信濃毎日新聞 7月23日(水)
パートなど非正規雇用の拡大や、成果主義的な賃金制度の問題点を指摘するのはいいけれど、労働法制の規制緩和の旗を振ってきたことへの反省がないのでは、素直には受け取れない。
厚生労働省が発表した今年の労働経済白書を読んでの感想だ。
副題は「働く人の意識と雇用管理の動向」。働き方の変化が勤労者や企業経営にどんな影響を及ぼしているかを分析している。
政府と財界が二人三脚で進めてきた規制緩和に、疑問を投げかけているのが目を引く。例えばパート、派遣といった非正規雇用が増えている問題だ。
内閣府の調査によると、1990年代半ば以降、仕事についての満足度は下がっている。雇用安定と収入にかかわる項目での低下が特に目立つ。
白書はこうした傾向について、「正規以外の従業員が増加してきたことも影響している」と分析し、警鐘を鳴らしている。
成果主義的な賃金制度についても、▽評価する人によってばらつきが出やすい▽事業部門間の業績の差を社員個人の評価に反映させるのは難しい−ことを指摘。「結局は恣意(しい)的な制度運用に堕してしまう危険も感じられる」と厳しい見方を示している。
非正規雇用や成果主義が働く人の暮らしを不安定にしやすいことは、経済学者や労働組合によって繰り返し指摘されてきた。白書の分析に目新しさはない。
問題は、一連の制度見直しのレールを敷いたのが、小泉元政権の下で進められた「構造改革」政策であり、ほかならぬ厚労省自身だったということだ。
例えば2003年版の労働経済白書を見てみよう。白書は非正規雇用の拡大を「就業形態の多様化」ととらえ、原因として「若年層で…非正規の雇用形態を希望する人が増えている」ことなどを挙げている。同じ白書とも思えない肯定的な記述である。
評価が変わった背景には、「温(ぬく)もりある政治」を掲げる福田政権の登場があるのだろう。そうだとしても、白書が手のひらを返したような書き方をするのでは、労働行政は国民から信用されない。
日雇い派遣、名ばかり管理職など、労働分野の問題が噴き出している。白書も指摘するように、非正規雇用の拡大は日本経済の生産性上昇を妨げている面がある。
厚労省が国民生活の将来を考えるなら、過去の労働政策の反省に立って、政策の基軸を働く者の側に移すべきだ。