朝日新聞2010年11月18日
http://www.asahi.com/job/syuukatu/2012/news/OSK201011190013.html
労働問題に詳しい弁護士(左奥)に次々と質問を投げかける大学生ら=10月30日、京都市下京区のキャンパスプラザ京都、阪本写す ※写真をクリックすると拡大します
労働法令に触れるような過酷な働き方を強いる「ブラック企業」の情報を共有し、見分け方を学ぼうという動きが就職活動中の学生に広がっている。「就職氷河期」を超える厳しい雇用情勢に加え、企業の新卒採用主義が変わらないなかでは、最初の就職で失敗できないという危機感の高まりが背景にあるようだ。(阪本輝昭)
学生「ブラック企業を見分けるためにはどうしたらいいですか」
弁護士「求人案内や募集広告からは本当の姿は見えません。疑問点は説明会などの場でただす必要がある。実際に働く大学のOBやOGから実態を聞き取るのも一つの手でしょう」
10月30日、学生などでつくるNPO法人「POSSE」京都支部主催の学習会「ブラック会社に負けないためのHow To」が京都市内の研修施設で開かれ、大学生ら約30人が参加した。
労働問題に詳しい専門家3人が講師に招かれ、その一人、松丸正弁護士(大阪弁護士会)は、「有名企業だから、大手だから安心、とはいえない。サービス残業などの違法行為がないかきちんと見極めよう」と呼びかけた。
学習会に参加した龍谷大3年の吉瀬大策さん(21)は「インターネット上にはブラック企業の情報は多いが、真偽がはっきりしない。自分なりの判断基準を持ち、足を使って情報を集めることが大事だと感じた」と話した。
同じ日、大阪市の大阪経済大では、経済学部の伊藤大一(た・いち)講師(社会政策)のゼミ生らの研究発表「追跡!ブラック企業」があった。3年の堤秀明さん(21)は、残業代未払いの違法行為が発覚した企業や社員が過労死の労災認定を受けた企業などについて、公表された資料をもとに分析した結果を社名を交えて報告した。
研究のきっかけは、高校生の時に飲食店でアルバイトをした際、社員が朝早くから夜遅くまで上司の怒声を浴び、休憩もなく働く様子を目にしたことだ。「ブラック企業の見分け方を知っているかどうかで人生が左右される」と感じたという。
リクルートの調査によると、2011年3月卒業予定の大学生、大学院生に対する民間企業の求人倍率は1・28倍で、前年の1・62倍から大きく低下。「新・就職氷河期」の到来をうかがわせる低水準となった。一方、ハローワーク経由の求人倍率(有効求人倍率)は0・55倍(今年9月時点、厚生労働省統計)と、新卒以外はさらに厳しい。文部科学省と厚生労働省がまとめた10月1日時点の就職内定率は、前年同期比4・9ポイント減の57・6%と、統計を取り始めた1996年以降で最低という深刻な状況だ。
就職活動中に聞いた「企業の本音」を、卒業論文の題材にした学生もいる。関西大4年の女子学生(22)は、関西を中心に約150社の説明会や面接に参加し、友人の経験談も聞き取って、問題があると感じた企業をいくつかのタイプに分類した。
「うちは残業代を出さない」「女性は幹部にしない」などと違法性の強い働かせ方を隠さない「公言型」、若手の離職率が高い理由を問われてもきちんと答えない「説明回避型」、学生側が報道を基に「過労死した人、いますよね」と問うと「いません」とうそをつく「虚偽説明型」……。
この女子学生は「これだけ就職戦線が厳しくなると、学生は『少々の理不尽なことには目をつぶらなければ』という発想になりがち。それが経営者側の強気の態度を招いている面もあると思う。後輩たちに就職活動の参考にしてもらえたら」と話す。
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〈ブラック企業〉 残業代の出ない「サービス残業」が常態化したり、休日や休憩時間をとらせてもらえないなど違法性の強い働かせ方を強いる会社を総称した言葉。もともとはインターネット上のスラング(隠語)として使われていたが、2008年発行で、実話をもとにした書籍「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺(おれ)は限界かもしれない」(新潮社)や、同名の映画(昨年公開)などで広く知られるようになった。
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【ブラック企業の可能性を判断するうえで参考となるポイント】(松丸正弁護士らによる)
・社員規模に対する求人数の割合が高い。まとまった人数の求人広告を年中ひんぱんに出 している(離職率が高い可能性)
・「〇年後には独立可能」「〇年後には年収〇〇万円」などのわかりやすい「夢」を提示するが、その根拠をはっきり説明しない(過酷な勤務環境を我慢させるための誇張であ る可能性)
・給与モデルについて「平均初任給〇〇万円」などと比較的高い数字を示すものの、内訳 の説明があいまい(長時間の残業をこなさないと得られない額を基本給であるかのよう に偽っている可能性)
・求人広告で募集していた職種と、説明会や面接で聞いた実際の仕事内容に大きなずれが ある(不人気な職種に新人を配置するため募集職種をごまかしている可能性)