第81回 韓国で大きく進むプラットフォーム労働者の権利実現(下)協約・条例による権利保障

エッセイ第79回 韓国で大きく進むプラットフォーム労働者の権利実現(上)PF労働希望探し第80回 韓国で大きく進むプラットフォーム労働者の権利実現(中)配達員の団結活動に続いて、今回は、韓国のプラットフォーム労働をめぐる協約、条例、法律について、この4年余りの急激な進展について調べてみました。とくに、関連の協約、条例については、その日本語試訳も含めて、具体的な内容を紹介します。なお、2020年秋の「社会協約」締結の背景、経過、内容については、既に、呉学殊「韓国プラットフォーム配達労働に関する画期的な協約」(2020年10月)が詳しい報告をされています。さらに、安周永(2022)「新しい働き方」における集団の意義―韓国20年間の軌跡からの示唆 日本労働研究雑誌No.747が、プラットフォーム労働についてアジアで初めて労働協約を締結した韓国の最近までの状況を詳細に分析されています。なお、日本語訳の文責は、SWakitaにあります。誤訳などがあれば、ご指摘いただければ幸いです。

 プラットフォーム労働改善へ-自治体条例と協約-

 プラットフォーム労働者保護実現へ気運高まる

 韓国では、2010年代の後半からプラットフォーム労働に対する社会的関心が高まり、労働法・社会保障法が適用されない労働環境(死角地帯)にあるプラットフォーム労働者を保護するために、多くの研究調査や討論会、政府関連の各種タスクフォース(TF)などが行われました。

 韓国の国家人権委員会は、2019年8月1日から11月5日まで、プラットフォーム労働者821人を対象にプラットフォーム労働者の人権状況実態調査を行いました。その結果を発表する政策討論会が、2020年1月15日に開催しました。その実態調査結果報告書は、300頁を超える大部なものです。回答者の64.2%は、プラットフォーム労働だけに従事する専業者であり、残りは副業で、プラットフォーム労働をしており、賃金労働者15.5%、自営業6.6%、フリーランサー13.7%でした。専業者は、業種別では、家事ケアで86.9%、貨物運送84.2%、代行運転63.4%、クイッサービス56.0%でした。プラットフォーム労働者の総収入は平均234万1千ウォンでしたが、費用を除く純所得は、月平均152万7千ウォンしかありません。一日の平均労働時間は8.22時間で全日労働者と変わらない長さでした。

 この報告書は、詳細な実態調査に基づき、きわめて興味深い分析を加えており、プラットフォーム労働者の権利実現に向けて多くの示唆を与えるものです。その詳しい内容の紹介は別の機会にしたいと思います。ここでは、プラットフォーム労働者の権利保護について、外国との比較を踏まえて、偽装自営業について「雇用推定」導入の必要性、自営業者と自営業者の二分法を維持したまま第三のカテゴリーを導入することは偽装自営業を誘引するので望ましくないこと、団結権など集団的な労働三権の保障、適正な報酬、最長労働時間規制、安全と保健については雇用関係の有無と関係なく、すべての仕事をする人に保障する必要性を強調していることは大いに共感できる指摘です。

プラットフォーム労働従事者の人権状況実態調査 – 国家人権委員会

国家人権委員会
プラットフォーム労働従事者人権状況実態調査
2019年11月
(目次)
第1章 序論
第2章 プラットフォーム経済の支配構造
第3章 韓国プラットフォーム労働の性格
第4章 プラットフォーム労働従事者の実態
第5章 プラットフォーム労働者保護のための法・制度的課題
第6章 集団的労使関係形成のための制度的アプローチ
第7章 プラットフォーム労働者に対する社会的保護
第8章 結論的提言

 このような調査の結果として、プラットフォーム労働者保護の必要性についての認識は大きく広がりました。しかし、関連する法と制度の整備が進まないまま、実際に労働者の状況を改善する対策は遅れていました。
 しかし、当時の政権が「労働尊重」を標榜する文在寅政権であったこと、とくに、2018~19年頃にかけてプラットフォーム労働者自身の組織化が進んだこと、また、「コロナ禍」の中で、必須労働者保護の世論が高まったことなどを背景に(エッセイ第80回参照)、専門家と労働組合、地方自治体らの努力が実を結び、2020年秋に、実効性のある条例が制定され、画期的な協約(社会協約と団体協約)が締結されました。その結果、プラットフォーム労働者の権利実現に奮闘してきた当事者からも、「努力が豊かな実を結んだ」と評価される状況になりました。(キム・ソンヒョク(2020)「プラットフォーム労働、初の社会協約と団体協約」

