就職四季報データでわかる「ブラック企業」

東洋経済新報社 就職四季報プラスワン

就活解禁で一気に企業情報があふれ出すと同時に、「ブラック企業」への注目度も俄然増しているようです。

ブラック企業の定義は、就活生のほうがくわしいでしょう。過労死に至るまでの長時間労働、有給休暇どころか法定休日すら取らせない、取れないといった過重労働を強いるうえ、精神的にも苦痛を与えて退職に追い込むという企業のことです。

説明会で会社データを聞いてみよう

気になる企業がブラックかどうかをどうやって見分ければよいのでしょうか。ネットの就職情報は「採用広告」ですから、うのみにしてはいけないことはご承知でしょう。それでも、ブラックと言われる企業でも(企業ほど)、感じのよい採用ページを作っていて、なかなか突っ込みどころが見当たりません。

答えは、会社と利害関係のない第三者の提供する客観的な会社情報を調べることに尽きます。必要なデータは、ブラック企業の定義からもわかるように、1.残業時間、2.有給休暇の実際の取得日数、3.新卒3年後離職率です。

「就職四季報を見てください!」と大声で叫びたい気持ちですが、すべての会社が就職四季報に載っているわけではありません。載っていても、ここぞというところで「NA」という会社も、残念ながら多いです。

データが入手できない会社は、説明会などで具体的な数値を聞いてみましょう。よくあるのは「そのようなデータは取っていません」と言われるケースです。

そんなわけはありません。
残業時間がわからなければ残業代は払えません。そもそもブラック企業は残業代を払う気はないって?

厚生労働省は、「使用者が労働者の労働時間を適正に把握する責務がある」としています。本当に社員が過労死してしまったら、裁判の証拠はどうするのでしょうか。

離職者数については、社員が辞めたら給料を払わなくてよくなるわけですから、辞める人間を把握していないということはありえません。

「データを出す気がないのではなく、データを取っていないだけ」という言い訳に、やすやすとだまされないようにしましょう。

ブラック3要素の水準値を知っておこう

では、データを出してくれたとして、数値をどう解釈すればよいでしょうか。就職四季報に載っているのは比較的労働環境のよい会社が多いですが、数値の分布を知っておけば、これから大きく外れる会社はヤバイと判断することができます。

1.残業時間(月平均)

全体の平均は18.3時間。業種別に分布を見ると、かなり特色が出ました。残業がやや多いところに固まっているのがソフトウェア。やや意外なのが商社・卸売業と小売です。商社は取り扱う商品や海外取引の有無で水準が違いますし、小売といってもデパートとコンビニでは水準が違います。

こうした業種ではやや細かく業種を区切って見ていく必要はありますが、全体を眺めると、平均して月40時間を超えるような会社はかなり多いということがわかるでしょう。

といっても1営業日2時間程度の残業は不可能ではないような感じもしますが、これは全社員の平均です。若手の皆さんは、5割増し、10割増しくらいに考えておいたほうがよいでしょう。

残業は少ないに越したことはありませんが、外食ほか激務で知られる会社には残業0時間という回答も散見されます。これは残業という制度自体なく、サービス残業を強いられる可能性があることを意味します。ブラック企業の象徴ですね。

「残業はない」という回答の場合は、実際に残業せずに帰れるのか、サービス残業になってしまうのかをよく確かめてください。

2.有給休暇取得日数(年)

全体の平均は10.2日。10日とれれば平均線だといえます。
注意したいのは、「社員が実際に取得した日数を教えてください」と伝えること。

「有休日数」として、ホームページや求人票などで公開している会社はあります。

ただし、それは、取得(消化)日数ではなく、制度として与えられている年間最高日数である場合がほとんどです。大企業では、最高日数20日というところが大半ですから、「20日」と言われたときには、それが最高日数でなく取得日数であることを念を押して確認してください。

分布図をみても、年間に有休を20日付与されて20日取得できる会社はまれです。いわゆるブラック企業でも、制度としては有休を取れることになっていますが、実際には仕事量が多すぎて休めないのです。

平均の10日のところに縦棒を引くと、残業とは逆に情報・通信・ソフトウェアは右への分布が多く、意外に休めることがわかります。エネルギー業界の有休の取りやすさは特筆ものですね。

一方、建設・不動産、小売、サービスは左への分布が多くなっています。これらは多くの人が休んでいる土日や夏休み・冬休みにも稼働している業種です。さらに夏期休暇や年末年始休暇も制度として用意されておらず、「有休で取得」するケースも多くなっています。

自分の都合では休みにくい会社や職種は有休を取りにくいことを覚悟したほうがよいでしょう。

目安としては、5日を切ると休めないほうだといえます。休みにくい上記3業種は「有休なんて1日も取れないよ」と言われることもあるかも知れません。それでも、急な病気や家族の行事で休まざるをえないことはままあります。いわゆるブラック企業では、たとえ無給でも、休んだことを理由に精神的な苦痛を与えることもありそうです。

