伍賀一道(金沢大学名誉教授) 「雇用・失業の新局面 ― 休業者600万人の衝撃」 (5/31)

 図7は役員を除く雇用者(事実上の労働者)の休業者(493万人)を雇用契約期間別に見たものです。およそ半分は無期契約ですが、残りは有期契約または雇用契約期間の定めの有無がわからないという人です。有期契約(174万人)のうち、6割は契約期間が1年以下です。短期契約の労働者はどの程度、これまでの職場に復帰できるでしょうか。休業者から失業者に移行する可能性が高いと考えられます。

図7 休業者(役員を除く雇用者)の雇用契約期間別内訳

 自営業主の休業者
 4月は多くの飲食店主や商店主が営業自粛や外出自粛要請のもとで休業状態にありました。図8は自営業主の休業者の推移を示しています。昨年4月と比較すると3倍に増えました。数十年にわたって暖簾を掲げて、多くの人に愛された居酒屋やレストランがコロナ危機のなかで閉店せざるをえないという例が全国で生じています。
 なお、図8の自営業主には個人事業主(フリーランス)は含まれていますが、「労働力調査」の定義によって家族従業者は休業者から除外されています。

 アルバイト学生の苦境
 これまで見たような休業者の激増は非正規労働者でもあるアルバイト学生の失職状態を反映していると思われます。バイト先の居酒屋やファミリーレストランが一時休店になって店長から「店を再開したらまた来て下さいね」と言われた学生は、「労働力調査」の対象となった場合、休業手当を支給されていなくとも休業者を選択するのではないでしょうか。休業者600万人の中には失職したアルバイト学生の一部も含まれているでしょう。
 3月から4月にかけてアルバイト学生は激減しました(図9)。この1か月で実に62万人の減です。リーマンショック後、派遣切りの嵐が吹き荒れていた2009年1月でさえもアルバイト学生は113万人でしたから(「労働力調査(基本集計)」)、今日のバイト労働市場は惨憺たる状況です。学生の多くは消費サービス関連産業でアルバイトをしてきましたから、コロナ危機の影響が直撃しています。学生に対する抜本的支援策を急がなければなりません。

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 図2のとおり、3月から4月にかけて休業者は249万人から597万人に、348万人増えました。これらは緊急事態宣言に伴って休業を余儀なくされた人々ですが、コロナ危機が長期化した場合、企業は休業手当を払い続けることができず解雇する可能性や、労働者自ら退職することもあるでしょう。休業者にとどまっていた人々が顕在的失業者(完全失業者)に転じる可能性が大です。
 休業者であっても休業手当をもらわずに自力でしのいでいるという人は事実上の失業者にほかなりません。アルバイトの仕事を失った学生が求職活動をあきらめていれば「労働力調査」では非労働力人口(上記の調査票の選択肢③)にカウントされます。このように非労働力人口の中にも事実上の失業者が存在しています。4月の完全失業者は200万人を下回っていますが、これはいわば表面的な数値にすぎず、休業者や非労働力人口の中の失業予備軍を含めると事実上の失業者はリーマンショック直後の300万人余(図1)をすでに超えているのではないでしょうか。
 休業者が完全失業者に移行することを防ぐためには休業手当の充実が急務です。同時に、希望する人には他の職種に転換できるように、生活保障とセットにした教育訓練の機会を保障する政策が求められています。

【訂正】5月6日の本HPに掲載した拙稿「最新の雇用・失業統計は何を示しているか」に以下の誤記がありました。お詫びして訂正します。
 4頁 (誤)「非自発的な離職(自己都合)」→ (正)「自発的な離職(自己都合)」

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