<新型コロナ>非正規の雇い止め増加 雇用構造のもろさ露呈 現金給付で救済急務 (3/31)

<新型コロナ>非正規の雇い止め増加 雇用構造のもろさ露呈 現金給付で救済急務
https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/202003/CK2020033102100017.html
東京新聞 2020年3月31日 朝刊

新型コロナウイルスの感染拡大で、非正規を中心に多くの人たちが職を失う危機に直面している。有効求人倍率の高さなど雇用をアベノミクス成功の証拠とアピールしてきた安倍晋三首相だが、労働市場の中身は、非正規割合が高まり景気悪化のショックには極めてもろい構造が露呈している。人々の仕事と暮らしをどう守るかは重い課題だ。 (池尾伸一)

◆突然の契約終了通告
「もう雇い止めも覚悟している」

 日産自動車の栃木工場(上三川町)で、期間工として働く男性(47)が言う。コロナの影響による世界的販売不振と中国などからの部品供給の減少のダブルパンチの自動車業界。トヨタ、日産など大手各社は工場の一時停止による減産を発表。男性の働く栃木工場も四月六日から二十二日までの長期間、操業が止まる。昨春から三カ月ごとの契約で一年働いてきたが、「今の契約が切れる五月末で終わりになるだろう」。会社の寮にいるため、「仕事を失えば住まいもなくなる」と不安にさいなまれる。

 大阪府内の不動産会社で、住宅の設計をしていた二十代の派遣社員の女性は先週、四月末で契約終了と告げられた。昨年末にマンションを購入、ローンは夫と二人で払う。「いま仕事を失うとローンも返せない。この時期、職がすぐみつかるとも思えない」。働く人々の生活が揺らいでいる。

〔図〕雇い止めや事実上の雇い止めの例
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◆収入途絶えれば即生活危機に
二〇〇八年の年末。東京・日比谷公園にはリーマン・ショックで雇い止めや派遣切りにあった人々があふれ、支援団体の提供する炊き出しやテントで暖をとった

 この「年越し派遣村」の出現を機に、非正規労働の多さは問題化。民主党政権では製造業への労働者派遣を禁止する議論もあったが、企業の立場を重視する自民党の安倍政権は非正規を一段と増やす政策を推進した。一五年の派遣法改正では、それまで企業が派遣社員を使える上限が三年だったのを、働き手を代えればずっと派遣に任せられるようにし、正社員を派遣に置き換える流れを助長した。雇用されないフリーランスや個人事業主としての働き方も奨励。企業を人件費コストから解放する半面で安全網のない不安定な働き手が増加した。

〔図〕雇用に占める非正規労働者の推移
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 一方、非正規の低賃金労働は「貯蓄ゼロ」世帯を増加させた。昨年時点で23%と、二十年間でほぼ倍増。非正規切りで収入が途絶えれば、生活危機に直結する。

◆「正社員だけ守る差別やめて」
政府は、企業が従業員を解雇するのを防ぐため、雇用調整助成金を拡充、休業手当を払って従業員を休ませた企業に助成金を出す。

 だが、雇用助成金は、あくまでも企業が自分から申請しないと支給されず、休業手当の一定割合は企業が負担するルール。このため企業がコストを敬遠し、非正規は雇い止めを優先させる恐れがある。

 労働問題に詳しい宮里邦雄弁護士は「正社員だけを守るような差別はしないよう企業に指導し、助成金支出にもそのような条件を付けるべきだ」と指摘する。

 

◆モノ言えない非正規への対策を
働く人々に直接渡る現金給付など、所得補償も不可欠となりそうだ。リーマン時は金融危機が消費不振を招くまで一定の時間があったのに対し今回は需要が短期間で蒸発、所得の大幅低下などで人々の暮らしをすでに脅かしている。関根秀一郎派遣ユニオン書記長は「非正規は企業にモノを言えない弱い立場。現金給付や減税など直接生活を助ける対策が急務だ」という。
 

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