ワープア国家日本「同一労働同一賃金」で全員の給料を下げる本末転倒 〔2/16)

ワープア国家日本「同一労働同一賃金」で全員の給料を下げる本末転倒
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2020/02/16(日) 7:01配信 現代ビジネス

〔写真〕ワープア国家日本「同一労働同一賃金」で全員の給料を下げる本末転倒
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 2020年の春闘が本格化している。2月12日には、自動車メーカーなどの労組が経営側に賃金引き上げの要求書を提出した。

もはや日本人の給料が全然上がらなくなった「根本的メカニズム」

 今年1月8日に厚生労働省が発表した昨年11月分の毎月勤労統計調査では、物価上昇幅を考慮した実質賃金は前年比0.9%減と、2カ月連続の減少。名目賃金(現金給与総額)も0.2%の減少となっており、賃上げ交渉がこの春闘の大きなテーマだが、政府による「働き方改革」の推進を受けて、今年の春闘では雇用制度改革もテーマとなる。

 この「働き方改革」が今、様々な歪みを産み出している。いわば“官製ワーキングプア”が蔓延し始めているのだ。

ワープア国家日本「同一労働同一賃金」で全員の給料を下げる本末転倒
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残業抑制で「働いてるのに給料は減る」
2015年12月25日に元電通社員の高橋まつりさん=当時(24)=が自殺し、その原因は最長月130時間の残業などにあったことが明らかとなり、違反残業廃止の社会的気運が高まった。政府は「働き方改革関連法」として、2019年4月から原則として月間45時間、年間360時間の時間外労働時間(残業時間)を上限とする「罰則付き残業規制」を施行した。違反した場合は、罰則として6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される。

 だが、残業削減は実態として、「就業時間後は残業禁止のため仕事ができないので、早朝出勤をしている」(製造業)、「残業が認められなくなってから、自宅で仕事をする時間が倍になった」(教育関係)というように、実際は残業であるにもかかわらず、“賃金が支払われない”サービス残業の増加につながっている。

 その上、「残業を削減するために、人員の増強(主に非正規雇用)を行った結果、人件費が増加し、会社は従業員の給与を抑制し始めている」(サービス業)や「基本給が上がらない中で、これまでは残業代が生活費の糧となっていたが、残業が出来なくなったことで実質的に給与が大幅に減少した」(金融業)といったように、従業員の生活にまで影響を及ぼしている。

 それだけではない。昨年12月4日には、公立学校教員の労働時間を年単位で調整する「変形労働時間制」の導入を柱とした「改正教職員給与特別措置法」が成立した。「変形労働時間制」は、繁閑により一日の労働時間を自由に調整することができる制度で、政府は、「教員も夏休み期間中にまとまった休日を取ることができるようになる」などのメリットを強調している。

 しかし、公立学校の教員は「教職員給与特別措置法」で給料月額の4%相当額を支給する代わりに残業代を支払わず、超勤4項目(実習関連業務、学校行事関連業務、職員会議、非常災害等の緊急措置など)を除き時間外労働を命じることはできないと定められている。例えば、本来は時間外労働の対象とすべき部活指導や補習などは、超勤4項目に含まれないため「教員の自発的行為」として残業代は支払われない。

 それでは、そもそも残業代が支払われないのに、「変形労働時間制」を導入して労働時間の調整を行うのは何故なのか。「根本的に長時間労働が多いことや、本来は時間外労働となるべき超勤4項目以外の仕事について、『変形労働時間制』を導入することで時間外労働の枠から外すことが狙いではないか」(30代、中学教員)という疑念が出てくるのも致し方ないだろう。

 教員の中からは、「教員をモデルケースとして『変形労働時間制』を実施し、やがては民間企業にも導入を進めていく狙いではないか。そうすれば、民間企業でも労働時間の調整を行っているという名目で、残業代を払わなくてもよくなる」(同)との指摘も出ている。「労働時間の調整は従業員本人の責任なので、残業代を支払う必要がない」となれば、民間企業経営者は喜んで導入するだろう。

給料を減らしてボーナスの原資に
変形労働時間制の導入は今後の懸念材料だが、すでに大きな歪みが起こっているものもある。

 改正地方自治法などにより、今年4月から新制度「会計年度任用職員」がスタートする。これにより、すべての非正規公務員にもボーナスが支給されることになる。半面、非正規公務員の給与や手当を削減する地方自治体が増加している。つまり、給与や手当を削減することでボーナスの原資にしているわけだ。

