日本経済新聞 Financial Times(翻訳) 2014/3/5
中国の国営メディアは最近、中国本土で毎年60万人が過労死していると報じた。これを言葉通りに受け取れば、米バンクオブアメリカ・メリルリンチのロンドン拠点でインターンとして働いていたモーリツ・エルハルトさんの身に降りかかったのと同じ運命に、毎年60万人が直面しているということになる。昨年夏、過労により死亡したと思われるエルハルトさんの死は、欧米銀の従業員が働き過ぎないようにする必要があるかどうかという業界内での道義的な論議を喚起した。
縫製工場で(広東省東莞市)=ロイター(省略)
習近平国家主席のチャイニーズドリームに貢献して、毎年50万人を超える人々が過労死するというのは本当だろうか。中国でも60万人という数字は1年間の死者としては多い。
統計よりも心からの叫びを重視する方が賢明かもしれない。60万人という死者数にどのようなタイプの死が含まれているのかは、この数字を公表した人民日報の記者だけでなく、誰にも分からない。だが、疲れ切った中国人労働者の間で就労中の突然死が大きな社会問題になっていることは明らかだ。
■健康不安抱えるIT関連労働者
国営新華社通信は昨年、直近5年間で、職務中に死亡した警察官の半数にあたる約1100人が過労死だったと報じた。ここでは言及されなかったが、問題の大半は職務中の飲酒だ。多くの労働者が顧客や政府関係者の接待に長い時間をかけるとみられており、多くの過労死にアルコールがかかわっているように思われる。
最近ではサラリーマンが働きづめになっているだけでなく、賃金水準が十分に高いとはいえなくなっている。仕事中毒の中国人が好きなだけ徹夜で働いても、上海や北京では最低水準の不動産さえ手に入れられない。男性はアパートを買うまで結婚できない。休みなく働いても買えるとは限らない。
最近の中国の都市労働者はアジアの労働倫理に払う犠牲に不安を募らせている。米ボストン・コンサルティング・グループが先週発表した調査によると、対象の中間層と富裕層の半数は「仕事のプレッシャーや家族への義務、長い労働時間」が原因で健康の問題を抱えていると回答した。
IT(情報技術)労働者は特に影響を受けやすいようだ。35万人のIT労働者を対象とした最近のある調査では、98.8%が健康上の問題を抱えていると回答した。
中国では過労による突然死が保険の対象外であることが多いため、中国の保険会社はこの不備を補おうとしている。
不安な仕事中毒者は、中国のインターネット通販サイト「淘宝網(タオバオ)」で「山のように大きいプレッシャー」保険に入ることができる。20〜30歳の人なら年間10ドル支払えば、過労による突然死に対する補償金として8万ドルを受け取ることができる。
By Patti Waldmeir
(2014年3月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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