 ライダーユニオン 業界初の団体協約締結 (2019.7)

 前回のエッセイで紹介した配達労働者自身の労働組合「ライダーユニオン」は、発足して間もない2019年に、ソウル市江西地域の配達代行社である「配達は兄弟たち」との間で、2019年6月5日の顔合わせから約1ヵ月間の団体交渉を経て、7月9日、韓国の配達業界で初めてとなる団体協約を締結しました。(時事focus 2019.7.5)この団体協約では、①標準契約書作成(2条)、③懲戒委員会への組合代表参加(3条)、④労働条件不利益変更時の協議義務(4条)、⑤基本配達料、割増(4条)、⑤正当な組合活動への協力(5条)、⑥組合主催の教育等への参加保障(6条)、⑦事故時の支援等(7条)、⑧年に一度の交渉(8条)、⑨合意事項の組合員全員への通知(9条)、⑩ユニオンショップ(10条)などの内容が盛り込まれています。団体協約の条文(10ヵ条)の日本語訳は下記のとおりです(Riderunion Facebook)。

(出所)時事時時focus 2019.7.5.

 江西地域では、4月に配達業の「プルン」で働いていたライダーたちが、突然、単価引き下げや不当解雇されたためにライダーユニオンに加入して闘っていました。そして、こうしたライダーたちを集めて「配達は兄弟たち」という配達代行社が開業したという背景がありました。「配達は兄弟たち」のパク・ミョンソン社長は、「ライダーたちのおかげで配達業界も食べていける」とし。 「ライダーの安全と生活安定が最優先される業界慣行を作っていく。 週5日8時間労働しながらも食べていける環境を作ることが目標」と述べたと報じられています。(時事focus 2019.6.4.)この団体協約は、地域的には限られたものであり、協約当事者の配達代行社の規模も大きくはありませんが、後続する配達業大手との協約の先行的な成果として大きな意義を持つことになりました。

 ライダーユニオンと配達は兄弟団体協約 条文 (日本語試訳)      ここをClick
  •  配達は兄弟たちとライダーユニオンはライダーたちの安全と勤務環境に対する規則が全くない現在の配達産業に深い問題認識を持っている。これに対し労-使が自律的にライダーの労働条件を改善し、配達業の新しい基準と規則を提示して配達産業全体の持続可能性を担保するために本協約を締結し相互誠実に遵守することを誓う。
  •  1条 配達は兄弟たちとライダーはライダーユニオンと協議して作った標準契約書を必ず作成し、1部ずつ配る。
  •  2条 標準契約書を修正するためにはライダーユニオンと事前に協議しなければならない。
  •  3条 組合員に対する懲戒と不利益処遇をするためには、ライダーユニオン1人、配達は兄弟分会所属組合員1人が参加する懲戒委員会の正当な手続きを経なければならない。 (懲戒委員会は配達は兄弟1人/ライダーユニオン1人/分会員1人で構成する)
  •  4条 配達は兄弟が配達料、距離基準、割増制度など所得と勤務条件を不利益に変更するためにはライダーユニオンと事前に協議しなければならず、協議後所属ライダー半数以上の同意を経なければならない。
  •  ① 基本配達料は、3500ウォンとし、500メートル当たり500ウォンの距離割増を適用する。
  •  ② 雨天/猛暑/寒波などの悪天候には500ウォンの割り増しが適用される。
  •  ③ 12月25日/12月31日/1月1日には500ウォン割増を、旧正月と秋夕連休3日には1000ウォンの割増を適用する。
  •  ④ 夜12時から朝9時には500ウォンの深夜割増が適用される。
  •  ⑤ ライダーの出入りが難しいアパート、建物には500ウォンから2000ウォンの間の割増を適用する。 (具体的な場所は協議の上決定する。)
  •  5条 配達は兄弟たちはライダーユニオンの事務室出入り、組合員連絡など正当な労働組合活動に積極的に協力しなければならない。
  •  6条 配達は兄弟たちは月1回ライダーユニオンが主管する教育および組合員支援事業への参加を保障しなければならない。
  •  7条 ライダーユニオンは、配達は兄弟たちと協議して組合員が事故が起きた時に法律的、医療的支援をし、諮問機関を通じて財務相談、医療相談など組合員の権益と福祉向上のために努力する。
  •  8条 会社側と労組は、年に一度ずつ組合員の勤務条件と関連して交渉を進める。
  •  9条 会社側と労組が合意した事項は、共同の名義で組合員全員に携帯メールで公示する。
  •  10条 労働組合の形態はユニオンショップとする。(入社後30日以内に労働組合に加入しなければならず、労働組合から脱会、除名などを受ければ解雇される)
  •  附則
  •   1条(名称変更後の効力)
  •   本協約締結後、会社や組合の名称が変更されたときも、本協約は引き続き有効なものとする。
  •   2条(団体協約継承)
  •   本協約締結後、会社が売却、買収合併されたり、新設法人などに変動が生じた場合、雇用と団体協約は継承される。
  •   3条(協約の有効期間)
  •   本協約の有効期間は協約締結時から1年後の2020年7月9日までとする。
  •   4条(不履行の責任)
  •   本協約不履行によって発生するすべての責任は不履行した側にある。
  •   2019. 7. 9
  •   配達は兄弟たち代表 パク・ミョンソン
  •   ライダーユニオン委員長 パク・ジョンフン

