1年生からシューカツ 内定なし2万5000人 自殺41人の現実

読売新聞2013年1月3日


飯島塾長(奥)と面談する美佳さん。就職活動への不安にさいなまれ、大学1年ながら就活塾に飛び込んだ(東京都渋谷区で)=増田教三撮影
 
未来を背負う若者たちに、この社会は温かいのだろうか。長く厳しい就職活動に疲弊する者、ネット社会にとらわれ、翻弄される者――。彼らの暮らしに目を凝らせば、見えてくる日本の姿がある。
 
昨年12月、東京・代官山の料理店。ウーロン茶のグラスを手に、大学1年生の美佳(19)(仮名)は傍らの男性の声に耳を傾けた。
 
「グラスは目上の人より下にね」
 
慣れない手つきで、グラスをかざす。「乾杯!」。食事が始まった。男性は、さらに言葉を重ねる。
 
「すぐメニューを差し出す」「グラスのビールが半分以下になったら注(つ)いで」
 
戸惑いがちの美佳に、男性が諭すように言う。「飲み会は楽しむものじゃない。楽しませるものだ」
 
美佳が通う「維芯(いしん)塾」(渋谷区)のこの日の授業は、「食事会研修」。塾長の飯島三厳(みつよし)(30)から宴席での立ち居振る舞いを学ぶ。
 
維芯塾は、<就活塾>だ。2011年開塾。塾生13人で1年生は美佳1人。現在の2年生3人も1年の時から通っていた。
 
「『してもらう』ことばかり考え、相手に何をしてあげられるかに思いが至らないのが今の若者。やりたい仕事を見つけ、社会人に必要な気遣いや自立心を育むには、1年からでないと間に合わない」と、飯島は強調する。
 
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厚生労働、文部科学両省によると、12年春卒業の大学生の就職率は93・6%。過去最悪の前年同期に比べて2・6ポイント改善したが、約2万5000人が内定を得られなかった。一方、警察庁のまとめでは、就活の悩みから自殺した大学生は11年、全国で41人に上り、07年の3倍以上に増えた。
 
そんな世情が、卒業までまだ3年余りも残す美佳の不安をかき立てている。
 
高3の時、就活を控えた先輩の大学生から、こんなことを聞かされた。
 
「大学1年から資格の勉強とか始めた方がいいよ」
 
中高一貫の女子校から都内の系列私大に進むと、周りの同級生たちが、「就活のために」と、次々に簿記や英語、秘書検定などを習い始めた。
 
よく学び、遊ぶ――。理想の学生生活と、現実は違った。流行を追うのが大好きで、ファッション雑誌に「今年の流行」と紹介された洋服は必ず買う。「他人に左右されやすいタイプ」だという美佳が、「就職できないかも」と駆け込んだ先が飯島の塾だった。
 
週1回、月謝5000円。授業は、日常生活の中で「なぜそう思ったか」を考える訓練、飯島の経営コンサルタント会社で1日3時間の電話営業を行い、「どうすれば売れるか」を考察する「テレアポ研修」、2次会の盛り上げ方を学ぶ「カラオケ研修」……。
 
「企業に気に入られようと自分を偽ることなく、自信を持って就活に臨める若者を育てたい。商売でやっているわけではない」と、飯島は言う。
 
美佳は「自分が何をしたいか、まだわからない。こうして色々経験し、考えればきっと見つかるはず」
 
そう、信じている。
 
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「この子の何がいけないのか、わからない」
 
就活に失敗した学生の親に多いのは、こう言って途方に暮れるパターンだという。就活塾「就活Will(ウィル)」(東京都渋谷区)が、人材育成会社の一部門だった10年春に始めた「親子カウンセリング」はこれまで100組以上が利用した。「有利な資格は何?」「落とされて落ち込む子どもにどう接したらいいの」。1回2時間、3万5000円。10回前後通う親もいる。
 
担当の園田雅江(53)は親の気持ちを代弁する。「保護者の多くはバブル期の恩恵を受け、就職に苦労しなかった世代です。ブランド志向が強く、子どもの就活もお受験の延長で、失敗したくない」
 
3年生の長女(21)とのカウンセリングを申し込んだ都内の父親(53)も、「どの業種に進みたいかわからない」との長女の言葉に不安を募らせた。幼い頃から成績優秀で、関西の有名国立大に進み、海外でボランティアも経験した長女。それなのに……。
 
長女は、高校も大学も、自分の進路は自分で決めてきたという。「友人の中には、親に『この会社どう思う』と聞き、『お給料が安いからやめておきなさい』と言われてやめる子もいる。口出しはされたくないけど、自分も就活には失敗したくない。親がサポートしてくれて心強い」と話す。
 
社会のスタートラインに立つその手前で、若者はもがき、親も惑う。(敬称略)

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