第329回 過労死防止法施行後も過労死・過労自殺が増え続けています

厚生労働省は本年6月30日、2016(平成28)年度の「過労死等の労災補償状況」を公表しました。
過労死(過労自殺を含む)の労災請求は、実際に起きた事案の「氷山の一角」に過ぎません。過労死事件は、災害性の労災事件に比べて、労災認定率がいちじるしく低いうえに、夫や子どもが過労やストレスで死するか健康を害しても、遺家族は、労災補償についての無理解、会社への遠慮、労働組合の無支援、労働基準監督署の消極的対応などから、泣き寝入りをしてしまうことが多いことが知られています。そのうえ国と地方の公務員の過労死(公務災害)は、労災とは別制度になっているために、厚労省のデータには含まれていません。
今回取りまとめられたのは、2014年11月に過労死防止法が施行され、「過労死ゼロ」に向けての政府・厚労省の取り組みが始まって2年度が過ぎた時点での集計結果です。この間は企業のレベルでも残業の削減や年次有給休暇の取得促進の取り組みが大きく報道されてきました。にもかかわらず、この2年度間の経緯を見ると、過労死・過労自殺が減少に転じたと言えるような兆しは見出せません。
脳・心臓疾患では、労災請求件数は825件で前年度比30件の増、うち支給決定件数は260件で前年度比9件の増となています。
精神障害では、労災請求件数は1,586件で前年度比71件の増、うち支給決定件数は498件で前年度比26件の増となっています。
脳心・精神とも、請求件数も支給決定件数も前年度よりかなり増加していることがわかります。なかでもとくに注目されるのは、過労自殺に係わる精神障害による労災請求が4年連続で過去最高を更新していることです。図に示したように1999年度は155件でしたから、この間になんと10倍以上に増加したことになります。
労災認定件数でみると、昨年度の精神障害の支給決定件数は、若者に過労自殺やうつ病が多発していることを示しています。その証拠に、精神障害の支給決定件、総数498件のうちわけは、39歳未満が252件(50.6%)、うち30代が138件(27.7%)、20代が107件(21.5%)、10代が9件(1.8%)となっています。
近年では非正規労働者が全労働者の4割を占めるまで増加した結果、若者の労働環境が悪化し、入社早々から少数精鋭主義が強まって、人員は減っているのに仕事は増えるいっぽうという状況があります。仕事のスタイルも変化してきました。情報化で納期や開発をめぐって時間ベースの競争が強まってきました。携帯電話やメールやスマホの普及で仕事がどこまでも追いかけてきます。グローバル化やビジネスの24時間化で深夜労働も増えています。スピードや利便性求める競争も増加。仕事のオンとオフの境界があいまいになり、精神的疲労やストレスが増大しています。
こういう事情が若者のあいだでの過労自殺の増加を招いていると考えられますが、今回の労災認定状況の数字が示すように、過労自殺やうつ病が若者を中心に依然として増え続けていることは、過労死防止法施行後の政府・厚生労働省の過重労働対策が若者対策としては成果を上げるまでになっていないことを物語っている点で見逃せません。2011〜12年と比べ、内定率がずいぶんよくなり、有効求人倍率も高まり、人手不足感が広がっていることを考えると、問題は深刻です。
この点については次回に職場のパワハラやいじめと合わせて考えましょう。
               図 脳・心臓疾患および精神障害の労災請求の推移 
        (2016年度 厚労省、過労死等の労災補償状況から)

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