 自治体のプラットフォーム労働者支援条例

 「コロナ・ウィルス」による世界的パンデミックのために、各国は感染対策に迫られ、ソーシャル・ディスタンスの必要から対面サービス業の休業が増えました。その一方、プラットフォームを通じた宅配サービスに対する需要が大きく高まりました。しかし、この宅配サービスに従事する労働者は、多くが「個人自営業者」とされ、労働法や社会保障法の適用を受けない無権利な働き方を強いられていました。その結果、急増する需要に対応するために労働が、普段以上に過密・長時間化しました。そして、社会にとっては不可欠な「エッセンシャル・サービス」としての二輪車・四輪車などによる配達労働者に「過労死」が続出しました。こうして、その長時間・過密労働の劣悪環境が可視化され、韓国社会のなかで、ようやくその改善の必要性が広く認識されることになったのです。そして、政府がエッセンシャルサービスに従事する対面労働者の保護対策を打ち出して「必須労働者保護法」を制定するなど、対策を強化することになりました。(エッセイ第63回参照)

 自治体でも、同様な対策の一環として、2020年9月、地方自治体で初めて京畿道が、「プラットフォーム労働者支援条例」を制定しました。この条例は、プラットフォーム労働者が、労働者と類似した労務を提供しているにもかかわらず、勤労基準法など労働関係法令を適用されない中で、その権利を保護し、地位向上を図ることを目的にしています。この条例の主な内容は、①プラットフォーム労働者支援のための専担(専門担当)部署の設置、②支援政策および制度改善のための研究・調査、③法律・労働・経営の相談および支援、④模範取引基準準備、⑤安全教育および保護装具支援、⑥生活安定計画および社会保険など社会的基本権保障支援、⑦自助会協同組合などの組織化支援、⑧プラットフォーム労働運営協議会設置などです。この条例は2020年10月8日に公布され、施行されました。条例の条文(日本語試訳)は以下の通りです。

