霞が関でも労働組合離れ加速 外務省や文科省では消滅

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省庁間でばらつきがある労働組合の組織率

国家公務員の労働組合の組織率が昨年、人事院が統計を取り始めた1949年以来、初めて5割を割った。外務省や文部科学省など組合自体が消えた省庁もあるという。どうして省庁で組合離れが加速しているのだろうか。

■10年前は6割を超えていた組織率

 国家公務員の給与は人事院の勧告で決まるが、労組は勧告前や春闘時に賃金や処遇の改善を要求するなどしている。人事院によると、管理職や団結権が認められていない警察職員らを除く約18万9千人の組合の組織率は昨年3月末に49・7%と過半数を割り、直近では47・6%。10年前は6割を超えていた。

 厚生労働省の調査では1千人以上の大企業でも2005年に組織率が過半数を割り、昨年は45・7%。大企業で先行した組合離れが国家公務員の職場でも進みつつある。

 09年に職員の無許可専従問題が発覚した農林水産省は、それまで9割を超えていた組織率が8割台に。全農林労働組合の柴山好憲書記長は「出先機関の管理職になって一度、組合を離れた職員が組合に復帰しない例や、新卒者に加入してもらえないケースが増えた。組合への理解を深めていかなければ」と話す。

 ログイン前の続き会計検査院も10年前の90%から今年は52・4%に。公金の使い道に目を光らせる仕事柄、職員労組も「政治色を持たない」のが伝統で、民進党系の連合(国公連合)、共産党系の全労連(国公労連)のどちらにも属していないが、若手を中心に新たな加入者が減っているという。

 組合自体がない省庁も増えた。「外務省に組合? 聞いたことないですね」。入省25年の男性職員はそう話す。元々、海外勤務者が多く、09年に組合自体が消滅。文部科学省も国立大の法人化を機に少人数の組合になり、11年に消えた。ある省幹部は「地方に出先がなく、霞が関で同じ条件で働き、特に不便を感じないのでは」。一方、厚生労働省は社会保険庁や国立病院の法人化で分母の職員数が減り、10年前より組織率は上がった。

 省庁間で組織率のばらつきが大きいのはなぜか。連合系労組の上部団体・公務公共サービス労働組合協議会の吉沢伸夫事務局長は「伝統的に組合活動が活発な省庁かどうか、土俵の違いが大きい。職場の多数が加入する省庁なら、入るか否かの選択だが、組合すらない職場では自分で組織をつくるか否かの選択。ハードルが全く異なる」。

■キャリア割合増が影響

 組織率が下がる背景に採用の変化を指摘する声もある。95年度の公務員白書によると、試験による新規採用の6割は国家?種などの高卒者だった。ところが、15年度の白書では大卒・院卒者が採用の6割を占め、主流は逆転した。

 国家公務員全体でも大卒・院卒者が5割を超えた。全労連系の上部団体・国公労連の鎌田一書記長は「公務員試験の専門学校を経ている大卒者が増え、採用前の横のつながりから『組合には入らなくていい』と考える若手も少なくない」と話す。

 国家公務員の労組を研究した立教大の原田久教授(行政学)は、国家公務員の労組が元々、幹部候補のキャリア組に比べて昇進・昇給が遅いノンキャリアの処遇改善を要求してきた歴史に着目する。「一部の省庁を除くと、キャリアは組合には入らない傾向が強かった。郵政民営化や国立大の法人化などで国家公務員の定数は大幅に減ったが、1万人余りのキャリアの人数はほぼ変わらず、相対的に職員に占めるキャリアの割合が高まった」

 09年から人事評価に能力・実績主義が導入された影響で、共通の利害で一致する集団的な労使関係よりも、直属の上司との個別的な労使関係が重視されるようになったことも影響しているとみる。

 安倍政権が勤務時間を朝方にシフトさせて退庁時間を早める「ゆう活」や、女性活躍など働き方で、労組と親和性の高い施策を打ち出している点も注視し、「政権以上に共感を得られる主張を労組が言わないと存在意義が埋没しかねない」と指摘する。

■環境省では組合復活

 労組は衰退していくばかりなのか。環境省では11年に組合が消滅したが、13年に連合系の国公連合の支援を受けて、新たに全環境省職員労働組合が結成された。当初メンバーは4人。橋本幸男・中央執行委員長は農水省から環境省へ転籍して初めて組合のない職場を経験し、結成に携わった。14年秋には当局との交渉も復活し、年2回、超過勤務や要員改善などを求めている。今春、18人まで組合員が増えた。

 橋本委員長は言う。「組合があるかないかで管理職の意識はまるで違う。風通しのよい職場を実現し、より良いサービスを提供できれば国民の皆さんの期待に応えることにもなる。ただ、働く職員が問題意識をもたないと、結局、組合活動は長続きはしない」(歌野清一郎)
 

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