森崎巌さん「感染症拡大防止のために呼び掛けられるテレワーク ガイドラインを理解し不適切な運用の排除を」

森崎巌「感染症拡大防止のために呼び掛けられるテレワーク ガイドラインを理解し不適切な運用の排除を」


感染症拡大防止のために呼び掛けられるテレワーク
ガイドラインを理解し不適切な運用の排除を

政府はテレワークを普及・促進

 厚労省は、職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた取り組みのーっとして「感染リスクを減らす観点からテレワークや時差通勤の積極的な活用の促進」を呼びかけています。また、政府はそれ以前から、東京五輪開催時の交通混雑の緩和に向けてテレワークの実施を呼びかけ、「レガシーのーつとして定着させる」などとしています。さらに、テレワークに取り組む中小企業事業主に対して、その実施に要した費用の一部を助成する「時間外労働等改善助成金(テレワークコース)」を設けています(2019年度)。

雇用型と自営型のガイドライン

 テレワークには、雇用型と自営型の二つのタイプがあります。前者には「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(雇用型ガイドライン)、後者には「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」(自営型ガイドライン)が定められており(いずれも2018年2月)厚労省はその遵守を呼びかけています。

 今回、感染症の拡大防止策として活用が想定されているのは、労働者の就労場所を自宅に変更する形態であり、多くは雇用型テレワークです。従って、雇用型ガイドラインを十分に理解し、不適切な運用を排除する姿勢が重要です。

長時間労働の助長するおそれ

 テレワークの特徴ですが、一般に?通勤時間の短縮、?育児・介護と仕事の両立、?ワーク・ライフ・バランスの実現等のメリットが指摘されていますが、これに感染症リスクの軽減も加えてよいかもしれません。他方、?長時間労働になりやすい、?仕事と仕事以外の切り分けが難しいなどの問題点が指摘されています。とくに、成果主義の賃金制度のもとで働く場合などは、通常の勤務と比べて長時間労働の抑制が難しく、十分に注意する必要があります。

雇用型ガイドラインのポイント

 このような視点から、雇用型ガイドラインの要点を見ていきましょう。

 もっとも重要なことは、労基法、労安法、労災保険法等の「労働基準関係法令が適用されるjとしている点です。また、労働時間管理にあたっては、「労働時間適正把握ガイドライン」(2017年1月)が適用されます。

 いわゆる「中抜け時間」の扱いが問題となりますが、待機などの指示がなく「自由に利用することが保障されている時間」であるに限り、休憩時間や時間単位の有給休暇として扱うことができるとしています。

 また、テレワークが前述のとおり、長時間労働(さらに深夜労働)になりやすいことから、「時間外・休日・深夜労働を原則禁止とすることも有効」としています。

 テレワーク導入の手続きも重要です。ガイドラインは、「目的、対象となる業務、労働者の範囲、テレワークの方法等について、労使間で十分に協議することが望ましい」、「実際にテレワークを行うか否かは本人の意志によるべき」としています。

雇用型ガイドラインの問題点

 ガイドラインには問題点もあります。ガイドラインは、次の2要件を満たす場合、事業場外みなし労働制を適用し得るとの法解釈を示しています。

?情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
?随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと。この場合、具体的な指示には、例えば、当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、これら基本的事項について所要の変更を指示することは含まれません。

 しかし、事業場外みなし労働制の適用が許されるのは、法文上「労働時間を算定し難いとき」(労基法38条の2)です。これを「使用者の具体的な指揮監督が常時及ばないとき」と置き換え、?と?さえ満たせばよいとする解釈は無理があります。むしろ、今日の情報通信機器を使った作業では、技術的に「労働時間を算定し難いとき」は想定し難く、事業場外みなし労働制の適用の余地はほとんどないと言うべきでしょう。     (全労働省労働組合 森崎巌)

全国センター通信(働くもののいのちと健康全国センター)No.250 (通巻260号) 2020年4月1日8面

厚生労働省
テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン

https://www.mhlw.go.jp/content/000553510.pdf

 


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(S.Wakita)テレワークをめぐる便宜的な厚労省の解釈への疑問を的確に指摘。昨年5月、ECの欧州司法裁判所が労働時間算定についての厳格な基準を定めるように各国に求める。テレワークについては、こうした厳格な基準に基づいて、長時間労働、不払い労働が出ないようにすることが重要だと思う。

 

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