第284回 日本は世界に冠たる絶望的な休暇貧困大国です

「ゴールデンウィーク」もあと2日です。今年は9月にも連休があって「シルバーウィーク」と言うそうです。

しかし、多くの人が休むときに働いている人もいます。働きたいのに仕事がない人もいます。正社員は休みを取っても給料に直接響くことはありませんが、パートやアルバイトや派遣は、勤め先が休みの日は賃金が出ず、それでなくても生活が苦しいのに、1週間無収入ということともありえます。

ところで、連休に加えて年休(年次有給休暇)を取り、休暇を少しでも長くする人がどのくらいいるでしょうか。年休の取得率が今より高かった頃の厚生労働省の調査によれば、連休の前後に年休を取った日数は、1人当たりわずか0.5日だったそうです。

ヨーロッパ諸国では、年休は1人当たり年間30日前後付与され、そのほぼ9割が消化されています。しかし、2014年に日本の企業が正社員に付与した年休の日数は、1人平均18.5日で、そのうち実際に取得した日数は9日、取得率は48.5%でした。

年休を取る場合も、実際は病休の振替や臨時の用務に使われることが多く、必ずしも本来の休暇や余暇のために使われているわけではありません。

労働政策研修・研修機構が2011年に年休の取得に関する詳細な調査を実施しています。それによれば、正社員の16.4%(男性18.5%、女性11.6%)は1年間に年休を全く取得していません。12歳以下の家族がいる男性でも0日が16.1%います。週60時間以上の正社員にかぎればなんと3割(29.4%)が0日、6割(60.9%)が5日未満です。

年休を残す(取りにくい)理由についての複数回答の結果は高い順に以下のようになっています。

「病気や急な用事のために残しておく必要があるから」 64.6%
「休むと職場の他の人に迷惑になるから」 60.2%
「仕事量が多すぎて休んでいる余裕がないから」 52.7%
「休みの間仕事を引き継いでくれる人がいないから」 46.9%
「職場の周囲の人が取らないので年休が取りにくいから」 42.2%
「上司がいい顔をしないから」 33.3%、
「勤務評価等への影響が心配だから」 23.9%
(数字は「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計)

これらは労働者個人に聞いた理由ですが、システムから見れば、多くの会社が出勤率100%を前提にしており、みんなが年休を消化しても仕事が回るだけの人員が確保されていないことが問題です。

政府はいま国会に労働時間制度に関する労働基準法改正案を上程し、年5日以上の年休取得が進む仕組みを作ると言っています。しかし、これは本来の制度からみるとあまりにも貧弱で姑息な提案です。もとともと勤続6ヵ月で10日、6.5年たてば20日が付与され、それを完全に消化して当然というのが、お寒いながらも、日本の年休制度のはずです。

にもかかわらず、5日の取得を義務化するというのは、1)取得の時季を会社が指定するために自由に取りにくくなる、2)5日が新しい「基準」になり、5日さえ取らせればよいということになりかねない、3)ILO第132号・有給休暇条約の批准を妨げ、国際基準である最低2週間の連続休暇取得を絶望的に困難にする、という点でまことに後ろ向きの改革です。

数年前に『就職とは何か―〈まともな働き方〉の条件』という新書を書いたとき、私の担当するゼミの学生たちに年休について聞いたところ、男子のほとんどは「年休は取らない」か「取れないと思う」ということでした。先の調査でも20代の男性の4人に1人(25.2%)は年休を1日も取っておらず、3人に2人(65.4%)は5日未満しか取っていません。

5月2日に2009年卒業組のゼミOBの飲み会がありました。そこに来ていた1人はコンサルタント会社の猛烈社員で、1日14〜15時間働き、年休は1日も取っていないと言っていました。それでも東京から大阪までわざわざゼミ友達に会いに来てくれたのは救いです。

男性が2年分の貯まった年休を気兼ねなく取得するのは退職直前だけという状況もあります。日本人の休暇の絶望的貧困はただごとでないと言わなければなりません。

 資料 文中の年休取得日数調査結果

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