第254回 小保方騒動で語られない研究者の非正規雇用問題

今日(4月7日)の各紙は、小さな記事で、理化学研究所が4月1日付で、STAP細胞の論文「不正」問題の渦中の人、小保方晴子ユニットリーダーとの雇用契約を更新したと伝えています。

STAP細胞問題は報道が過熱してまるで騒動のようになっていますが、理研の小保方さんが会社で言えば1年更新の契約社員の身分であることはほとんど議論されていません。近年の日本では、国の研究費を産業界が重視する戦略的領域に期限付きで優先的に配分する方式と、採択されたプロジェクトの研究者を身分保障のない期限付きの契約社員(工場でいえば期間工)にする方式とが一体化した研究体制が作られてきましたが、このこともほとんど議論されていません。

評論に「たら」と「れば」は禁物かもしれませんか、理研が研究予算の獲得に明け暮れる必要がなかったら、また、小保方さんが雇用期間の定めのない正社員の身分で、業績競争に心を奪われる心配がなかったとすれば、おそらく、今回の騒動で問題になっているようなことは起こらなかったでしょう。

今日の先端科学の研究が非正規雇用に支えられていることは、iPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した山中伸弥教授が社会に訴えてきたことでもあります。山中教授が先日行われた内閣委員会の参考人質疑に提出した資料によると、京大iPS細胞研究所で働く教職員214人のうち、雇用期間の定めのない者はわずか23人(11%)にすぎず、残りの191人(89%)は全員が有期雇用だそうです。

ノーベル賞受賞後の一昨年10月10日のNHK「クローズアップ現代」のなかでも、山中教授は、iPS細胞研究所には、会社で言えば、正社員が1割しかいない、全員というわけにはいかないとしても、できるだけ正社員を増やしたいと述べています。

数字の話でわかりにくいかもしれませんが、5年毎に実施される「就業構造基本調査」という大規模な統計調査があります。この2012年結果によると、専門的・技術的職業従事者のうちの研究者(教員は含まない)は、14万75000人います。うち、正規雇用は11万9700人(81.2%)、非正規雇用は27800人(18.6%)です。

性別にみると、研究者の男性雇用者は総数が12万2500人、うち正規雇用が10万2700人(83.8%)、非正規雇用が1万7900人(14.8%)となっています。女性は総数が2万7000人と男性に比べてかなり少ない。そのうえ、正規雇用は1万7100(63.3%)、非正規雇用9900人(36.7%)で、非正規雇用比率は男性と比べてかなり高くなっています。

小保方さんは現在30歳ですが、前出の「就業構造基本調査」で30代前半(30〜34歳)の女性研究者を見ると、総数6900人のうち、正規雇用は3200人(46.4%)、非正規雇用は3700人(53.6%)となっていて、非正規が半数を超えています。

理研の記者会見に関する報道を見ていると、いかにも男性中心の日本型研究所の感じがします。内部のことは分かりませんが、理研のごく少数の「正社員」研究者はほとんどが男性で、女性研究者は小保方さんのようにほとんどが「契約社員」ではないかと思われます。これでは日本にはマリー・キュリーはなかなか生まれないのではないでしょうか。

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