伍賀一道(金沢大学名誉教授) 「雇用・失業の新局面 ― 休業者600万人の衝撃」 (5/31)

 5月29日に本年4月分の「労働力調査(基本集計)」が公表されました。完全失業者、完全失業率ともに3月から悪化しました。完全失業者は13万人増加し189万人に、完全失業率は0.1ポイント上昇し、2.6%になりました(図1)。しかし、この数値はコロナ危機にともなう雇用の悪化を反映しているとは言えません。なぜなら「スティホーム」が叫ばれるもとで、求職活動がままならない人が増えているからです。実際に失職していても、「労働力調査」の調査期間中(月末1週間)にハローワークにでかけたり、求人情報誌をもとに求人先に連絡するなどの求職活動をしていなければ完全失業者に数えられません。
 マスコミが大きく報道したように、4月の「労働力調査(基本集計)」の衝撃的な結果は完全失業者の動向よりも休業者の激増(およそ600万人)に現れています。以下では「休業者」の増加に焦点をあててコメントします。

図1 完全失業者・完全失業率の推移

広がる一時休業
 いま売上高の急速な落ち込みによって事業所の規模縮小や休業、閉店などに追い込まれる自営業者や企業が急増しています。観光客の激減にともなって交通機関も大幅減便しています。中小企業だけでなく、大企業でも雇用調整助成金を使って社員を一時帰休させるケースが増えています。「日本経済新聞」が実施した調査によれば、大企業98社のうち、「雇用調整助成金を活用する、または活用を検討する」と回答した企業が50社に達しました。このなかにはホンダ、マツダ、ローソン、小田急百貨店、ANA、JR西日本、JR北海道など日本を代表する企業が含まれています。同紙は企業が内部にかかえる多数の「潜在失業者」が顕在的失業に転化する可能性に言及しています(「日本経済新聞」5月27日付)。
 雇用調整助成金は従業員に休業手当を払って一時休業させた企業に対して支給される制度ですが、この申請手続きの煩雑さのため、この制度を利用しないで従業員に休業手当を払うことなく自宅待機させる企業が、とくに中小企業に多くあるようです。
 コロナ危機が長期化するもとで、企業との雇用関係は維持されているけれども仕事ができない休業状態の人が急増しています。これまでも病気治療や産休・育休などで休んでいる労働者はいましたが、今日では本人の意に反して休業を迫られている事態があらゆる産業で広がっています。こうした休業者はどのくらいの規模になるのでしょうか。

「労働力調査」の休業者
 「労働力調査」の調査票では、「調査期間(月末1週間)に少しも仕事をしなかった人」*について、「①仕事を休んでいた、②仕事を探していた、③通学、④家事、⑤その他(高齢者など)」のいずれかを選択するようになっています。②を選んだ人は「完全失業者」に、③~⑤は「非労働力人口」に、①が「休業者」に数えられます。
 (注*) 「少しも仕事をしなかった」とは、月末1週間の調査期間に1時間たりとも収入を伴う仕事に従事していない状態をいいます。

 ところで、「労働力調査」は「休業者」を次のように定義しています。
 「休業者」は、仕事を持っていながら調査週間中に病気や休暇などのため仕事をしなかった者のうち,
 a. 雇用者(その仕事が会社などに雇われてする仕事である場合)で、仕事を休んでいても給料・賃金の支払を受けている者又は受けることになっている者
 b. 自営業主(その仕事が自分で事業を経営して行う仕事である場合)で、自分の経営する事業を持ったままで、その仕事を休み始めてから30 日にならない者をいう。
 ここで言う「雇用者」とは雇われている人のことですが、企業や団体の役員も含まれています。育児・介護休業中の人や**、病気休職中の人でも給料(または一部)をもらっている人は休業者に数えられます。いま問題となっているコロナ危機によって会社が経営不振に陥り、休業を余儀なくされ、休業手当を支給されている人が「労働力調査」の調査対象となった場合は休業者(上記の調査票の①)を選択するでしょう。
(注**)「労働力調査の記入の手引き」は、「雇用保険法に基づく育児休業基本給付金や介護休業給付金をもらうことになっている場合も、こうした給付は給料・賃金の代替と考えるのがより適切と考えられるので、給料・賃金をもらっているものとみなし、休業者とする。」と記載しています。

 しかし、給料の一部または休業手当をもらえるかどうか、はっきりしないまま、自宅待機になっている人や、さらに休業手当なしに貯金を取り崩しながら何とか生計をやりくりしている人も「仕事を休んでいた」と答えているのではないでしょうか。このような人が「労働力調査」の調査対象者になった場合、「労働力調査」の定義に従えば「休業者」に該当しませんが、他に選択肢はないため、やむなく上記調査票の①を選択した人が少なくないと考えられます。したがって600万人に達する休業者の大多数が賃金や休業手当などをもらっていると考えるのは甘いというべきでしょう。

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