京畿道プラットフォーム労働者支援条例 条文(2020年制定時)日本語訳  Clickで全文表示
  •  京畿道条例第6745号、2020.10.8. 制定
  •  第1条(目的) この条例は、「勤労基準法」にともなう労働者と類似して労務を提供するにもかかわらず労働関係法律を適用されない京畿道内プラットフォーム労働者の権利を保護し地位向上を図ることを目的とする。
  •  第2条(定義) この条例で使用する用語の意味は、次のとおりである。
  •   1. 「プラットフォーム労働」とは、オンラインプラットフォーム(以下「プラットフォーム」という。)を介して需要と供給をマッチングする労働またはサービスをいう。
  •   2. 「プラットフォーム労働者」とは、商品やサービスの供給者と消費者を連結するオンラインプラットフォーム事業者から仕事を受け、労働を提供して収入を得る人をいう。
  •  第3条(適用対象) この条例は、次の各号のいずれかに該当するプラットフォーム労働者に対して適用する。
  •   1. 京畿道(以下「道」という。)に住所を置く場合
  •   2. 道に事業場所在地を置く場合
  •  第4条(道知事の責務) ①京畿道知事(以下「道知事」という)は、プラットフォーム労働者が「勤労基準法」等、労働関係法令にともなう労働者ではないという理由で差別を受けず、労働者に準ずる保護を受けられるよう努力しなければならない。
  •   ② 道知事は、プラットフォーム労働者が安全な環境で労働し、適正な賃金を受けられるよう努力しなければならない。
  •   ③ 道知事は、プラットフォーム労働者に対する社会安全網構築および拡大のために努力しなければならない。
  •  第5条(専門担当部署設置) ①道知事は、プラットフォーム労働者の保護と支援業務を効率的に推進するために所管室·局に専担(専門担当)部署を設置したり必要な専門人材を配置することができる。
  •   ② 専担部署は、次の各号の業務を遂行することができる。
  •   1. プラットフォーム労働者の支援政策および制度改善のための研究・調査
  •   2. プラットフォーム労働者に対する法律相談および支援
  •   3. プラットフォーム労働者の模範取引基準を設けるための研究・調査
  •   4. プラットフォーム労働者の労働災害予防のための安全教育および保護具支援
  •   5. プラットフォーム労働者の生活安定および社会的基本権保障支援
  •   6. プラットフォーム労働者の組織化支援
  •   7. その他プラットフォーム労働者の労働条件向上のために道知事が必要と認める事業
  •   ③ 道知事は、第2項による業務を推進するために「京畿道事務委託条例」により法人または団体などに委託することができる。
  •   ④ 道知事は、第3項にともなう委託機関の他にプラットフォーム労働者支援業務を遂行する法人または団体に対して「京畿道地方補助金管理条例」により予算の範囲で必要な経費の全部または一部を支援することができる。
  •  第6条(実態調査) 道知事は、プラットフォーム労働者の保護事業を推進するために必要な場合、道内市·郡、関係機関などとの協力を得てプラットフォーム労働者現況など実態調査を実施することができる。
  •  第7条(総合計画等樹立) ①道知事は、次の各号の事項を含め京畿道プラットフォーム労働総合計画を5年ごとに樹立·施行しなければならない。
  •   1. プラットフォーム労働者支援のための基本方向および目標
  •   2. プラットフォーム労働者の現状等についての実態調査
  •   3. プラットフォーム労働者保護および支援対策
  •   4. 総合計画の実行のための財源調達策
  •   5. プラットフォーム労働者被害予防および救済のための教育·広報
  •   6. その他プラットフォーム労働者の権益保護のために道知事が必要と認める事項
  •   ② 第1項の総合計画により毎年施行計画を樹立·施行しなければならない。
  •  第8条(プラットフォーム労働運営協議会) 道知事は、プラットフォーム労働者保護など関連事項に関する次の各号の事項を諮問されるためにプラットフォーム労働運営協議会を置くことができる。
  •   1. プラットフォーム労働の実態と現状
  •   2. プラットフォーム労働の法体系と問題点
  •   3. プラットフォーム労働者の労働環境および環境改善
  •   4. その他プラットフォーム労働者支援のための政策発掘に関する事項
  •  第9条(模範取引基準など) ①道知事は、プラットフォーム労働者に対する不公正取引慣行をより効果的に予防·改善できるよう業種別模範取引基準を開発·普及できる。
  •   ② 道知事は、公正取引慣行定着のために道および道所属公共機関、民間企業·機関などの長に模範取引基準などの遵守·適用を推奨することができる。
  •  第10条(法律支援等) ①道知事は、プラットフォーム労働者の税務相談、労務相談または契約上の紛争などに関する権利救済のために法律相談サービスを提供することができる。
  •   ② 道知事は、法律相談を受けたプラットフォーム労働者に対して「京畿道無料法律相談室設置および運営条例」第9条により無料訴訟を支援することができる。
  •  第11条(施行規則) この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。
  •  附則 <2020.10.8.>
  •   この条例は、公布した日から施行する。

 また、飲食配達労働者ではなく代行運転労働者対象ですが、同時期の2020年 10月、釜山市が「代行運転労働者権益保護条例」を制定し、釜山市として「代理呼び出し公共アプリ」を開発し、不当な手数料詐取問題を解決することにしました。その後も、全国の多くの自治体で関連条例が制定、さらに、いくつかの自治体では条例の改正もされています。

 京畿道プラットフォーム労働者支援条例は、コロナ禍の後、何度か改正されました。なお、2023年5月、京畿道は、「社会で価値を創出しても補償されない人たち」に一定期間、所得を補填する「機会所得」を芸術家・障害者に支給することにしましたが、これを過酷な労働に従事するプラットフォーム労働者にも対象拡大することを計画しました。つまり、3ヶ月以上無故障・無罰点、労災・雇用保険加入、安全教育履修などの条件を満たした京畿道の配達労働者に毎年上・下半期60万ウォンずつ計120万ウォンを「機会所得」として支給するという計画です。そして、その根拠となる上記条例の「立法予告」をする予定でした。しかし、この構想について異論(交通法規を遵守して事故を起こさず、罰則を受けないことは車両の運転者なら当然守るべき義務だが、これを金銭的に補償するのは正しくない)が政府・福祉部などから示されたため、2023年12月現在、条例改正の計画は中断しています。(KbsNews 2023.5.22京仁日報2023.8.28
 以下は、2023年12月3日現在のプラットフォーム労働者支援条例の一覧表です。(出典は、国家法令情報センターのWebページ

