京都新聞 2015年3月3日
http://www.kyoto-np.co.jp/info/bongo/20150303_2.html
日本の過酷な労働環境を象徴する言葉が過労死。「KAROSHI」の表記で辞書に載るなど、今や海外でもすっかり定着している▼その名付け親の一人が向陽保健所(向日市)の所長などを務めた医師の細川汀(みぎわ)さんだ。著書「かけがえのない生命よ」で、「七五年頃から『過労死』ということばを編著書の中で使っていた」と振り返る▼1960年代後半、突然死や急性死と診断するのがためらわれる、働く人の死を数多く見た。「実際に起こっているものは、『過労によって生体のリズムが崩壊し、生命を維持する機能に致命的破綻をきたした状態』」(前掲書)と捉え、後に過労死と呼ぶことになる▼47年に京都大医学部に入る。医学生として劣悪な条件下に置かれた労働者を支援する運動に関わり、卒業後は労働医学の道に▼以来、現場にこだわり、現場に起因する健康破壊に警鐘を鳴らし続けた。過労死の「発見」もそんな地道な活動の延長線上にあるのだろう▼米寿を迎えた細川さんの半世紀以上に及ぶ取り組みをたたえる祝賀会が今月、京都市内で開かれる。厚生労働省が2016年4月から、労働時間ではなく成果で賃金が決まる制度の導入を目指すなど、過重労働をもたらす恐れもある規制緩和が進む中、老医師の実践から学ぶべきことは多い。