「今こそ職場の改革を」電通過労自殺事件、弁護士が文書

朝日DIGITAL 2017年1月21日
http://digital.asahi.com/articles/ASK1N6R8XK1NULFA03Q.html

 高橋まつりさんの過労自殺事件を担当する川人博弁護士は20日の記者会見で、「今こそ職場の改革を実現することを訴える―2人の電通社員過労死事件を担当した者として―」と題する文書を配布した。全文は次の通り。

特集:電通・過労自殺問題

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 2人の電通社員過労死事件を担当した者として、意見を述べる。

(1)1991年8月、電通男性社員(当時24歳)が入社2年目に死亡した原因は、3日に一度は徹夜という「常軌を逸した」(東京地裁判決の表現)長時間労働による過労、ならびに上司によるパワハラが原因であった。下級審判決にとどまらず、最終的に最高裁判決(2000年3月24日)によって企業の責任が明確にされ、その後、会社が遺族に謝罪し、再発防止にとりくむことを約束して、訴訟上の和解が成立した(最高裁以降川人が遺族代理人を務めた)。

 そして、電通は、現在の本社建物に移転した後に、フラッパーゲート記録で従業員の入退館時刻を管理し、労働時間短縮・健康管理にとりくんでいる旨をメディアを通じて広報した。

 にもかかわらず、最高裁判決から15年経過した年に、高橋まつりさんが、前記事件と全く同じような原因で死亡に至ったことは、実に深刻な事態と言わざるを得ない。

 電通における犠牲者は、この2人にとどまらず、いま報道されているだけでも、さらに1人の死亡(2013年)につき労災認定(昨年)されており、加えて、過労死の疑いの強い在職中死亡は、これら3名以外にも相当数発生している。死亡に至らずとも、業務上の過労・ストレスが原因と思われる疾病に罹患した人も数多い。

 高橋まつりさんの死は、まさに起こるべくして起きたものと言わざるを得ない。会社経営者の責任、管理者の責任は、極めて重大である。と同時に、かかる異常な職場の状態を放置していたことにつき、行政当局も、深く反省しなければならない。

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(2)昨年10月7日の労災認定記者会見以降、かつてない報道がおこなわれ、また、行政当局も機敏な動きをおこなった。この結果、電通にとどまらず、日本の企業全体に対して、長時間労働を削減すること、過労死をなくすことの重要性・緊急性が指摘されることとなり、現在に至っている。

 その意味で言えば、現在、わが国の長年にわたる職場の長時間労働、過重労働を改革していく社会的条件が熟しており、この機会を逃がすことなく、確実な改革を実現しなければならないと考える。

 電通の役員諸氏は、社長交代の有無にかかわらず、職場改革のために全力を尽くしていただきたい。

 また、日本のすべての企業において、企業トップが先頭に立って、改革を実行していただきたい。

 政府・行政当局においては、過労死等防止対策推進法(2014年成立)に定める「国の責務」を、しっかりと自覚して、過労死ゼロの社会へ向けて、具体的な措置を早急に講ずることを求めたい。とくに、現在審議されている「働き方改革」において、時間外労働時間の上限規制を法律・政令で定めることを強く訴えたい。また、長時間労働、過重労働を促進するような法律の制定・改正は、断じておこなってはならない。

 当職は、今後とも、働く者のいのちと健康を守るために、微力を尽くしていきたいと考えます。

以上

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