 「標準契約書」についての政労使「社会協約」(2020.10)

 以上の通り、「コロナ禍」直前から、プラットフォーム労働者の権利実現をめぐって、労働者自身による組合、地域の配達代行社との団体協約が生まれ、さらに「コロナ禍」を経て、自治体での条例、そして、全国規模の取り組みとして、2020年秋に、こうした状況の変化を背景に、プラットフォームを通じての配達サービス領域で初めて、自主的に労・使が中心となって労働・企業・専門家による社会的対話が行われ、「自律的な社会協約」が締結されることになりました。(キム・ソンヒョク:2021

 2020年10月6日、プラットフォーム労働の配達部門で初めて、労使の合意による「社会協約」が締結され、14日、国会で「代行運転・配達·クイックサービス労働者の権利保護のための標準契約書」協約式が行われました(下の写真)。 この場には、政府が呼びかけて、多くの関係者が参加しました。使用者側からは、配達関連企業(優雅な兄弟たち、デリバリーヒーローコリア、バロゴ、ロジオール、メッシュコリア、クーパン)、クイックサービス関連企業(インソンデータ、ソウルクイックサービス協会)、代行運転関連企業(カカオモビリティ、コリアドライブ)など業界を代表する多くの会社が署名しました。このため社会協約として意味があり、適用対象も数十万人に及びます。協約式には、労働組合では、すでにプラットフォーム労働者の組織化を本格的に進めていた民主労総サービス連盟所属労組(クイックサービス、サービス一般労組配達支部、代行運転)が、政府側では青瓦台(=大統領府)、国土交通部(=日本の国交省に相当)、国会議員では、与党「共に民主党」の乙支路委員会所属国会議員などが参加しました。

 この協約では、業界と労働界は、「クイックサービス配送委託標準契約書」「配達代行委託標準契約書」「代行運転分野標準契約書」の早期導入により、二輪車配送及び代行運転分野で公正な委託契約が締結されるよう努めることとされました。これらの標準契約書には、① 従事者の権利保護のための不公正取引行為と不当な処遇禁止、②労働災害予防のための従事者の安全管理の強化、③紛争発生時の解決策という規定が共通して含まれています。そして、国土交通部は、関係省庁と共に標準契約書の使用実態を周期的に点検するなど、標準契約書が関連業界全般に拡散できるよう積極的に努力すること、共に民主党および所属責任議員は標準契約書の導入および活用過程で必要な立法的措置がある場合、積極的に支援するが合意されました。(pmnews 2020.10.14労働と世界 2020.10.15

(写真)2020年10月14日の標準契約書協約式 (労働と世界 2020.10.15

 この協約によって、代行運転、配達、クイックサービスの主要企業を含む「政労使」関係者が参加したことで、「標準契約書」の履行を保障できる環境が生まれることになりました。ただ、就労する配達員や運転手は、個人事業者形式のままであることから、ここで合意された「標準契約書」は、法的効力が弱く、勧告に終わるので有名無実だという主張もありました。 しかし、この標準契約書協約に参加した民主労総サービス連盟をはじめ、労働側にも、勤労基準法や関連法が全くない中で、プラットフォーム企業ではパワハラが横行する「無法地帯」「死角地帯」と批判されてきた労働環境を改める手がかりとして「標準契約書」が、適正手数料、適正労働時間、配車方法などについて、一つの基準になりうるという積極的に評価する多くの意見が表明されました。(労働と世界 2020.10.15
 韓国では、契約書を交わさずに働く労働が少なくありませんが、法を無視する労働環境を改善するために、労働組合と業界団体との間で「標準契約書」による労働環境を作ることが重視されています。既に、この連続エッセイでも紹介した映画産業でも「標準契約書」の普及による改善が関係諸団体との間で合意され、それが産業全体の労働改善に大きく寄与しました。(エッセイ第34回参照)とくに、これらの「標準契約書協約」の締結の過程は、政府が仲介する形で、当事者の代表である使用者(企業)と労働組合が参加して協議し合意している点で、ILO、EU、OECDなどの国際機関が望ましいとする「社会的対話」の韓国版と言えるものだと思います。

