<働き方改革の死角>休日なのに有休!? 企業、罰則回避ですり替え横行 (2/23)

<働き方改革の死角>休日なのに有休!? 企業、罰則回避ですり替え横行
https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/202002/CK2020022302000124.html
東京新聞 2020年2月23日 朝刊

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働き方改革の一環で導入された企業に対する有給休暇の取得義務付けをめぐり、企業がもともと休日と決めていた日を勤務日に変え、その日に有休取得するよう促すケースが相次いでいることが明らかになった。社員の休みを増やすのが制度の本来の目的だが、この手法が横行すれば休みは増えない上、自由に取れる有休も減ってしまう。 (池尾伸一)

 「就業規則を変えます」。昨年十一月、都内の中小メーカー会議室。集まった社員に総務部長が切り出した。「来年から土曜日のうち三日を勤務日にします。夏期休暇の二日も勤務日にし、それらの日に有休を取ってもらいます」

 四十代のAさんは首をかしげた。「これは変だ」

 同社では土曜日は休業日だったし、夏も八月のお盆休みに加え、好きな時に二日休めるルールだった。それが有休に置き換えられれば、合計五日の有休が自動的に消化させられてしまう。Aさんは以前、病気し入院などで十三日ほど有休を取った。「有休を強制取得させられるなら同じように病気した場合、有休が足りず欠勤扱いになってしまう」。子供の学校行事や急病で有休を使う子育て中の社員も困るはず。「こんな不利益を一方的に押しつけるなんて」。Aさんは憤る。

 連合にも相次いで相談が寄せられている。有休関連の相談は二〇一七年、一八年とも七百五十四件だったが、昨年は五割増の千百十四件に急増。年末年始休みが就業規則変更で勤務日にされた例など「もともとの休みを有休で取らされたとの相談が目立つ」(連合幹部)という。

 本年度から社員に年間最低五日の有休を取らせることが企業に義務付けられ、罰則も科せられる。社員の希望を聞き、有休予定日を設定するのが本来のあり方。だが有休増で人手が足りなくなるのを懸念する企業が、実質的に休みを増やさない抜け穴的な手法に出ているとみられる。

 こうした手法は社員にはデメリットばかり。休日が実質的に増えない上、病気や緊急時に備えて残してある有休が食われる。新型コロナウイルスに関連し、病気休暇制度のない企業では有休で自主的に休む検討をしている人もいるとみられるが、この場合も自由に休む妨げになりかねない。

 労働問題に詳しい佐々木亮弁護士は「従来の休みを有休にすり替えるのは社員の休みを増やす法律の趣旨から外れている。企業が押しつけてきた場合、働く人は労働基準監督署や労組、弁護士などに相談してほしい」と指摘。政府にも「見掛けだけ有休取得率が上がっても意味がない。企業が従来の休日を減らしていないか実態を調べるべきだ」と注文をつけている。

<有給休暇の取得義務付け> 有給休暇は、労働者が好きな時に取れ、給与も保証される制度。同じ企業に6カ月以上勤めていれば年10日、6年半以上なら20日など雇用期間に応じ取る権利がある。取得率が50%程度と低いため、2019年4月から年10日以上の有休が与えられる社員には最低5日は取得させることを企業に義務付けた。違反すれば社員一人当たり30万円以下の罰金が科せられる。企業は社員の希望を尊重する形で取得予定日を決めるルール。

 

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