官僚の勤務データは“リアル”? 人事院に直撃 (7/16)

 官僚の勤務データは“リアル”? 人事院に直撃

NHK Web News 2019年7月16日 19時49分
 
これまでお伝えしてきた霞が関の過酷な勤務。(『霞が関のリアル』「眠らない官僚」などをご覧ください)取材しながら、ずっと「気になる」勤務データがありました。その疑問を官僚組織全体の勤務状況を把握する人事院にぶつけてみました。(霞が関のリアル取材班記者 荒川真帆)
 
データと取材実感に違いが…
ずっと気になっていました
私が気になっていたデータは、人事院が年に1度まとめる「公務員白書」に載っていました。そこには、平成29年の超過勤務(=残業)が720時間(※注釈)を超えた職員(約20万人)の割合は7.0%(本府省)と記されています。
 
この数字を見た時、「えっ、本当にこんな程度?」と疑問を持ちました。それは取材実感とずいぶん違うように感じたからです。
「7%」ですから「14人中1人程度」の割合。「霞が関のリアル取材班」に寄せられる投稿や、取材した官僚たちの話では、省庁による違いこそあれ、月100時間超えの残業はザラ、日々過酷な勤務の実態はそこここに、との印象を持っていました。
 
もちろん当初から人事院にも「こんな程度の数字なんですかね?」と尋ねていました。
 
すると、担当者は「国家公務員全体で見ればそういう結果になっています」との答え。「国の調査だし、実際はこうなのかな…」と思いつつも違和感は消えませんでした。
 
※注釈…人事院規則は月の残業の上限を原則45時間。国会業務が多い場合でも年間の上限を720時間に設定。
 
国と民間の調査結果… こんなに差が!?
そんななか、官僚の勤務実態に関わるハッとするデータが集まったと聞きました。800人を超す官僚にインターネットを使って行われた調査で、さきほどの人事院と同じく「年720時間」を超えているか聞いたところ、その割合は実に63.6%に上っていたのです。人事院の出した「7%」という結果とはずいぶん開きがあります。
 
調査を行ったのは、家族に官僚がいる廣田達宣さん(30)です。廣田さんは、会社を経営していますが、官僚のあまりの働き方に疑問を持ち、「官僚の働き方改革を求める国民の会」という民間団体を設立。今回、この調査を実施したといいます。
 
結果について廣田さんはこんな風に話します。
「過労死認定された高橋まつりさんの件があって以来、長時間勤務に焦点が当たりましたが、働き方改革の旗振り役であるはずの国で働く人たちは同じくらい、過酷な状況にあり、いつ倒れてもおかしくないのに注目されない。強い危機感をおぼえます」
 
専門家はどう見る?
どちらがより実態を反映した勤務データなのか。
 
人事院の有識者懇談会の委員を務めるなど、国家公務員の働き方に詳しい、早稲田大学の稲継裕昭教授に話を聞いてみました。
すると稲継教授は「民間のアンケート結果は、サンプル数やその手法から、精緻な調査とは言えません。では、人事院の調査が正確な実態かといえば、そうとはいえないと思います」ときっぱり。
 
いったいなぜでしょうか?
「民間の調査はウェブ上で回答を求める形なので、やはり回答者の属性に偏りが出る部分はあると思います。つまりこの問題に意識が高い人たちが答えている可能性があるということです。ただ、一定の実態を反映しているとは思います」
 
「一方、人事院の調査は、公式の調査としてはもちろん信頼性はあります。ただ、これは各省からの『超過勤務手当がついた超過勤務時間』をもとに、算出されている数値です。国家公務員の残業の多くは『サービス残業』が実態ですから、その部分が人事院の調査には反映されない。つまり、人事院の7%という数字は、実態を表すものにはなっていないと思います」
 
これまでも記事にしましたが、霞が関では「サービス残業」が横行しているようです。
 
例えば、残業時間が100時間を超えても、実際に残業手当に反映されるのはその3分の1程度の30時間程度にしかならないといった具合です。
 
稲継教授は、人事院の調査は、この超過勤務手当分の「残業時間」しか集約されていないため、「正確な実態ではないのでは」と指摘したのです。
稲継教授はこうもいいました。「人事院や内閣人事局は、サービス残業部分も含めた本当の実態を調査すべきだと思います。その実態を明らかにできるのは国しかないのですから」
 
人事院にも聞いてみた!
少しずつ人事院のデータの意味がわかってきました。やはり最後は、もう一度、人事院に直接話を聞くしかなさそうです。
私はそこでこの人に直撃することにしました。
 
人事院・職員福祉局職員福祉課長を務める役田平さんです。
役田課長は、さきほどの廣田さんが先月20日に衆議院会館で国会議員に調査結果を報告した時も、傍聴されていました。
 
手元の資料にマーカーを引いたりメモを取ったりと、そこには真摯(しんし)な姿勢がみてとれました。
 
私は役田課長に疑問をぶつけてみました。
 
(記者)人事院の調査は、サービス残業の時間が反映されていないのでは?
 
(役田課長)
「超過勤務は、その命令が上司からあってそれに基づき仕事をするものです。私たちの調査はその命令が出た分をもって調査結果に反映しています。確かに、命令はないものの、何となくの雰囲気でやらないといけないので、(職場に)残っているというのも現場であると思います。超過勤務の『命令』と『その職員が実際に職場にいた時間』とが切り離されていて、そういう意味でギャップがあるのは、そうだろうと思います」
 
「実態を表していない」とはいわないまでも、ある程度、人事院の調査と実態がかい離していることは認識されているようです。
 
そのうえで、もう一問。
 
(記者)だったらもっと詳細な実態調査は検討しないのですか?
 
(役田課長)
「この4月から人事院規則が出来あがり、これまでより勤務の上限値の拘束力を上げて、新たに各省庁に勤務管理を義務づけました。一方、人事院がいま公表している調査結果は、H29年の結果です。つまり、その時点では勤務時間の上限は『努力義務』であって、720時間の上限値を超えて仕事をしても『法令違反』とはなりませんでした。もちろん長時間勤務はいいことではありませんが、新しいルールが入る前の調査結果では違反でもなんでもありませんし(人事院が)指導是正する根拠にはなりません。この4月以降、各省庁に働き方の改善、規制を強化していますし、仮に720時間を超えて働かせた場合は各省庁に説明責任が生じます。春からの人事院規則ではこれまでよりも、より拘束力のある形で示しているので、災害時などを除き、上限を超えるような勤務は想定はしていません」
 
つまり、「ことし4月に、しっかりとしたルールができる以前の調査結果だから、詳細な調査を新たにする予定はない」とのことのようです。
 
役田課長によると、この春以降、各省庁で適切に勤務管理が行われているはずで、720時間超えは原則起きない。仮に超えていても、それは各省庁がしっかり説明すべきことだということです。
 
しかし、取材していると、4月以降も結構な残業が続いているように感じるのですが…。
ちなみに冒頭の公務員白書には、その前文で人事院の役割についてこう記されています。
 
「労働基本権制約に対する代償として、職員の利益の保護を図ること」
 
人事院はこの条文の持つ意味をどうお考えでしょうか?
 
この4月以降、民間企業では働き方改革が一斉に始まり、勤務も厳格に管理され、違反すれば罰則もあります。官僚には確かに労働基準法が適用されませんが、やはりその旗振り役が過重な働き方を改めず、しかも勤務実態さえ正確に把握されていないというのはおかしいと思います。
 
皆さんはこの問題、どう考えますか?ぜひ、民間、霞が関、それぞれの方々の意見、お待ちしています。
 
霞が関のリアル
 
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