 地方自治体全体の非正規公務員は64万3000人。平均月給は17年度の事務職員で14万5000円と低額だ。各地方自治体では非正規公務員の数が激増しており、今や地方公務員の「3人に1人」は非正規公務員となり、正規公務員との格差が問題になっていた。

 「会計年度任用職員」は正規公務員と非正規公務員の格差是正を目的に導入されるのだが、これに反して、地方自治体では財政悪化を理由に給与や手当の削減を行う自治体が相次いでいる。

 単純計算で1回のボーナスが20万円とした場合、月額3万円強が月給から減額されることになり、平均月給14万5000円は11万円台となる。20代で都下の市役所に勤める非正規職員は、「これまでの給与でも生活はカツカツだったが、実際に3万円程度が減額されはじめており、もう生活はできない状態。市役所を辞めるつもり」と悲壮感を漂わせている。

 こうした動きに対して今年1月4日、総務省は「フルタイムで働いていた人の勤務時間を合理的な理由もなく短くしたり、ボーナスの支給に合わせて毎月の給料を減らさないように」との通知を各自治体に出しているが、どれほど歯止めになるかは不透明だ。同省によると、非正規公務員に対するボーナス支給に伴う人件費は約1700億円だが、これは地方交付税として自治体に配分する方針だ。

 本来ならば、正規公務員との格差是正のために実施される非正規公務員へのボーナス支給という制度が、非正規公務員の本給の減額につながり、一層の生活苦を招く原因になるという“本末転倒”の事態を引き起こしている。これにより非正規公務員の退職が相次げば、行政サービスの低下にもつながることになりかねない。

「同一労働同一賃金」でみんな低賃金に
安倍晋三政権が進める「働き方改革」の中でも目玉の一つが、「同一労働同一賃金」だ。今年4月から「同一労働同一賃金関係2法」が施行される。「パートタイム・有期雇用労働法」では、正規社員か非正規社員かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保するため、企業は非正規社員のすべての手当てを正規社員並みに引き上げるか、正規社員の待遇を非正規社員並に引き下げるかを行わなければならない、と定められている。

 このため、例えば、日本郵政グループなどでは正規社員の手当引き下げを正規社員に通知するなど、“格差是正”の名の下に正規社員の手当引き下げを行う企業が増加している。

 2018年1月22日に安倍首相は施政方針演説で、「同一労働同一賃金をいよいよ実現する時がきた。雇用形態による不合理な待遇差を禁止し、『非正規』という言葉をこの国から一掃していく」と意気込みを語った。だが、「同一労働同一賃金」の実現が、正規社員の待遇悪化につながるのでは、これもまた“本末転倒”の施策としか言いようがない。

高い方を引き下げては本末転倒
2月6日の拙稿「外国人に優しくない国・日本…働くのも学ぶのも、生きるのも厳しい現実」で外国人労働者問題を取り上げたが、実はこの外国人労働者問題も、雇用制度の“歪み”を産み出している。

 政府は2018年12月に「改正出入国管理法」を成立させ、本格的な外国人労働者の受け入れに乗り出した。この時に、外国人に対する報酬額は日本人と同等以上とすることを原則としている。これは、外国人技能実習制度で多くの失踪者が出ていること、外国人技能実習生に対する「低賃金」「過重労働」などの過酷な労働が明らかとなり問題化したことへの対応だった。

 だが、「外国人に対する報酬額は日本人と同等以上とする」という原則は、企業に悪用されている。

 企業は外国人労働者に対して労働力と共に“安い賃金”を求めている。その結果、「非正規を含めて、社員の8割は外国人労働者。最近、外国人労働者の賃金が少し上がり、日本人の賃金が大きく下がった」(清掃業)という。つまり、外国人労働者の賃金を引き上げて賃金水準を合わせるのではなく、日本労働者の賃金を引き下げて、外国人労働者と日本人労働者の賃金を同等にしようとする企業が出ているのだ。

 時間外労働(残業時間)の削減、公立学校教員への「変形労働時間制」導入、非正規公務員へのボーナス支給、「同一労働同一賃金」実現のための正規社員と非正規社員の均等・均衡待遇の確保、外国人労働者の賃金是正、そのいずれもが格差の是正などを行い、生活水準を向上させるために考えられたはずだ。

 しかし、実際に行われているのは、格差の是正を行うために低い給与を引き上げるのではなく、高い方を引き下げること、それによる生活水準の低下だ。

 「働き方改革」はその施策を通じて、様々なかたちで“官製ワーキングプア”を作り出している。本当に生活水準の向上に資する施策となるよう、早急な見直しが必要だ。

鷲尾 香一(ジャーナリスト)

 

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