人手不足、企業が悲鳴 営業短縮や店舗の閉鎖

朝日新聞 2014年5月2日

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「店員不足のため閉店中」と掲げる店舗も=4月上旬、都内の「すき家」

 人手不足が広がりをみせている。飲食店や小売り、建設工事だけでなく、製造業の現場でも人が足りなくなり、企業は働き手を確保するため、バイト代やパート代を引き上げている。景気回復による前向きな動きなのだろうか。

 4月27日午前9時。都内の牛丼店「すき家」でアルバイトを終えた30代の男性が、疲れ切った表情で店を出た。前日午後10時から働いた。「夜中の店員は基本、ひとり。手が足りず、店は24時間営業と言いながら、閉めちゃうこともあります」

 「すき家」を展開するゼンショーホールディングスは2月から4月にかけて人手不足を理由に123店で休業し、124店が深夜・早朝営業を休止した。アルバイト女性は「2月に始めた牛すき鍋定食が牛丼より手間がかかり、負担ばかり増えて人が増えず、『やってられない』と辞める人が相次いだ」と指摘する。

 ゼンショーは「労働人口の減少に従業員の負担増が重なった」(広報)とし、6月をめどに7地域に分社化し、地域に応じた人員配置に取り組むという。

 居酒屋大手ワタミも今年度中に全店舗の約1割にあたる60店舗を閉鎖する。「社員やアルバイトの採用環境が厳しくなり、労働環境を改善するには店舗閉鎖が最適と判断した」

 人手不足は東京五輪招致にわく建設業界でも進む。

 東日本大震災の被災地・宮城県が2013年度に発注した公共工事の入札のうち、約26%が落札されず、「不調」に終わった。特に施工管理や電気設備など、資格が必要な職種の人材が不足しており、「お金を積んでも人が集まらない」(仙台市の建設会社社長)との声が漏れる。

 建設工の不足は遠く九州にも広がる。佐賀県内の13年度の公共工事の入札不調率は1割。ある建設会社社長は「職人が足りず、公共事業の入札に参加できない」とため息をつく。

 製造業も事情は同じだ。調理機器をつくる中西製作所(大阪市)の幹部は「人手さえ確保できれば、もっとつくれるのだが」と肩を落とす。学校給食の調理場の新設・改修が相次ぎ、大型炊飯器や食器洗い機の受注が舞い込む。昨秋に派遣会社に人集めを頼んだものの、予定した採用数を確保できていない。

 ■上がる時給、正社員化も

 不足する人手の確保に向け、待遇を引き上げる企業が相次ぐ。

 求人情報サービス「an」を手がけるインテリジェンス(東京)によると、飲食店のアルバイトの平均時給は、12年1月から2年3カ月連続で前年を上回り、920円から942円にまで上がった。人手不足は警備員や運転手などにも広がり、「これほどの不足はリーマン・ショック後では初めて。時給を上げても応募が増えない」(広報)。

 「3カ月満了で9万1千円」「6カ月満了で32万9千円」……。トヨタ自動車は3〜6カ月単位で契約を更新する期間従業員を引き留めようと様々な「手当」を出す。12年12月に2200人だった期間従業員は13年12月に4200人に達した。消費増税後も生産台数を当初予定より増やすため、人手確保は最優先課題だ。

 アルバイト採用を店のオーナー任せにしてきたコンビニ最大手セブン―イレブンは採用の本格支援を始めた。本部が仙台市にコールセンターを設けて、全国からの応募者を各店に取り次ぐ。希望者を確実に採用に結びつけるねらいだ。

 パートやアルバイトが中心だった従業員を正社員に切り替える動きも広がる。衣料専門店「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングは、働く店舗を限定し、短時間勤務にも柔軟に対応する「地域正社員」制度を導入した。柳井正会長兼社長は「パートやアルバイトでは人材を確保しづらい」と率直だ。都市部を中心に人手不足は続くとみて2〜3年かけてパートやアルバイトら約1万6千人を「地域正社員」にする方針だ。4月下旬に名古屋市で開かれた選考会に参加した20代の女性は「正社員として働けることにひかれた」と語った。

 ■求人、短期の非正社員中心

 「構造的失業率にほぼ近い水準」

 日本銀行の黒田東彦総裁は3・6%と6年7カ月ぶりの低水準になった2月の完全失業率をこう分析した。働きたい人がすべて働けている「完全雇用状態」に近いとの認識を示したものだ。

 人口減少と少子高齢化が進むなか、この先も働き手が大きく増えることは考えにくい。景気回復も重なり、今後、人手不足が慢性化する可能性が出てきた。

 ただ、現在の求人の中心は、契約社員やパートといった短期雇用の非正社員が占める。仕事を探す人が求める職と企業の需要にもズレがあるのが実情だ。

 求職者1人に何人分の仕事があるかを示す有効求人倍率を職種別でみると、求職者の4分の1が希望する「一般事務」は0・28倍で、100人の希望者に28人分の仕事しかないことを示す。一方、飲食店で働く「接客・給仕」は2・64倍、「建築・土木・測量技術者」は3・97倍と、求職者と企業との間でのミスマッチが著しい。日本総研の山田久氏は「『人手不足』が続けば企業の生産性は上がらず、経済成長も難しい。女性や高齢者でも働きやすい仕組みをつくると同時に、働き手のスキルを高める政策も必要だ」と指摘する。

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