休日の部活動・私学はどうなる?

 2020年8月31日の朝日新聞が、「休日の部活、教員の関与なくOK 23年から実施」と報じている。
 「休日の部活動は教員の長時間労働の原因となっていたり、指導経験がない教員の大きな負担となっていたりする。このため、文科省の改革案では、部活動は「必ずしも教員がになう必要のない業務」とし、休日は「指導に携わる必要がない環境を構築する」という方向性を定めた。」とのことである。
 休日の部活動を「地域部活動」と位置づけ、指導や大会の引率を任せよう、ということのようである。
 いかにも文科官僚が考えそうなことである。

 既存の部活動、またはその組織を保ちながら、改革しようとすると、このような形にならざるを得ない。
 教員の残業が問題となり是正勧告を受けたある私学では、すでにこの考え方は頓挫している
 その私学では、労働時間管理を行っていなかった。使用者はそのことをいいことに「残業時間は存在しない」と主張していた。一方で「固定残業代」と称した手当を支給していたことから、「残業は存在しない」という主張に矛盾が生じていた。管轄の労働基準監督署は、この違法残業状態を放置せずに、労働時間管理・36協定の締結・未払い賃金の支払いを命じた。
 当該私学の労働組合は、その交渉過程の中で、残業に関する業務内容を使用者と協議し、それまで「自主活動」として残業に認められていなかった部活動を「業務」として認めさせた。
 このことにより、部活動は業務として認められ、残業時間として参入されることとなった。

 まず、法的な問題は、36協定で規定されてい360時間の年間残業時間の上限である
 毎月土日に、土曜日4時間、日曜日8時間の部活動を行えば、一週間で12時間の残業が発生し、ひと月で48時間の残業が発生する。
 上記のある私学でも、労務担当理事が「部活動を残業として認めたら、360時間の上限なんて、すぐに超えてしまう」と思わず漏らしたことからも、部活動の実態が教員の労働時間を増やしていることは明らかである。
 ひと月48時間の残業時間を年間で考えると、576時間となる。軽く360時間を超えてしまうのである。月1週は「部活動を休んだ」としても、年間432時間である。
 これには、平日の部活動に関わる残業時間は参入していない。

 そもそも、休日に部活動を行っていると、法定休日を取得しておらず、健康な生活に留意している働き方と思えない。

 これらの問題を解消するために、上記の私学では、「外部指導員」の活用方針を打ち出した。放課後、休日の部活動を外部指導員に任せよう、ということである。この方針は、2019年度の段階で打ち出された。しかし、2019年度外部指導員を充足できた部活動は数が少なく、多くの部活動では部活動顧問が指導している。そこでは「部活動時間を労働時間として申請しない」サービス残業がはびこっている。
 「外部指導員を活用する」ということを口で言うのは易しい。しかし、部活動を責任を持って指導する「外部指導員」を進んで請け負う人材がどれほどいるであろうか。

 それは、中高生に多い「部活動の中で起こる事故や問題」に対する責任の問題があるからである。近年、学校で起こる問題については、多くの法律が制定されてきた。
 例えば、いじめについて、「いじめ防止法」が制定された。「部活動」は生徒の人間関係が濃密となる。当然、衝突も起こる。部活動中に何らかのトラブル、例えば喧嘩などが起こった場合、その報告や指導をどこまでお願いするのか、課題はおおい。
 さらに、怪我などの学校管理下での事故が起こった場合の責任の所在の問題である。学校管理下の事故については、その責任は学校にある、とすることが当然のこととして捉えられる。重度身体障害などになった場合の責任を学校が負うことが多い。その場合、「外部指導員」の責任をどのように考えるのか、大きな問題である。
 
 また、多くの「外部指導員」に対して、その手当が「ボランティア」と称して、「謝礼」程度のことが多い。公立中高の場合は「無償」の場合が多いのではないだろうか。私学の場合も、ひと月数千円程度の「謝礼」で依頼している場合が多い。これは「顧問」がいる、ということが前提だからである。

 当該の私学では、このような問題を解消することができずにいる。大学の併設校であるので、大学の部活動と連携しコーチを依頼するなどしているが、責任を大学生に負わせることはできないのは当然である。

 今の時点で考えられることは、学校の部活動を外部の団体に全面的に委託することである。しかるべき委託料を支払って、学校の教育活動から切り離すことである。場所の提供などを無償で行うことなど、その活動を支援することはできる。校舎の管理などに関し、外部団体と提携することも検討できる。
 
 教員の働き方改革という意味では部活動を教員の指導対象から切り離すこと、もしくは、部活動専門の教員を配置すること、つまり業務の切り離し、ということを人的にも明確にするしかないのである。

 また、学校で部活動をすることに対する感覚も変えなければならない。現在、部活動指導に対する費用は発生していない。これが「サービス残業」を生んでいる。教員を新たに配置すると人件費が増大するため授業料を値上げしなければならない。外部に委託するならば委託料が発生する。いずれにしても指導料を生徒・保護者が負担すべきである、ということに整理できるのではないだろうか。

この記事を書いた人

伏見太郎