第272回 今度の総選挙では反貧困投票一揆に立ち上がりましょう

この秋口からでしょうか、周囲の人びとから、高い支持率を得てきた安倍内閣も、消費税率の再引き上げが困難になり、沖縄の県知事選挙で敗ければ、解散・総選挙でしょうね、と聞くようになってきました。いま情勢はまさにそうなっています。

 
内閣府が17日に発表した本年7〜9月期の国内総生産(GDP)は、実質成長率が年率換算ではマイナス1.6%でした。四半期データでは2期連続のマイナス成長です。これでは「景気条項」による縛りがあろうとなかろうと、来年10月に予定されていた消費税率の10%引き上げに踏み切ることはできません。

「オール沖縄」の前那覇市長の翁長氏が、自民党が推す前知事の仲井真氏に10万票の大差をつけて圧勝した沖縄知事選は、安倍内閣にとって、経済情勢の悪化以上に大きな打撃であるとも言えます。沖縄のように安倍政権を追いつめようという世論が広がる前に、解散に打って出て、沖縄ショックを忘れてもらおうという魂胆も見えます。

私は今回の選挙は、消費税、沖縄の基地問題、秘密保護法、集団的自衛権、原発再稼働なども争点ですが、重要性の度合いにおいては貧困問題が真の争点にならなければならないと思います。その意味で、今度の総選挙は反貧困投票一揆のチャンスです。

日本社会の貧困化は昨日今日にはじまったことではありません。その指標となる数字を最近書いた拙稿からいくつか挙げてみます。

1) 5年毎に実施される「就業構造基本調査」によれば、男女の非正規雇用者は、1987年の850万人(19.7%)から2012年の2043万人(38.2%)に増加しました。女性にかぎりると1987年に607万人(37.1%)だった非正規は2012年には1394万人(57.5%)になっています。15〜24歳の若者は男女計で見ても今や2人に1人は非正規です。

2) 労働所得で見ると、先と同じ30年間に150万円未満層は18.9%から27.3%に、また150〜299万円層は24.8%から27.5%に拡大しています。合わせれば、在学者を除く雇用者総数に占める年収300万未満の層は、43.7%から54.8%に、11ポイントも高まったことになります。いまでは全雇用者の過半数は年収300万円未満です。

3) 賃金が下がり始めたのは1997年です。国税庁「民間給与実態調査」によれば、1997年に467万円であった年間平均給与は、2012年には408万円に下がっています。1人当たり59万円も減っているのです。2012年について雇用形態別にみると、正規が468万円、非正規が168万円となって、格差と貧困が広がっていることも驚きです。

4) 内閣府「国民経済計算」を見ると、雇用者報酬(全雇用者の賃金とボーナスに退職一時金と福利厚生費を合わせた額)は、1997年の278兆円から2012年の244兆円になり、この15年間に34兆円も落ち込んでいます。

5) 厚労省「国民生活基礎調査」によると、1世帯当たりの年間平均所得は1997年の658万円から2012年の537万円に121万円も低下しています。世帯類型別にみると、2012年には高齢者世帯は309万円、母子世帯は243万円となっています。

6) 厚労省「毎月勤労統計調査」によると、規模5人以上の労働者(パートタイム労働者を含む)の平均賃金(年収)は、1997年から2013年の間に、372万円から314万円になり、1人当たり58万円も低下しています。

7) OECDの年間平均賃金に関する国際比較でみると、1997年を100とした場合の2013年の平均賃金(名目賃金)は 韓国209、イギリス170、カナダ165、アメリカ163、フランス149、イタリア144、ドイツ133、日本88となっていて、日本だけが長期に下がり続けています。

8) 内閣府「国民経済計算」によると、1997年度に8%であった家計貯蓄率は、2012年度には0.8%に下がっています。2013年の「国民生活基礎調査」によると、全世帯中、前年と比べて貯蓄が増えた世帯は11.3%、減った世帯は41.3%で、減った理由で最も高いのは「日常の生活費への支出」でした。

9)「毎月勤労統計調査」の2014年9月結果(速報)によると、実質賃金指数は2013年7月から2014年9月まで15か月連続で前年比マイナスでした。

現在日本経済が抱えている困難の解決には賃金の引き上げが求められています。賃金の全般的な引き上げも必要ですが、それ以上に賃金の底上げが必要です。底上げは、企業頼みではできません。政府が企業に要請してもできません。労働組合の多くが企業内に取り込まれて交渉力が弱く、ストライキが打てない現状では、政治の力で最低賃金を大幅に引き上げるしかありません。それは低賃金労働者が大多数を占める非正規雇用者の貧困の改善のためにも、雇用の非正規化と外部化に歯止めをかけるためにも急がれる課題です。

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