちはこれに「戻る職場がなくなる」と反発した。育児や介護などの良質な公共サービスと、男性の家事参加を可能にする労働時間規制がなければ、家事ハラはなくせない。
日本の女性の生きづらさの根を抉った本書を男性にも薦めたい。