朝日新聞三重  「雇用」ではなく「請負」

【朝日新聞】 三重 – 2012.9.4

 職場を不当に解雇されたとして、労働者が取り消しなどを訴えた裁判で、被告となる雇用者側が「原告との契約は『雇用』ではなく『請負』だった」などと主張し、争点の一つになる例が相次いでいる。請負(業務委託)だとすれば、解雇のように合理的な理由が不要になるためとみられる。

■「企業の責任希薄」
ホンダ系部品メーカー(本社・埼玉)の亀山市にある事業所から不当に解雇されたとして、日系ブラジル人の前田アパレシダさん(56)=同市=が、解雇取り消しなどを訴えた地位確認等請求訴訟の判決が7月17日、津地裁であった。

 判決などによると、前田さんは1997年、会社と1年間の有期雇用契約を交わしていた。業務は、ほかの外国人従業員らの出勤確認や日本人との間の通訳などの世話役だった。

 その後、断続的に更新を重ねたが、09年5月末に解雇された。前田さん側は「有期雇用期間が3年を超えているため、正社員と同等だ」と主張し、合理的な理由のない解雇は無効だと訴えた。

 会社は、前田さんと雇用契約を書面で交わしていた。タイムカードで労働時間を記録させ、社員番号も与えていた。従業員らが加入する親睦会の会費も徴収していたという。

 ところが、裁判で会社は「前田さんとの契約は労働契約ではなく、業務委託だった」と主張し始めた。業務に指揮、命令をしていないことや、業務時間の拘束、管理をしていないことなどを根拠に挙げた。

 判決は、解雇無効の訴えは棄却したものの、前田さんが「労働者」であることについては認めた。代理人の小貫陽介弁護士=四日市市=は「不景気だが、法律上の解雇は難しいので請負という手を使っているのではないか。雇用へ
の企業の責任が希薄になっている」と指摘する。ここ数年で同種の訴訟を5件ほど担当したという。

 こうした争いは全国にも例がある。牛丼チェーン「すき家」を運営するゼンショー(東京)はアルバイト店員との残業代訴訟などで「店員とは労働契約ではなく、請負契約に類似した業務委託」などと主張した。

 小貫弁護士は「まずは雇用契約書をしっかり確認してほしい。万一に備えて、労働時間や業務内容を手帳などに記録しておくことが裁判では役に立つ」と話している。(保坂知晃)

◇◆「労働者」認定の例も◆◇

●桑名市の鉄工所を解雇されたケース
雇用契約書を交わさずに2年余り働き続けた男性(63)は、2010年10月に解雇された。男性は、仕事依頼に対する拒否の自由がない▽業務の時間や場所が拘束されている――などとして、労働者だと主張。鉄工所側は「男性は下請け事業主であり、雇用契約は存在しない」と対立。労働審判で鉄工所側が解決金を支払い、昨年11月に調停成立。

●携帯電話にキャッチホン機能をつけなかったことを理由に解雇されたケース
桑名市の男性(当時34)は、解雇された解体作業会社に対し、未払い分の賃金などの支払いを求めた。裁判で業者側が「雇用契約はなく、請負だった」と主張。津地裁四日市支部は7月、男性が「労働者」であると認定。解雇は不当として、未払い分の賃金を男性に支払うように業者に命じる判決を言い渡した。

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