『週刊エコノミスト』 2010年9月14日号
橘木俊詔『日本の教育格差』岩波新書、800円+税
著者は『日本の経済格差』(岩波新書、98年)で格差と貧困が拡がっていることをいち早く明らかにした。そして『格差社会』(岩波新書、06年)を出した後は、学歴社会の研究に挑戦してきた。その著者が満を持してまとめたのが本書である。
著者によれば、学歴格差には?中卒、高卒、大卒などの差、?名門校と非名門校の差、?最終学歴段階で学んだ科目の差があり、それぞれが職業や昇進や賃金に影響を与える。
学歴格差の背景をなす大学進学率は、戦後いくつかの節目を挟んで大きく変化してきた。55年〜60年頃にはまだ10%にとどまっていたが、60年から75年までの15年間に40%まで上昇した。その後、90年代半ばまで横這で推移したが、95年以降、再び増加に転じ、最近では50%を超えるに至っている。
その結果、いまでは学歴格差は、大卒と高卒だけでなく、?名門大学卒、?普通の大学卒、?高卒に三極化した(女性の場合は?に短大卒を含む)。
大学進学には親の年収差が大きく影響している。著者が紹介している研究では、大学進学率は年収200万円未満では28.2%、1200万円超では62.8%である。年収が400万円以下の層では、進学と就職が30%強でほぼ同水準であるが、それより年収が増えるにつれて進学率は上昇し、就職率は下降する。
最近では不況の影響で親の年収が低下して貧困が拡がり、進学をあきらめざるを状況が目立ってきている。
この背景には教育費の公費負担が低く、家計負担が高い日本の現実がある。著者が示しているOECDのデータによれば、日本の対GDP比の教育費支出は3.3%で、28カ国中下から2番目である。また、政府支出に占める教育費の割合は9.5%で、27カ国中最下位である。
OECDデータを元にした文科省の推計によると、学生1人あたりの高等教育の公費支出額は、米、英、独、仏とも9000ドルを大きく超えているのに対して、日本は4689ドルで、4カ国平均の半分にも満たない。
加えて日本では、学費が高いのに、奨学金などの学費援助制度が著しく貧弱である。
これでは教育格差は是正されようがない。著者は格差の是正策について具体的な提案をしている。それを考えるためにも、本書は一読に値する。
本書は、教育の経済学を旨としているが、家庭環境や教育の役割に関しては、随所で教育学、社会学、哲学・倫理思想にも踏み込んでいて参考になる。