除染も家事も担う…日本で働く外国人79万人、現場では

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朝日デジタル 2015年12月24日

写真・図版:除染作業を家族と振り返るボリビア人男性(左)=11月、神奈川県内の支援施設(省略)

 コンビニや居酒屋、そして除染も。日本で働く外国人が増えている。その数、79万人。6年間で30万人増え、過去最高だ。日本の労働人口が減る中、今や貴重な働き手になっている。ただ、職場は日本人が避けがちな仕事が多い。その働く現場を追った。

 日系ボリビア人の男性(41)はこの夏、福島県飯舘村で除染作業員として働いた。幹線道路沿いの草刈りが主な仕事だ。

 1日8時間で、1万6千円。お金を稼ごうと23歳で来日して18年。これまでもらったことのない額だった。妻の反対を押し切って申し込んだ。作業グループは10人。そのうち、自分を含む4人が外国人だった。

 「人が足りないからだ」

 除染作業員を募るある派遣会社の役員は、そう話す。この会社も今年初めて、外国人を6人送り込んだ。事故やトラブルを恐れる派遣先から「外国人はやめてくれ」と言われていたが、今年は「解禁」された。大手ゼネコンも「東京五輪で人手不足が進むので、除染する外国人は増えるだろう」。

 だが働く環境は、ボリビア人男性が感じたほど好待遇ではない。この工事で環境省が業者に示している除染の賃金目安は、実は2万5千円だ。

 給料がきちんと支払われる保証もない。この男性は、8〜9月の1カ月間分の給料28万9千円が振り込まれなかった。雇用主の派遣会社に問い合わせたが、「別の建設業者が支払う」と言ったきり。一緒に作業した3人の外国人と連絡を取ると、みな未払いだった。労働組合に駆け込み、ようやく11月、建設業者から「未払い分は払う」と連絡がきた。それでも、男性はこう話す。「また除染で働きたい。これまで車部品工場で働いたけど、あまり人間的な扱いを受けなかった。除染現場はそうではなかった」

ログイン前の続き■家事代行も 「両親に頼むより気楽」

 外国人の家事代行は今月、神奈川県の計画が国家戦略特区として認められた。同県では来年3月をメドに家事代行で働くことを目的に入国できるようになる。賃金は日本人以上とすることや、働けるのは3年未満と政府指針で決まっている。

 すでに需要はあり、現在は「日本人と結婚した外国人」など就労に制限のない人が働いている。

 12月中旬の平日、午後5時。東京都渋谷区の戸田万理さん(42)宅に、フィリピン人のヴィナさん(42)がやって来た。ヴィナさんは夫が日本人で、日常レベルの会話はだいたい理解できる。持ってきたエプロンを身につけると、戸田さんが「スープを作ってもらえるかな」と材料を渡す。1時間ほどでカボチャのスープを仕上げた。

 その間、戸田さんは長女の理花ちゃん(1)をあやす。フルタイムで働くコンサルタント。共働き家庭で、来年1月には長男を出産する予定だ。「仕事と家事、育児のすべてがのしかかり、イライラすることが増えていた」。11月、家事代行の「タスカジ」に申し込んだ。1回3時間、交通費を除いて4500円。週2回、平日に来てもらう。戸田さんに甘える理花ちゃんに「ちょっと待って」と言う回数が減った。「自分の両親に頼むより気楽。もう離せません」

 タスカジの働き手は登録式だ。外国人に限っているわけではないが、多くがヴィナさんのように「配偶者ビザ」を持つフィリピン人女性だ。午前9時〜午後10時に3時間区切りで頼め、1時間あたり1500円から。利用者は3千人近くいる。

 「国家戦略特区」での解禁を見据え、人材確保も始まっている。

 人材大手パソナは来年4月をメドに、フィリピン人約30人に日本に来てもらう予定だ。マニラの人材会社と提携し、「実務経験1年以上」などの日本政府の条件に合う人材の募集を始めた。選考に通れば、日本語や日本食などの研修を年明けから現地で始める。料金は、週1回の利用で1カ月1万円ほどを想定。企業に、「社員の福利厚生」としての利用を売り込む考えだ。

 92年に外国人の家事代行を解禁した台湾では、労働時間の管理が課題になっている。家庭に住み込む形式がほとんどのためだ。今年秋、台湾家庭に住み込むフィリピン人女性(32)は「雇用主が外に出してくれない」と目に涙をためて訴えた。働き始めて6カ月。ようやく初めての休日を1日もらえたのだ。外国人の就労を担当する労動部労動力発展署の蔡孟良副署長は「雇用主が週7日働かせても、ちゃんと残業代を払い、労働者が合意していれば政府は何もできない」という。

 日本の国家戦略特区では、住み込み形式は認めていない。ただ台湾では「外国語交じりで世話をされると、子どもの文化やアイデンティティーに影響が出る」(蔡副署長)とも指摘されていて、最近では受け入れの条件を厳しくしている。

■日本の労働人口、30年間で2千万人減

 厚生労働省の統計(2014年)では、働く外国人は79万人。国家公務員(64万人)をしのぐ数だ。雇用主が未報告のケースもあり、「法務省の統計データもあわせて推計すると、厚労省調査の捕捉率は7割程度。すでに100万人働いているのはほぼ確実だ」(自由人権協会の旗手明理事)という。

 一方、日本の推計労働人口は、今後30年間で2千万人以上減る。外国人へますます頼ることになりそうだ。

 政府は、どういう外国人を増やすのか。「1億総活躍」を掲げる政府は、「移民受け入れより前にやるべきことがある」(安倍晋三首相)という立場だ。日本人だけで人口1億人を維持し、経済発展に役立つ外国人を中心に歓迎する、というスタンスだ。

 具体的には、学歴や収入が高い「高度人材」が長く日本で暮らせるようにしているほか、人手不足の「介護」で、来年度にも受け入れを広げる。外国人が「家事代行」のために入国することを新たに認め、日本の女性が家の外で働きやすくして、労働力の落ち込みを防ぐ。安価な単純労働を担う実態がある「技能実習生」は、滞在期間を3年から5年に延ばす。こうした方針が、政府の成長戦略に盛り込まれている。(疋田多揚、細見るい)

■「まず家事の分担を」

《外国人労働問題に詳しい指宿昭一弁護士の話》 外国人に家事を頼る前に、まずは男性も平等に分担できるようにすべきではないか。長時間労働を見直して、不足している保育所を増やすことが先決だろう。本当に外国人が必要なのか、国民的な議論も不足している。

 外国人に家事をさせる理由は、低賃金でしてもらえるからだ。家事は範囲が広く、仕事は育児や介護に広がる可能性がある。そうすると、保育士や介護福祉士などの賃金がますます低く抑えられることになる。

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