受理された通報 ― 学校法人関西大学で起きたこと(第1回)一通の通知書から

関西大学教諭組合 副委員長 森川泰明

2024年12月5日、大阪府吹田市。学校法人関西大学の法務課から、一人の高校教員に一通の文書が届いた。表題は「受理通知書」。本文は数行しかない。

「貴殿から受け付けた通報は、連携弁護士による確認の結果、通報対象事実に該当すると判断したため、公益通報者保護委員会に付議し……調査を実施することをお知らせいたします」

その教員は、私である。

私は関西大学第一高等学校で英語を教えている。同時に、第一高等学校・第一中学校の教員でつくる関西大学教諭組合の副委員長を務めている。

通知書の一か月前、2024年11月6日、私は法人の公益通報窓口に通報をした。内容は、産業医による職場巡視が法令の定める頻度で行われていない、というものだ。派手な話ではない。だが、働く人の安全を守るために労働安全衛生法が定めた、基本的な仕組みに関わる問題である。そして、職場巡視が点検すべきなのは、生徒が毎日過ごす教室でもある。

法人は通報を受理し、調査し、2025年2月には理事長に対して是正措置を要請した。ここまでは、制度が設計どおりに動いた話である。

ところが、同じ時期に、別の出来事が並行して進んでいた。

通報の二週間後、私を相手方とするハラスメントの申立てが法人に出された。申立書には、私が「公益通報」を考えていたことが記されていた。その申立書は、通報された側である法人の役員の手に渡った。その役員が、私を調査する委員会の設置者となった。委員は、規程が定める理事会ではなく、理事長の決裁で任命された。その委員会は、私の言動をハラスメントに当たると結論づけた。私はその報告書を読むことは許されたが、写しを受け取ることは許されず、再調査の求めは退けられた。

通報者は守られたのか。守られなかったとすれば、どの時点で、誰の判断で、何が起きたのか。

先に一つ、書いておく。公益通報をしたからといって、その人のすべての言動が正当化されるわけではない。ハラスメントの申立ては、通報者を相手方とする場合であっても、公正に調べられる必要がある。私が問うのは、申立てがあったこと自体ではない。通報された役員が、その通報者を調べる体制の設置と人選に関わるとき、法人は調査の公正さをどのように確保したのか。本連載でまず問うのは、その点である。申立ての中身と、その場にいた人の言動については、いま大阪府労働委員会で審査されているので、この連載では触れない。

この連載は、その問いを、法人自身が残した文書に沿ってたどるものである。私の記憶や印象ではなく、受理通知書、法人の回答書、規程、そして大阪府労働委員会に法人自身が提出した書面を、一つずつ読んでいく。

なぜ今なのか。2026年12月1日、改正公益通報者保護法が施行される。通報を理由とする解雇や懲戒処分に刑事罰が設けられ、通報から一年以内の解雇や懲戒処分は通報を理由とするものと推定されるようになる。社会は、通報者を守る方向に制度を変えようとしている。

その一方で、学校という場所で通報者がどう扱われたかが語られることは少ない。企業の不祥事であれば、通報者がどうなったかは記事になる。自治体であれば、議会が問う。だが私立学校の中で起きたことは、校門の外に出にくい。教員は生徒と保護者の前に立つ職業であり、職場の争いを外に語ることをためらうからだ。

しかし、教育機関は生徒に「おかしいことはおかしいと言いなさい」と教える。その教育機関が、おかしいと言った教員をどう扱うのか。教員が職場で声を上げられない学校で、生徒は声を上げることを学べるのか。私がこの連載を書くのは、その問いが、私一人の問題ではないと考えるからである。

もう一つ、この場所で書く理由がある。2018年4月、アスネットの代表だった森岡孝二先生(関西大学名誉教授)は、このサイトで学校法人関西大学について書いている。違法な時間外労働を労働基準監督署に申告した教員が、解雇されたという話である(連続エッセイ第348回)。森岡先生はその年の夏に亡くなった。これが、先生の最後のエッセイになった。本連載は、その続きでもある。

組合は2026年4月、大阪府労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てた。審問は12月に始まる。この連載が扱うのは、法人という組織が、文書の上で何を決め、何をしなかったかである。

今週の一枚

2024年12月5日付「受理通知書」(文書法務2024-77)。学校法人関西大学法務課が発行。個人名は伏せている。
2024年12月5日付「受理通知書」(文書法務2024-77)。学校法人関西大学法務課が発行。個人名は伏せている。

次回(11月9日)「産業医が報告した六つのこと」

始まりは、職員室から教室までを歩く時間の、たった45秒の食い違いだった。

(本稿は2026年10月28日時点の情報による。)

この連載の時系列

2014〜 巡視は半年に一回 → 2024.10.24 職場巡視 → 11.6 通報 → 11.20 ハラスメント申立て → 12.5 受理(今ここ) → 2025.10 調査報告書「該当」 → 2026.4 府労委申立て


本連載について(編集注記)

本連載に登場する文書は、筆者本人に宛てられた通知書、関西大学教諭組合の質問書に対する学校法人関西大学の回答書、団体交渉で法人から示された資料、大阪府労働委員会の手続で法人自身が提出した書面、および同手続で組合が提出した安全衛生委員会の録音反訳である。本連載で引用する法人の見解は、組合質問書への回答(2026年9月24日付ほか)および団体交渉での法人側の説明による。団体交渉での説明は逐語ではなく要旨で記す。法人から本連載の記述について反論または訂正の申入れがあった場合は、働き方アスネット編集部の判断により掲載する。本連載は、現在係属中の大阪府労働委員会の審査において証言の対象となっている個々の人の言動には触れず、法人が自ら作成した文書の記載を、文書に沿って読むことを本旨とする。各回の記述は、その回の末尾に記す日付の時点の情報による。

この記事を書いた人

森川泰明