エコノミスト 2017年9月26日号
服部茂幸『偽りの経済政策――格差と停滞のアベノミクス』岩波新書、820円+税
失敗を成功と見せかけるアベノミクスのからくり
本書によれば、破綻した経済政策の誤りをなにやかやと言いつくろっているのがアベノミクスである。
評者の理解では、金融、財政、民間投資の「3本の矢」からなるアベノミクスの全体像が示されたのは、13年6月に発表された「日本再興戦略」である。それより3ヵ月余り前、安倍首相は、政権復帰後の最初の国会演説で、「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指すと公言した。
結果はどうなったか。最近、財務省が発表した法人企業統計によれば、16年度末で企業の内部留保(利益剰余金)は過去最高の406兆円に達した。この額はGDP(国内総生産)の約7割に当たる。第2次安倍内閣が発足した12年度末は304兆円だったので、この間に100兆円以上も積み上がったことになる。企業の業績を利益で測るなら、アベノミクスの目標は達成されたかに見える。
しかし、著者はこのような見方を退けるところから出発する。そして、アベノミクスの4年を、目標を達成したかどうかだけでなく、富裕層をいっそうリッチにしたか、貧困層の所得を改善したかで評価する。
13年3月に、日銀の黒田総裁・岩田副総裁体制がスタートした。彼らは2年を目処に、消費者物価上昇率を2%まで引き上げ、デフレから脱却し、GDP名目3%、実質2%の経済成長を達成すると公約した。しかし、その後の消費者物価上昇率はゼロかマイナスで、実質成長率は1%そこそこにとどまっている。これでは成功したとは言えない。
政府・日銀は、目標達成に繰り返し失敗するなかで、その原因を、消費税増税後の需要の弱さ、原油価格の急落、新興国の経済の減速などの外的要因のせいにしてきた。
その一方で、就業者の増加をもってアベノミクスの成果と言う。しかし、増えたのは短時間就業者である。そのうえ労働生産性はほとんど上昇していない。なのに企業は空前の利益をあげた。そのうえ増加した利益を従業員の賃銀や設備投資のために使わずに、内部留保に回した。その結果、アベノミクスの開始以来、実質賃銀はほぼ一貫して下がり続け、格差が広がっている。
本書が説得的に述べているように、アベノミクスの失敗は誰の目にも明かである。にもかかわらず安倍内閣は、最近になって二つの学園問題の紛糾で支持率が下がるまで、なぜ長らく高い支持率を得てきたのか。この疑問を掘り下げて、経済の裏にある政治の問題を考える上でも、鋭い切れ味の政策批判が売りの本書が参考になるだろう。