2021(令和2)年6月23日、厚生労働省が「脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」、「精神障害に関する事案の労災補償状況」、「裁量労働制対象者に関する労災補償状況」(いずれも令和2年度版)をそれぞれ公表しました。
これらを見ると、脳・心臓疾患と精神障害のいずれについても、「医療・福祉」分野での労災請求件数と認定(支給決定決定)件数が著しく増加していることがわかります。
まず、【脳・心臓疾患】に関する「医療・福祉」分野の労災補償状況を見てみましょう。
請求件数 55(令和元年)⇒67(令和2年)
前年比 122%
認定件数 5(令和元年) ⇒8(令和2年)
前年比 160%
令和2年度は、脳・心臓疾患の労災請求件数が784(前年度936)、支給決定件数が194(前年度216)と、全体としては例年を下回る数値でした。それにもかかわらず、医療・福祉分野では、このように明らかな増加傾向となったのです。
このような傾向は、次にみる【精神障害】に関してはいっそう顕著なものとなりました。
請求件数 426(令和元年)⇒488(令和2年)
前年比 115%
認定件数 78(令和元年) ⇒148(令和2年)
前年比 190%
精神障害に関しては、特に労災認定件数の著しい増加が目を引きます。労災と認めるかどうかの行政の判断基準は厳しいものですが、昨年度の医療・福祉分野では、そのような基準を超える過重労働の事案が多発したということでしょう。
コロナ禍の中で、医療機関や福祉施設に勤める労働者の方々が置かれていた状況に思いを馳せれば、決して不思議な結果ではありません。
顧みられない医療・福祉現場の声
言うまでもなく、医療・福祉分野の仕事は、人の生命や健康に直接関わるものです。
とりわけ、それらに対する危険を多くの市民が身近に感じるところとなった昨今のコロナ禍においては、医療・福祉の仕事に従事する方々の働きは、まさに社会の生命線となっています。
そうであるからこそ、このような方々が自らの生命や健康を犠牲にすることなく働ける環境を整備することが、まずもって求められます。また、このような方々は、感染症対策に関する政治判断に誤りがあった場合に、最も大きなしわ寄せを受ける立場にもあり、その意見が最大限に尊重されて然るべきです。
しかし、日本政府は、このような方向性とは大きく異なる価値観を露わにし続けています。
東京五輪の開催による感染拡大・医療逼迫を懸念する医療現場の声は根強く、Twitterデモなど草の根の市民運動や医師会の意見書提出という明確な意思表明も行われました。それにもかかわらず、政府や組織委員会は五輪開催を既定路線とし、有観客(各会場につき、収容定員の50%以内で最大1万人)での開催を決定しました。
このような判断には、全国で医療崩壊が生じたことへの真摯な反省や、地獄のような業務に耐え抜き、あるいは耐え切れず犠牲になった医療・福祉職労働者の方々に対するいたわりや敬意といったものが感じられません。
人の生命や健康、人間らしい働き方といった基本的な価値の優先順位が、平然と五輪の下に置かれる。このような政治判断に対しては、異常との思いを禁じ得ません。
本サイトでは、過去にこの問題を詳しく取り上げた記事を掲載しておりますので、こちらもぜひご覧ください。