揺らぐ「ものづくり」 現場で何が 相次ぐ品質問題

 朝日DIGITAL 2018年2月28日

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新幹線「のぞみ34号」で昨年12月に見つかった台車の亀裂は、製造段階での強度不足が原因だった。台車をつくった川崎重工業の金花芳則社長は28日夜、神戸市の本社で記者会見し、深刻な事態を招いたことを謝罪した。製造業で相次ぐ品質問題は、人命にかかわる事故の寸前まで及び、日本の「ものづくり」への信頼を揺るがしている。

精度ばらつきすき間 調整のため台車削る 川重が説明

金花社長は「品質第一でものづくりを続けてきた会社として、事故にはいたらなかったが、非常に反省している」と頭を下げた。問題は業界や社内の基準に反していたことを認めた。

問題の背景には、生産管理部門と現場の権限があいまいだったことがある。車両部門を統括する小河原誠常務は、管理部門が現場に示す作業指示について、「指示を(必ず)守る部分と現場に任せる部分が明確になっていなかった」と述べた。結果的に作業の多くが現場に任せきりになっていたという。

現場では、作業仕様書が張り出されているため、作業員全員がみることはできた。だが、実際には「(現場をまとめる)班長の指示」が優先されたという。班長の指示に問題がある場合に、それを修正する仕組みは確立できていなかった。

一方で、「納期の面で現場に圧力があったのではないか」との質問に対しては、金花社長は「納期に迫られて無理やり作業をしたようなことはなかった」と否定した。

川重にとって鉄道事業は中核事業の一つで、売上高は全体の1割弱にあたる。現時点で考えられる販売への影響は、「大きなものは今のところない」(小河原常務)とした。

日本の製造業を巡っては近年、製品の品質や、品質管理をめぐる問題が相次いで発覚している。

日産自動車やスバルは、新車の出荷前に必要な完成検査を無資格の従業員に任せていた。素材系メーカーでは、神戸製鋼所で、顧客に提出する製品の品質データを不正に書き換えた問題が発覚したのを皮切りに、三菱マテリアルや東レ、宇部興産でも同様の不正が次々に明るみに出た。背景には、権限のあいまいさやチェック機能の弱さなど、今回の問題と重なる部分も多い。

問題が起きるたび、「安全性には問題がない」と説明がされた。しかし今回は、一歩間違えれば大事故につながりかねない、「重大インシデント」と運輸安全委員会が認定する事態になった。

川重は、再発防止のために外部の人材も入れた品質管理の新組織を立ち上げる。金花社長は「再発防止、品質管理の徹底、社内ガバナンスの強化。私自身が推し進めなければいけない」と述べ、辞任を否定した。

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〈川崎重工業〉 1878年、川崎築地造船所として創業。造船、航空機、鉄道車両、発電設備などを幅広く手がける。「カワサキ」ブランドのオートバイは、世界で知られている。2017年3月期の売上高は1兆5188億円で、従業員は約3万5千人。

問題が起きた鉄道車両を含む「車両事業」の売上高は1371億円。JR西日本の新幹線「N700系」は07年から手がける。現在国内最高の時速320キロで走るJR東日本の東北新幹線「E5系」なども製造している。海外での事業にも力を入れており、2020〜23年に米ニューヨーク市交通局向けに新型の地下鉄車両535両を納入する。

日本の製造業で品質問題が続いている

2016年4月 三菱自動車 軽自動車の燃費試験でデータを偽装

2017年9月 日産自動車 無資格の従業員による新車の出荷検査

10月 神戸製鋼所 アルミ・銅製品などの検査データ改ざん

スバル 無資格の従業員による新車の出荷検査

11月 三菱マテリアル ゴム部品などで製品の品質データを改ざん

東レ タイヤ補強材などで品質データを改ざん

2018年2月 宇部興産 ポリエチレン製品で検査成績表を偽装

(年月は発覚や発表した時期)

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