第108回ILO総会閉幕:条約、勧告、宣言などを採択 (6/21)

第108回ILO総会

第108回ILO総会閉幕:条約、勧告、宣言などを採択
記者発表 | 2019/06/21
 
第108回ILO総会閉会式模様
 2019年6月10日にジュネーブで開幕した第108回ILO総会 は、21日に2週間の日程を終えて閉幕しました。日本を含む187加盟国から約6,300人の政府、使用者、労働者の代表に加え、多数の国内・国際非政府組織(NGO)のオブザーバー、国家元首・政府首脳級のハイレベルゲストの出席がありました。
 
 総会は最終日に仕事の世界における暴力とハラスメント(嫌がらせ)と戦う条約と付属する勧告、そして人間中心の仕事の未来に向かう道を定める宣言を採択しました。
 
 変化する仕事の世界の中でILOに付託された任務の重要性と妥当性を再確認する「2019年の仕事の未来に向けたILO創立100周年記念宣言 」は、ILO自身の行動を示す行程表であるだけでなく、動員を呼びかけ、その意図を強く表明する文書となっています。仕事の未来を人間中心のレンズを通して見るこの宣言は、全ての労働者の十分な保護の確保を目的とした仕事に係わる制度機構の強化、そして持続可能で包摂的かつ持続的な経済成長並びに生産的な完全雇用の促進を通じて、人々が仕事の世界における変化から利益を得られるようにすることに強く力点を置いています。
 
 宣言が定める具体的な行動分野には以下のようなものが含まれています。◇機会及び待遇における男女平等の実効的な実現、◇効果的な生涯学習と全ての人への良質な教育、◇全ての人に開かれた包括的で持続可能な社会的保護の機会、◇労働者の基本的な権利の尊重、◇十分な最低賃金、◇労働時間の上限、◇労働安全衛生、◇ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を促進し、生産性を高める政策、◇適切なプライバシーと個人データの保護を確保し、プラットフォーム労働を含み、仕事のデジタル変容に関連した仕事の世界の機会と課題に対応する政策と措置。
 
 宣言について、ガイ・ライダーILO事務局長は、「仕事の未来とはすなわち私たちの組織の未来であり、今日採択したものは行程表、この組織の未来において私たちを前進に導く羅針盤」と表現しています。
 
 創立100周年の記念すべき年に当たる今年の総会には、アントニオ・グテーレス国連事務総長 を始め、40人あまりのハイレベル・ゲスト が出席し、ILO、そしてILOに付託された任務である社会正義を支持する強いメッセージを発しました。グテーレス事務総長は、「100年前に点された、ILOが掲げ進んでいるたいまつは、政府、使用者、労働者が意思決定の卓に共につき、包摂性のモデルを土台とし、社会正義を基礎とした新たな世界の構築を助けるもの」と評した上で、宣言について、「世界中の人々に、より明るい未来に至る扉を開く歴史的な機会を印すもの」と評価しました。そして、ILOがその付託された任務を次の100年間に提供する基盤を定める100周年記念宣言について、野心的ながら、望みや意図の声明以上のものであり、開発についての私たちの見方のパラダイム転換」を提案する文書との理解を示しました。
 
 グテーレス事務総長はまた、「2019年の暴力・ハラスメント条約(第190号)」及び同名の付属する勧告(第206号) の採択を歓迎しました。仕事の世界における暴力とハラスメントは「人権侵害または虐待となり得、平等な機会に対する脅威であり、許容できず、ディーセント・ワークと相容れない」と認識する条約は、「暴力とハラスメント」について、「心身に対する危害あるいは性的・経済的に危害を与えることを目的とするか、そのような危害に帰する、あるいは帰する可能性が高い」行動様式及び行為またはその脅威と定義し、加盟国に対しては「全く容赦しない一般的な環境」を促進する責任があることに改めて注意を喚起しています。新しい国際労働基準は、契約上の地位にかかわらず、あらゆる労働者及び従業員を保護することを目指し、これには研修生やインターン、見習い実習生、雇用契約が終了した労働者、ボランティア、求職者、求人広告への応募者なども含むものとしています。さらに、「使用者の権限、義務、責任を行使している個人」も暴力やハラスメントの対象となり得ることを認めています。
 
 暴力やハラスメントの発生場所に関しては、基準は職場のみならず、労働者がそこに存在することによって支払いを受ける場所や休憩場所、食事休憩を取っている場所、洗浄・衛生設備や更衣設備を用いる場所、出張中や研修中、行事・社交活動中、情報通信技術(ICT)経由の場合を含む、仕事に関連したコミュニケーションの過程、使用者の提供する宿泊設備、通勤中も含むものと規定しています。また、第三者が関連する場合もあることを認めています。
 
 ライダー事務局長は次のように述べて、採択を歓迎しました。「新しい基準は、暴力とハラスメントから自由な仕事の世界に対する一人一人の権利を認めています。次の段階は、男女双方により良い、より安全で働きがいのある人間らしい労働環境を形成するために、この保護を実践に移すことです。この問題に関して見られた協力と連帯、そして行動を求める一般の人々からの要求に鑑みると、迅速で幅広い批准と実施のための行動が期待できます」。
 
 条約は批准国を法的に拘束するのに対し、勧告は拘束力のない指針として用いられます。宣言とは、加盟国による決議であり、権威ある公式な声明を行うために用いられます。
 
 総会の基準適用委員会 は条約の適用に関する個別事例24件を取り上げ、結論を採択しました。
 
 会期中には国連機関その他多国間機関のトップや政労使ハイレベル代表が参加する、仕事の未来に関するテーマ別討議 も複数行われました。
 
 総会の議長を務めたスイス連邦経済省経済事務局のジャン=ジャック・エルミジェ国際労働局長は、総会の成果は「世界の平和を支え、社会正義に向けた公約を永続させる力をILOに与えるもの」と評価し、「この総会は歴史に名を刻むものとなろうことを認めようではありませんか」と呼びかけました。副議長にはアンゴラの政府代表、ケニアの使用者代表、ブルガリアの労働者代表がそれぞれ選出されました。
 
 第108回ILO総会の討議資料や議事録、採択文書、投票結果などは、総会のウェブサイト でご覧になれます。ハイレベルゲストの演説を含む本会議やテーマ別フォーラムの模様は録画動画 でご覧になれます。
 
 以上はジュネーブ発英文記者発表 の抄訳です。

 

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