時代を先取り、正社員を大量首切りしたセブン&アイの功罪

Business Journal 2012.12.29

   この戦略が吉とでるか?(「セブン-イレブン・ジャパンHP」より) セブン&アイ・ホールディングス(HD)の総帥、鈴木敏文会長兼最高経営責任者(CEO)(80)によるグループの大改革が始まった。傘下の総合スーパー(GMS)、イトーヨーカ堂の人件費を削減するために正社員を半分に減らし、パート従業員の比率を9割に高めるというものだ。

 東京都・墨田区の曳船店と埼玉県・草加市の草加店の2店でパートを中心とした店舗運営の実験が進行中だ。曳船店では84人いた正社員を51人に縮小。パートは73人増えて325人となった。パートの比率は86%と10ポイント高まった。

 各売り場の責任者は正社員からパートに替わった。パートの従業員に売り場のレイアウトから商品の発注まで全部任せる。検討会では商品の売れ行きなどを報告する。やっている仕事は正社員とまったく同じだ。

 ヨーカ堂のパートはリーダー、キャリア、レギュラーの3段階に分かれている。全体の10%弱までリーダーを増やす。正社員を半減させた後の業務をリーダーに担当してもらうことにする。

 この2店の取り組みは、全国178店の中で、最初の第一歩となる。2013年には正社員を半減、パートを9割の店舗を20店舗に拡大する。

 セブン&アイが今年9月8日に打ち出した大改革で、ヨーカ堂は2016年2月期までに8600人の正社員を半減させ4300人とする。パートの比率を全従業員の9割に高めることによって、人件費を100億円削減する。パートは6800人多い3万5000人に増やす計画だ。

 正社員の見直しに踏み込む一方で、パートを戦力化してセルフ方式から対面販売、接客重視にかじを切る。店長がパート、売り場の責任者もパート、従業員もパートという運営でGMSの再生に挑む。これは日本の雇用形態を根底から突き崩す“鈴木敏文革命”なのである。

 来年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、希望する社員に65歳までの雇用が義務づけられる。企業は60歳を越えても働けるように定年を65歳まで延長するなど、対応を急いでいる。そのさなかで、セブン&アイは正社員を半減するわけだ。これは企業経営者と正社員の地位に安住していたサラリーマンに衝撃を与えた。

 65歳までの雇用が義務づけられれば、それだけで人件費の負担は増す。経団連では、45歳以降の賃金を抑えてオーバー60の人件費をひねり出す動きを見せている。セブン&アイは、こうした動きの一歩先をいくことになる。

  「流通王」と呼ばれる鈴木敏文が大改革に踏み切ったのは、グループ内の事業の二極化に直面しているからだ。セブン−イレブン・ジャパンは絶好調だが、GMSのイトーヨーカ堂は絶不調だ。セブン&アイの利益の過半は、コンビニ事業が稼ぎ出している。

 セブン−イレブンと海外コンビニの売上高を含めた2013年2月期のグループの総売上高は8兆5300億円の見込み。このうちコンビニは5兆4000億円と、グループの全売り上げの6割強を占める。

これに対してスーパーストアー事業の13年2月期の売上高は2兆200億円(前年同期比1.4%増)と若干の増収になるが、営業利益は258億円(同20.4%減)と大幅な減益を見込んでいる。スーパー事業の主力であるヨーカ堂の業績不振が、足を引っ張っている。上期(12年3〜8月)のヨーカ堂の営業利益は、わずか7億円(同88.0%減)にとどまった。

 削減される正社員はどこへ行くのか。稼ぎ頭のセブン−イレブンに出向して、店舗を後方支援するフィールド・カウンセラーへ転身する。希望者にはコンビニのオーナーになる道を用意した。社内でセブン−イレブンの店舗オーナーの希望者を募ったところ、200人が手を挙げたという。

 鈴木敏文が打ち出したグループ大改革は、簡単に言ってしまえば業績不振のGMS事業を縮小し、その人員をコンビニ事業で吸収するということだ。これによって、グループ全体の人件費の削減を徹底的に図る。出向を命じられた社員が退職することは想定内だろう。これは自発的な退職であって、強制的な解雇には当たらない。

 「パートが店の看板と経営を背負い、その上、接客するというのは至難の業。時給のパートに、そこまで責任を負わせていいのか」との指摘があるのは百も承知だろう。

 ヨーカ堂のパート中心の店舗オペレーションがうまくいくかどうかを、流通各社の首脳は注視している。ヨーカ堂が成功したら、パート中心の運営に切り替えるスーパーが続出することになる。

 かつて日本の会社は、どこでも正社員が多数を占めていた。月々の給与が保証され、そこそこの昇給が見込めるので、安心・安定の生活が送れるのが正社員の最大のメリットだった。病気やケガの時に個人負担が少なくて済む厚生年金にも加入できる。所得証明が交付されるので住宅ローンや車のローンの契約がスムーズにできる。このように、正社員には有形無形の恩恵がある。

 だが、そうした正社員神話は音を立てて崩れようとしている。セブン&アイの大改革は、“正社員不要の時代”を象徴する“事件”なのである。

●セブンーイレブン・ジャパンは業績好調を維持

セブン&アイ・ホールディングスは、1月8日に今2月期の第3・四半期(3Q、3〜11月)決算を発表する。

 稼ぎ頭のセブン−イレブン・ジャパンは引き続き好調だ。11月の既存店売り上げは前年同月比0.3%増と、4カ月連続してプラスを維持している。日本フランチャイズチェーン協会が発表している主要コンビニエンスストア10社の11月の既存店売り上げの合計は、同2.5%減。6カ月連続してマイナスである。

 セブン−イレブンが好調な理由は2つある。1つは全店共通で品揃えをする「基本商品」の強化が実ってきたことだ。洗剤や調味料をきちんと品揃えしているため、スーパーマーケットの代替の役割も果たしているというのだ。

 一方で、プライベートブランド(PB)商品の売り上げを2015年度までに、12年度見込み比で5割増の3兆円にまで引き上げる。

 中でも「セブンゴールド」は、専門店の味を目指して材料や製法にこだわっている。現在は11品目だが、300品目に増やす。レトルトのビーフカレーの値段は、一人前348円。一般のスーパーで売られているものより高い。「外食より手ごろ(お値打ち感がある)」ということで、消費者の支持を集めているのだ。(敬称略)
 (文=編集部)

 

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