第281回書評、伍賀一道『「非正規大国」日本の雇用と労働』新日本出版社、2700円+税

 エコノミスト 2014年12月9日号

                                              評者 森岡孝二(関西大学名誉教授)

   30年で大増加の非正規雇用広く細かく考察
 
著者は不安定就業と非正規雇用の批判的研究で知られる労働経済学者である。
本書は、著者の近年の研究成果をもとに、過去30年に生じた雇用の変化を8章構成でまとめている。

第1章では、非正規雇用を中心に働き方・働かせ方の移り変わりの全体図を概観し、「労働基準」が掘り崩されてきた状況を明らかにする。

第2章では、雇用形態に焦点を合わせ、非正規雇用の増加と失業・半失業の実態に迫り、第3章では、間接雇用の広がりに注目し、派遣労働と人材ビジネスの変遷を跡づける。

第4章では、最近よく言われる正社員の「無限定な働き方」を労使関係の変容から説き、第5章では雇用・労働の戦後史を振り返る。

第6章から第8章では、雇用問題に関連して生活保護を取り上げ、安倍内閣の規制緩和を労働市場と労働時間の両面で批判し、終章では、現状打開の政策課題を提起する。

著者によれば、政府統計に「非正規雇用」という用語が最初に登場したのは、1981の「労働力調査」(特別集計)であった。これはパートタイム労働者が女性を中心に大幅に増え、一般労働者が「正社員」または「正規雇用」と呼ばれるようになったことを反映している。

5年毎に実施される「就業構造基本調査」(「就調」)によると、1982年から2012年までの30年間に、雇用者総数は、ざっと1400万人近く増加している。しかし、正規雇用者は、途中の増加があったとはいえ、その後の減少が大きく、結果的にはほとんど変わっていない。

他方、パート、アルバイト、契約社員、派遣などの非正規雇用者は、670万人(16.9%)から2043万人(38.2%)になって、雇用者総数と同じく1400万人近く増加している。これは数字の上では、この30年間に増えた仕事は、すべて非正規雇用であったことを意味する。その大多数はワーキングプアでもある。

非正規雇用者は今では男女計で4割近く(女性では6割近く)に達している。かつては若者の非正規比率は一割台に過ぎなかったが、今では若者の二人に一人は非正規である。これらの事実を突きつけられて、評者は、一世紀前に、河上肇が『貧乏物語』で「驚くべきは現時の文明国における多数人の貧乏である」と述べていたことを思い出した。

労働統計を精査して、派遣や請負の現場にも足を運び、非正規雇用についてこれほど広くかつ細かく考察した本は他にない。現下のホットな問題の必読書として一読を薦める。 

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