第265回 書評 東海林智『15歳からの労働組合入門』

東海林智『15歳からの労働組合入門』毎日新聞社、1400円+税

週刊エコノミスト 2014年3月4日号

労働組合で働き方を変え始めた若者たち

著者は労働分野では有名な「毎日新聞」の社会部記者である。

小説家が書いた『13歳のハローワーク』という職業紹介の本がある。その向こうを張った本書には、労働者は「もはや、労働組合がなければ生きていけない」時代になったというメッセージが込められている。

評者がこの数年に読んだ労働問題に関する本のなかでは、本書は図抜けて面白い。暗い現実をルポして、これほど一気に読め、目の前が明るくなる本もめずらしい。

書名と同じタイトルの「序にかえて」では、安倍政権下の労働法否定の雇用改革論議が鳥瞰されている。解雇の金銭解決、国家戦略特区、ホワイトカラー・エグゼンプション、限定正社員、派遣の無期限化など。日本を「企業が世界で一番活動しやすい国」にするための傍迷惑な思い付き規制緩和の大行進である。

異常なのは、労働政策を「雇用維持」型から「労働移動」型に転換するための議論が、経済成長戦略の名において、厚生労働省ならぬ、経済産業省の主導で強行されようとしていることである。

一方、日本の労働現場では、恐ろしいほど解雇や退職強要や雇い止めの嵐が吹き荒れている。本書の真価は、その様子を、ブラック企業に抗して、「働き方を変えよう」と声を上げ始めた若者らにつぶさに語らせていることにある。

リーマンショックで派遣切りにあった鈴木さんは、生まれて初めて労働組合とつながり、資格を取って介護士になり、社会のなかで自分が必要とされていることを知った。

スーパーでアルバイトをしていた大学生の岩井さんは、残業代の不払いで、個人加盟の労働組合に相談し、団交にも参加した。会社は岩井さんには支払うと約束したが、他のバイト仲間に対する支払い要求を拒み、雇い止めで逆襲してきた。それを跳ね返す闘いのなかで、彼は組合に相談にきた学生や大学院生と学生ユニオンを立ち上げた。

東京の地下鉄の売店「メトロズ」で働く組合員6人は、劣悪な労働条件にストライキで立ち上がり、大きな成果を勝ち取った。

偽装倒産で解雇通告を受けたガソリンスタンドの労働者たちが、組合を作り職場を再建する話もある。

著者が首都圏青年ユニオン事務局次長の神部さんと、NPO法人POSSE代表の今野さんに聞いた巻末の鼎談を含め、どの話も、いまや普通に生きていくために、労働組合が必要な時代になったことを物語っていて、考えさせられる。

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