【東京新聞社説】 性的少数者 身近な場から考えたい

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015032702000153.html
東京新聞 2015年3月27日

 性的少数者に対する国や自治体の取り組みが始まっている。学校現場でその特性に配慮した支援を行うことや、同性カップルに結婚に相当する証明書を発行する動きなどだ。身近な場から考えたい。

 性的少数者を語る「LGBT」は、女性同性愛者「レズビアン」、男性同性愛者「ゲイ」、両性愛者「バイセクシュアル」、心と体の性が一致しない「トランスジェンダー」のそれぞれ頭文字をとっている。

 異性を恋愛対象にするように同性にひかれる人や、性別に違和感を持つ人は、調査研究では国や人種に関係なく先天的に人口の5%が該当する。二十人学級なら一人いる計算だ。しかし、多様な性についての理解がないために、当事者は誤解や偏見に遭い苦しみもする。当事者団体が行ったアンケートによると、七割にいじめられた経験があり、三割は自殺を考えたことがあるという結果だった。

 性的少数者に対する国の施策は性同一性障害特例法(二〇〇四年施行)のみだったが、文部科学省はこのほど、学校や教育委員会に向け、性同一性障害だけでなく、同性愛なども含めて対応を求めていく文書をまとめた。

 学校は子どもが安心して過ごせる場でなくてはならない。知識不足を解消し、教員だけでなく、教員養成段階から性的少数者について学ぶ機会を増やすべきだ。当事者支援を進める一歩にしたい。

 自治体では、東京都渋谷区のケースがある。同性カップルを「結婚に相当する関係」と認め、パートナーシップ証明書を発行する全国初の条例案が開会中の定例議会で成立する見通しだ。世田谷区などにも波及する可能性がある。

 同性婚が認められていない日本では、同性カップルは賃貸住宅の契約や病院での面会などで「戸籍上の家族ではない」のを理由に断られるなど不利益を受けている。

 渋谷区の証明書に法的拘束力はないが、区民や民間事業者に対し、証明書に最大限の配慮をするよう求めている。人権を保障し、多様性を認めていく社会にしたい。

 欧州などでは同性パートナーを法的に認める国が増えているが、日本は性的少数者について正面から向き合ってこなかった。桑原敏武区長は「未来に対し設計の持てる人生をすべての人に実現する。温かい手を差しのべることは本来は国がやるべきこと」と語る。少数派への差別や排除をなくし、その権利をどう守っていくのか、議論を深めたい。
 

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