受理された通報 ― 学校法人関西大学で起きたこと(第2回)産業医が報告した六つのこと

関西大学教諭組合 副委員長 森川泰明

2024年10月23日、団体交渉の席で、法人の役員は、職員室から中学校の新しい校舎の一番遠い教室まで「1分40秒」で行けると説明した。翌24日、職場巡視に来た産業医、法人の職員と一緒に、私はその道を歩いた。中学校の職員室から、2分25秒。

授業と授業の間の休憩は10分。往復すれば、法人の説明では3分20秒、実際に歩けば4分50秒。残るのは5分ほどである。

たった45秒の食い違い。だが、その日に私が産業医に伝えたのは、この45秒の話だけではなかった。

巡視は半年に一回だった

その日は、産業医の「職場巡視」の日だった。職場巡視とは、産業医が職場を歩いて回り、働く人の健康や安全を損なうものがないかを点検する仕組みである。労働安全衛生規則は、産業医に「少なくとも毎月一回」の巡視を義務づけている(第15条)。一定の条件を満たせば二か月に一回まで緩められるが、それが下限である。

関西大学第一高等学校・第一中学校での巡視は、半年に一回であった。しかも、いつ来るかは教員に知らされていなかった。法人は「年度初めに管理職に伝えた」という立場だったが、半年前の通知を記憶している教員はいない。その一年前、法人側は安全衛生委員会で、日時が決まれば校長・教頭に知らせていると説明していた(第4回で書く)。問題を聞き取りたい側が、誰にも告げずに来て、温度と湿度を測って帰る。それで「点検した」ことになっていた。

その日、巡視に来た法人の職員に、私は頻度が法令の求める水準に達していないこと、教員の意見を集めるために事前に告知すべきことを指摘した。このやりとりで、私の口調が強かったことは認める。その場で何が語られたかは、いま労働委員会の審査の対象になっている。

そのうえで、私は産業医に、現場が抱えている問題を一つずつ伝えた。冒頭の2分25秒は、このとき一緒に歩いて測ったものである。

私はこの日、教諭組合が推薦した安全衛生委員として、前日の団体交渉で法人側が示した説明を確かめるために、巡視に同行した。この行為が、のちにどう扱われたかは、第2部で書く。

産業医が報告した六つのこと

五日後の10月29日、安全衛生委員会で、産業医は巡視の結果を六つの項目にまとめて報告した。法人の議事録に残っている。

  1. 校舎間の移動に時間がかかり、十分な休息がとれない。景風館内に休息スペースを設置してほしい。
  2. 森川委員の要望で、移動時間を計測した。
  3. 高校職員室から景風館への途中に、庇のない区間がある。
  4. 景風館と扇形校舎の間には階段しかない。松葉杖や車椅子を使う生徒がいれば、教員の介助なしには移動できない。スロープの設置を求めたが「角度が急で設置できない」との回答だった。花壇を撤去すれば設置できる。
  5. 5月の避難訓練で、景風館南側の出入口を全開で固定できないことがわかった。改善してほしい。
  6. 景風館3階の垂直型救助袋は、設置に時間がかかり、高所恐怖症の生徒に対応できない。非常用外階段を設置してほしい。

六つのうち、教員だけの問題はほとんどない。四つ目と六つ目は、生徒の身体に直接関わる。五つ目は、火災のときに全員が通る扉の話である。委員の一人からは、スロープについて、法の定める合理的配慮の義務を果たしていないおそれがあるという意見が出た。

同じ委員会で、私は巡視の頻度が法の定める月一回に達していないことを改めて指摘した。法人側は、回数を増やすなど改善したいと答えた。だが、巡視が法定の頻度に達しない状態は2014年から続いており、委員会での指摘も一度や二度ではなかった。

学校は、生徒の場所でもある

職場巡視の対象は、教員の作業場である。学校では、それは職員室だけではない。教室、理科実験室、体育館、調理実習室。教員が働く場所は、生徒が一日の大半を過ごす場所と同じである。

教員のための点検が法の定める頻度で行われていないということは、その同じ空間を産業医が見る機会が、法の定める頻度より少なかったということである。階段しかない校舎の間を、車椅子を使う生徒がいれば、教員に支えられて移動することになる。救助袋を使えない生徒がいれば、三階からの避難の手段がない。避難のとき、扉が固定できない。これらは、半年に一度しか産業医が来ない学校で、長いあいだそのままになっていた。

教員が休憩をとれないまま次の授業に向かえば、その影響を受けるのは目の前の生徒である。労働安全衛生法が学校で守られることは、労働者である教職員の問題であると同時に、生徒の安全の問題である。学校で働く者の安全を確保することは、生徒の安全を確保することの出発点にある。私がこの件を「職場の不満」ではなく「法令違反」として扱うべきだと考えたのは、そのためである。

通報へ

10月29日の委員会で「改善したい」という言葉はあったが、いつから何回にするのかは示されなかった。

11月6日、私は法人の公益通報窓口に通報書を送った。内容は一つである。産業医の職場巡視が、労働安全衛生法令の定める頻度で行われていない。通報の相手方としては、法人で安全衛生を所管する役員の名を記した。

この通報が、後に「通報対象事実に該当する」として受理され、調査され、理事長への是正要請に至った。そして、法人の巡視は、翌年度から毎月の予定に組み替えられた。少なくとも法人自身が、調査と是正を必要と判断した問題だったのである。

では、法人自身が是正を要すると認めた通報をした者は、どう扱われたのか。

今週の一枚

2024年11月6日付「産業医による職場巡視の実施頻度に関わる公益通報」(1頁目)。法人の公益通報窓口に提出したもの。個人名は伏せている。
2024年11月6日付「産業医による職場巡視の実施頻度に関わる公益通報」(1頁目)。法人の公益通報窓口に提出したもの。個人名は伏せている。

次回(11月16日)「受理通知書を読む」

通報から一か月。法人は、弁護士の確認を経て「該当する」と判断した。その通知書が語っていることと、語っていないこと。

(本稿は2026年10月30日時点の情報による。)

この連載の時系列

2014〜 巡視は半年に一回 → 2024.10.24 職場巡視 → 11.6 通報(今ここ) → 11.20 ハラスメント申立て → 12.5 受理 → 2025.10 調査報告書「該当」 → 2026.4 府労委申立て

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森川泰明