格差拡大で、新階級「アンダークラス」が出現 橋本健二・早稲田大教授 終わらない氷河期〜疲弊する現場で
https://mainichi.jp/articles/20200317/k00/00m/040/120000c
毎日新聞2020年3月19日 07時00分(最終更新 3月19日 07時00分) 牧野宏美
〔写真〕橋本健二・早大教授=東京都豊島区で2020年3月2日午後3時57分、牧野宏美撮影
データを駆使し、日本社会の階級構造を浮き彫りにしてきた社会学者の橋本健二・早稲田大教授は、バブル期以降、日本で格差が広がり始め、非正規雇用で所得の低い新たな階級「アンダークラス」が出現したと分析する。アンダークラスの人たちは増え続け、非正規から抜け出せないまま中高年となった「就職氷河期世代」も含まれる。なぜこんな状況に陥ったのか。「今後も格差は拡大していく」と予言する橋本教授に、詳しく聞いた。【牧野宏美/統合デジタル取材センター】
戦後の日本は、資本家(企業経営者)、旧中間(自営業者)、新中間(ホワイトカラーと専門職)、労働者の四つの階級に分かれていると見ていました。高度経済成長期は労働需要が高く、どの産業、どの企業規模でもおしなべて賃金は上昇傾向で、初任給ベースでは大企業と中小企業に賃金格差はなくなっていた。男女や学歴による賃金格差も縮小し、「1億総中流」の時代でした。
しかし、高度経済成長期が終わって労働需要が低下すると、企業でコストカットなどの「減量経営」が始まり、正規雇用の数が伸び悩みます。この時期からパート労働者が増えていき、当初は既婚女性が中心でしたが、バブル期の1980年代終わりになると、若年層まで非正規雇用が拡大しました。「フリーター第1世代」です。バブル期は正規雇用が増えたと言われますが、それは主に大学の新卒者に限ったもので、多くは非正規でした。
所得や資産の格差をはかるジニ係数を見ると、80年代から格差が広がり始め、90年代に拡大。2000年代には社会が大きく変質し、10年代には巨大な下層階級「アンダークラス」がはっきりと姿を現しました。そこで4階級のうちの労働者階級を「正規労働者」と「非正規労働者」(アンダークラス)に分けて5階級ととらえ、格差の構造を見る必要が出てきました。
90年代に格差拡大が言われ始めた頃、高齢化が原因だと指摘する研究者がいました。高齢者は定年後に再就職するかどうかや所属していた企業規模で所得に差が出やすいから、高齢者が増えて格差が拡大したように見えるだけだ、という理屈です。しかし、就職氷河期に入り、若者の間でも正規と非正規で所得に大きな差が出るようになった。これが格差拡大に影響したと言えます。
では、アンダークラスにはどんな特徴があるか。私の定義では、非正規労働者のうち、夫のいる女性(パート主婦)を除いた人たちを指しま…