夏休みや年末年始休暇のほか、年5日休めるかどうかをきっちりチェックしてください。

3.3年後離職率

最終的に退職に追い込まれるかどうかがブラック企業の定義ですから、入社初期の離職状況を聞くのは基本です。「3年で3割辞める」が定説ですが、就職四季報掲載会社の平均は低く、11.2%となっています。0%(誰も辞めていない)という会社も結構あります。

3年後離職率は、先日厚生労働省から発表された業種別の3年後離職率(資料を見る→)でも指摘されていたように、業種による差異が大きいとされていますが、就職四季報掲載会社の集計では、小売とサービスの分布がやや幅広いことと、エネルギーの低さが目立つくらいで、意外にも業種による差異は明瞭ではありません。

業種は目安にはなりますが、個別企業間の格差のほうが大きいのです。

ただ、離職率だけに目を配るのでなく、3年前の入社人数には注意してください。ブラック企業と言われるところは大量採用、大量離職が多いですが、特に中小企業などで入社人数が少ない場合には、数値が大きくぶれることになります。

極端な話、入社1人でその人が3年内に辞めてしまったら3年後離職率は100%とこれ以上ないブラック、その人が辞めなければ3年後離職率0%で疑いなくホワイトということになりますが、こうしたケースでは、過去数年にわたって経緯を教えてもらう必要があります。

平均勤続年数や四半期ごとの従業員数も有用な指標

3年後離職率がブラック判定の基本ですが、あまりに直球すぎて聞きづらいという場合には、奥の手があります。「平均勤続年数」を見てください。上場企業では必ず提出する義務がある有価証券報告書の記載項目ですから、必ずわかります。

就職四季報では、平均14.7年、分布は2.6年から24.0年まで大きな幅をもっています。

長ければそれだけ長く働きやすく、短ければすぐに辞める人が多いということですから、離職関係の数字がわからなくても、勤続年数を見れば大体の状況はつかめます。

これにも注意点があり、会社の設立以上に長くはなりようがないということです。ベンチャー企業は短いのはあたりまえですが、老舗同士の2つの会社が合併した場合など、吸収された会社の社員の勤続年数は0からのスタートになるので、大きく下がります。表面的には単なる合併にみえても、正確には両社で新しい会社を設立している場合もあります。近年M&Aを経験した会社は注意してください。

『会社四季報』などで四半期ごとに従業員数の推移を見ても、辞め具合がわかることがあるのは、以前触れたとおりです(過去記事「内定先の3年後離職率をチェックしよう」を見る→)

ブラックか否かは「見せ玉」の有無で決まる

また、なかなか出してもらいにくいデータですが、かなり明瞭にブラック度合いを示している指標に、社内での賃金カーブと賃金格差があります。

就職四季報では、初任給のほか、25・30・35歳平均賃金、それら年次での最低賃金と最高賃金を聞いていますが、ブラックが懸念される企業の特色としては、
1)初任給は高いが、30歳平均賃金はあまり変わらない(ほとんど昇給しない)
2)最低賃金と平均賃金が非常に近いが、最高賃金はとんでもなく高い(ごく少数の好成績の人だけは高い成果給をもらえるが、ほとんどの社員は低賃金)
という傾向がはっきりと出ます。

単なる激務とブラックとの違いは、仕事に関して精神的に追い込むかどうかにあるのではないでしょうか。

「働きづらいのは成果が上げられないからだ」という社内の論理が最初にあって、「立派に成果を上げている人もいるのに」という見せ玉として高給を得る人がいて、「成果を上げるには休んでる暇はないだろう」と追い込んでいく流れになるので、残業や有休は副産物です。

平均賃金はなかなか教えてくれないでしょうから、最高賃金を聞いてみましょう。興味がある風を装って「30歳ぐらいでどのくらいもらうことができますか?」と聞いてみれば、「人によるけど」という前提がつくでしょうが、見せ玉ですから教えてくれるはずです。
これが通常とあまりにかけ離れていれば要注意です。「通常」がどのくらいかは、就職四季報でつかみましょう。

就職四季報のNAの多さを見てもおわかりのように、多くの会社は情報統制に懸命です。そんななか、ブラックが懸念される会社が、意外にあっさりとデータを出してくれることがあります。データのもつ意味合いや影響力が計りかねるからでしょう。

これに対して就活生をはじめとした外部の人がネットなどで大騒ぎすると、ようやくその影響に気づいて、二度と出してはくれなくなります。

景気が悪いため、労働環境はどこも悪化しています。あの会社が実はブラックだ、といった「煽り」に乗ることなく、冷静にデータとその開示度合いを峻別し、危ない会社はひっそりと回避してください。

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