清水亮宏(弁護士)労働組合で勝ち取った雇用化への道 ヤマハ英語講師ユニオン (6/10)

労働組合で勝ち取った雇用化への道 ヤマハ英語講師ユニオン
                 清水亮宏 弁護士

ASU-NETが継続的に支援してきたヤマハ英語講師ユニオンが、個人事業主として扱われていた英語講師の雇用化を勝ち取ることができましたので、ご報告いたします。

1 組合結成の経緯
ヤマハミュージックジャパン(以下、「ヤマハ」)は、いくつかの楽器店と契約し、音楽教室や英語教室の運営を委ねています。英語教室のレッスンを担当する英語講師は、ヤマハと契約を締結しており、形式上の契約形態は委任契約となっています。
しかし、教材やレッスンの内容をヤマハから具体的に指定されるほか、勤務時間や勤務場所も実質的に管理されていました。また、ヤマハは、契約形態を委任契約としているにもかかわらず、税務上は「給与所得者」として処理していました。働き方の実態はまさに「労働者」だったのです。
このような問題について疑問を抱いた講師の一人が、2018年4月に労働基準監督署に相談したところ「あなた方は労働者ではない」と門前払いされてしまいました。しかしその後、思いを同じくする英語講師が集まり、ヤマハに対し、税務上の扱いと契約形態が異なる理由などについて説明を求める行動を始めました。そのような中、講師の一人が故森岡孝二先生と繋がり、そこから、働き方ASU-NET代表理事の岩城穣弁護士、副代表理事の川西玲子さん、筆者(清水)と繋がりました。
講師の実際の働き方が労働者であった(使用従属性があった)ことや、既に集団で行動を始めていることから、“労働組合を結成してヤマハと団体交渉することがベストな選択肢”と確信し、労働組合結成に向けた準備を進めることになりました。
2018年10月に労働組合の役割や意義についての学習会を行った後、2018年12月に労働組合を結成しました。

2 雇用化に向けた交渉と成果
労働組合の結成後、ヤマハに対して、英語講師の雇用化を求める要求書を送付しました。その後、団体交渉を通じて、英語講師の働き方の実態が労働者であることの問題点、税務上給与所得者と扱っていることの問題点を説明し、英語講師全員を雇用化すべきであると訴え続けてきました。組合側の訴えにより、ヤマハ側から雇用化の方針が示され、英語講師の雇用化について概ね合意に至ったことから、雇用化に関する確認書を作成すべく交渉を重ねてきました。
確認書については、労働組合としてどうしても受容できない文言があり、調印には至りませんでしたが、2021年度中の英語講師の雇用化については概ね合意に至っており、英語講師の雇用化の道が開かれることになりました。
ただし、雇用化の対象(全員を雇用化するのか、委任契約の併存を許容するのか)、雇用化後の労働条件(正社員とするのか、給料はどのように計算するのか、労働時間をどのように考えるのか)など、労使間で意見の相違がある部分もあり、今後も粘り強く交渉していく必要があります。

3 ユニオンの状況について
結成大会に参加いただいたメディアに組合結成を報道いただいたほか、記者会見を通じていくつかのメディアに組合結成を報道いただいたことを皮切りに、全国の英語講師から加入の依頼があり、順調に組員数を増やしています。結成から約1年半ですが、北海道から沖縄まで、全国の英語講師が加入しており、組合員数は全講師の1割を超えました。
全国の英語講師がメーリングリストに積極的に意見を投稿し、組合員間の交流はLINEグループやメーリングリストなどを通じて行っています。メーリングリストでは、団体交渉の報告や文字起こしが共有され、全国の組合員がメーリングリストで意見を発信するなど、非常に活発な議論が行われています。そのほか、労働組合のHPの開設やリーフレットの作成など、広報にも力を入れています。

4 最後に
現在、「雇用によらない働き方」が注目を集めていますが、実態が労働者であるにもかかわらず請負や委任と扱われる問題や、過重労働・低報酬の問題などが指摘されています。労働組合を通じた交渉は、これらの問題の解決手段として有効ですが、そのことが十分に社会に共有されていない状況にあります。今回のヤマハ英語講師の行動を通じて、労働組合を通じた働き方を改善の意義について社会的に発信していきたいと考えています。

◇最近のニュース報道から
・英語教室講師と雇用契約へ NHK-TV-News 2020/6/8
・ヤマハ英語講師 コロナ休業補償ほとんど受けられず ABC-TV-News 2020/6/8
・補償ほぼなし講師生活苦 しんぶん赤旗 2020/6/2
・講師に雇用制度導入 ・私たち労働者じゃないの? 朝日新聞 2020/6/4

※「季刊誌ASU-NET 第15号」(2020年6月発行)より転載
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