非正規の手当・賃上げ模索 来月から同一労働同一賃金 対応遅れる企業も (3/28)

非正規の手当・賃上げ模索 来月から同一労働同一賃金 対応遅れる企業も
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2020/3/28付日本経済新聞 朝刊

正社員と非正規社員の不合理な待遇差を禁じた「同一労働同一賃金」の適用開始が4月に迫り、大企業が対応に追われている。非正規社員に正社員と同額の手当の支給や賃上げなどを決める企業が相次ぐが、対応が決まらない企業も少なくない。非正規社員の働きがいを高めることで、生産性向上や消費の押し上げ効果が期待できる一方、企業の人件費負担が大きくなる可能性もある。

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同一労働同一賃金は働き方改革関連法の施行に伴い、大企業では4月から、中小では1年遅れの2021年4月から適用される。労働者の4割を占める非正規社員の待遇改善が期待されている。

NTTグループは4月から勤務シフト変更や災害復旧対応などに対する一部の手当を非正規社員も正社員と同額・同基準で支給すると決めた。グループではコールセンターや保守などで働く非正規社員が3万人強いる。19年7月から順次、慶弔休暇の取得を可能にするなど対応を進めてきた。

待遇改善相次ぐ

手当や福利厚生は差があった場合に合理的な説明が認められにくいとみて、改善する例が目立つ。りそな銀行と埼玉りそな銀行は4月から正社員に支給していた子育て手当を勤務時間や業務範囲が限定される「スマート社員」とパート社員にも支給。新生銀行も有期雇用が通算5年を超え、無期雇用に切り替えた「業務限定社員」と契約社員に家賃補助を支給する。

非正規社員の賃金水準を引き上げる動きもある。千代田化工建設は「一律全員ではないが、賃金を正社員と同水準に引き上げる方向で検討している」と話す。清水建設は派遣元企業の要請に応じて賃上げを決めた。職種によって異なるが、派遣単価がおおむね5%程度増えると見込んでいる。

流通や外食などの労働組合が加盟するUAゼンセンがまとめた19日時点の20年の春季労使交渉の妥結状況は、パート1人当たりの賃上げ率が5年連続で正社員を上回った。人手不足への対応もあり、非正規社員の賃上げが進んでいる。

一方で、賃金水準を正社員に近づければ企業の人件費負担は重くなる。日本通運は19年から契約社員約6千人を正社員と同じ待遇に切り替えた。20年3月期の人件費は前期から150億円規模で増える見通しだ。

賃金のなかでも差が大きいのは賞与だ。日本経済研究センターなどによると、30〜34歳の非正規雇用の女性の所定内給与は、同年代の正社員の約75%に相当するが、賞与だと16%にとどまる。男女とも賞与の差を所定内給与並みの差にすると、国内賞与の総額は年間で約8兆円増えるという。

イオン子会社のイオンリテールは約11万人のパート社員らを18年から無期雇用に切り替えた。グループ全体で組合加入のパート従業員は20万人を超えるなど対応が進む企業の一つだが、それでもパート社員の一時金は半期で数万円とされ、正社員との差は大きい。

人件費増に懸念

手つかずの企業が多い実態も浮かび上がっている。人材大手のエン・ジャパンが1月中旬にまとめた調査では、従業員数が300〜999人の企業で「あまり対応できていない」「まったく対応できていない」が合計54%に達した。

「正社員のメリットがなくなり、人材流出の懸念がある」(IT企業)といった声や「アルバイト従業員が多く、人件費がさらに上がる」(サービス関連企業)などの懸念も出ている。法律の解釈に曖昧な部分も多く、UAゼンセンの幹部は「依然として様子見のところも多い」と話す。

背景には働き方改革関連法では同一賃金に対応しなかった場合の罰則を設けていないことがある。「正規と非正規雇用の格差しか問われないため、賃金差があるまま正規に替えるケースも出てくるかもしれない」(日本総合研究所の山田久副理事長)との指摘もある。 

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