共同通信 2013/8/15
政府が、一定水準以上の年収がある人には週40時間が上限といった労働時間の規制を適用しない「ホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間の規制除外制度)」の実 験的な導入を、一部の企業に特例的に認める方向で検討していることが14日、分かっ た。
年収で800万円を超えるような大企業の課長級以上の社員を想定しており、時間外 労働に対する残業代は支払わない上、休日、深夜勤務での割り増しなどはない。仕事の繁閑に応じて自分の判断で働き方を柔軟に調整できるようにし、成果を上げやすくする狙いがある。
経済産業省によると、トヨタ自動車や三菱重工業など数社が導入を検討しているとい う。ただ、労働界からは長時間労働を助長するとの反発も予想される。
経産省は、今秋の臨時国会に提出予定の「産業競争力強化法案」に、先進的な技術開 発などに取り組む企業に対し、規制緩和を特例的に認める「企業実証特例制度」の創設
を盛り込む方針だ。特例制度の一環で、労働時間規制の適用除外の実験的な導入も認め る。
法案の成立後、年内にも導入を希望する企業からの申請を正式に受け付け早ければ2 014年度にも実施する。実際に適用する場合は、本人の同意や労使合意も必要となる。
労働基準法では労働時間の上限を1日8時間、週40時間と定めており、これを超え ると残業代の支払いが義務付けられている。休日や深夜の勤務に対しては賃金の割り増しもある。
現行制度でもデザイナーなどの専門職や企画職を対象に、実際の労働時間とは関係な く、一定時間働いたとみなして固定給を支払う「裁量労働制」がある。ただこの制度も、休日、深夜の割り増しは発生する。
これに対し、特例の制度では労働時間ではなく、成果に応じて給与を定める。経産省は成果を上げればまとめて休むこともでき、生産性向上につながるとしている。
過重労働に懸念
【解説】政府が実験的な導入を打ち出した、労働時間の規制除外制度は、産業界が過 去にも導入を訴えたが、労働組合が激しく反発し見送られた経緯がある。休日や深夜を含め、対象となる労働者にいくら残業させても時間外手当や割増賃金を支払う必要がなくなるため、過重労働に歯止めがかからなくなる懸念は強い。
産業界は手当がなくなれば、労働者にとって残業するメリットが薄れ、効率的に仕事を終わらせて帰宅するようになると主張。育児や介護が一段落した時間に在宅で仕事をするなど、仕事と家庭の両立も進むと訴えている。
だが日本では、違法な「サービス残業」が横行するなど長時間労働を強いる慣習が根 強い。長い時間働くほど評価される傾向も残っている。外食産業などで、形だけ管理職にされ、残業代を支払われない「名ばかり管理職」の過労死や自殺も問題になった。
規制の除外を議論するなら、長時間労働を是とする企業の考え方を改めるべきだ。そ の上で、まとまった休息時間を義務付けるなど、労働者の心身を保護する仕組みを併せ て考えることも不可欠だ。
「過労死招く」と労組
労働時間規制の緩和試行
一定の年収がある人には労働時間規制の適用を除外する「ホワイトカラー・エグゼン プション」の実験的な導入を政府が検討していることが明らかになった14日、労働組 合側は「過労死を引き起こす」と反発した。
一部の企業を対象として特例的に認める方向だが、全労連の小田川義和事務局長は「 大企業が導入すれば関連企業も『うちもやりたい』と考えるはずだ。なし崩しに波及す る恐れが強い」と訴える。
ホワイトカラー・エグゼンプションをめぐっては、第1次安倍政権が導入を狙ったが、労働組合の反対で2007年に見送られた経緯がある。小田川事務局長は「生身の人間に関わることを実験してはならない」と話す。
東京管理職ユニオンの鈴木剛書記長は「多くの管理職に裁量はない。多数の企業でサ ービス残業が常態化しているのに、際限なく働かされることになり、過労死を引き起こ す」と憤る。
政府内でも、厚生労働省からは疑問の声が上がる。ある幹部は「労働基準法は全ての事業者と労働者に適用され、特例を認めるのはなじまない。労働条件は労使が加わった審議会で議論するのが原則だ」と強調した。