  配達代行委・受託標準契約書
  モデル(日本語 試訳)

 左(画像)は、合意された「標準契約書」の中で、フードデリバリーなどの配達代行サービスでの「標準契約書モデル」(日本語試訳)です。〔全体は、8頁ありますので、画像をクリックすれば、全文(pdf)をダウンロード可能です〕
 その規定の表題は、第1条(目的)、第2条(基本原則)、第3条(契約の主な内容)、第4条(配達業務の遂行)、第5条(納品料の支払い)、第6条(不公正取引行為の禁止)、第7条(不当な取扱いの禁止)、第8条(産業災害予防)、第9条(事故の責任と損害賠償)、第10条(従事者教育)、第11条(産業災害補償など)、第12条(税金及び公共料金)、第13条(契約の変更)、第14条(契約の解約事由)、第15条(異議及び紛争の解決)、第16条(付帯合意等)です。
 そして、付録として、「産業災害補償保険加入」、「委・受託者が遵守しなければならない配達従事者安全関連の法令」が付いています。


 

 プラットフォーム労働の労使自律の社会協約(2020.10.)

 プラットフォーム労働代案用意のための社会的対話フォーラム

 この「標準契約書協約」と並行する形で、「社会的対話」の成果として、「配達サービス部門社会協約」が締結されることになりました。これらの社会協約締結の過程では、政府(労働部)は、これを参観する形で支援しました。実際の対話の主体となったのは、最初は、労働側からは民主労総傘下の「全国サービス産業労働組合連盟」(以下、サービス連盟)と、企業側からは「コリアスタートアップフォーラム」でした。両組織は2019年初めから多様なセミナーと討論会、研究調査協力等を通じて共感を高め信頼を築いてきました。そして、2020年からは、プラットフォーム産業で労使間の厳しい対立という構図が固まる前に協力できるモデルを探すことで相互に合意が生まれました。そして、労働側では、ライダーユニオンも参加して、下記の労働・企業・専門家によるメンバーで構成された「プラットフォーム労働代案用意のための社会的対話フォーラム」が、2020年4月から会議を重ねて、プラットフォーム産業の発展と労働者の権益保障を目的とする対策案を6ヵ月にわたって議論し、10月に、社会協約案についての合意に至ったのです。
 最終的に協約に署名したのは、労働組合では、民主労総サービス連盟とライダーユニオンが、企業側ではコリアスタートアップフォーラム、配達の民族(優雅な兄弟)、ヨキヨ(デリバリーヒーローコリア)、スパイダークラフトでした。コリアスタートアップフォーラムは、協約に参加した3社をはじめ、代理主婦、マーケット・カーリー、チクバン、トスなど1,500あまりのスタートアップが加盟会社の事業者協会でした。署名企業は飲食配達業界でも大手でしたので、協約の適用を受ける配達員(ライダー)は約7万5,000人を数えることになりました。(時事イン 2020.11.3

2020年10月6日に行われた協約式の様子
(出所)参与と革新 2020.10.27
 

 プラットフォーム社会協約の意義と条文

 この「社会協約」は、2020年10月6日に結ばれました。全国的な産業部門の協約としては「標準書契約」協約に続くもので画期的な意味をもっています。まず、韓国では、労使の対立が厳しく、相互の立場を尊重して信頼関係を築くことに慣れない状況が続いてきました。とくに、サムソンや現代などの財閥資本は、反組合的な姿勢や無労組主義の方針を続けてきました。これについて、本来は、韓国でも、欧州のように産業部門の特色や独自性を踏まえて、労使が互いの立場を尊重して協約による自治が必要であることが多くの論者から指摘されてきました。ところが、世界でも、UberやAmazonなどの多国籍企業が反組合・無組合の方針で膨大な収益をあげるビジネス・モデルを広めて、大きな問題を引き起こしています。こうした中で、韓国で、労使が相互の信頼を前提にした社会協約を結んだことは、大いに注目することができます。

 次に、変動の激しいプラットフォーム産業部門では、法律的規制ではなく、労使の機敏な話し合いによる自治が有効であることが指摘されており、その点でも、今回の社会協約は大きな一歩であると思います。その点では、ここで紹介する2020年の「社会協約」は、2018年6月1日に、イタリアのボローニャ市が世界で初めて定めた「都市におけるディジタル労働の基本的権利憲章」とも、協議過程、構成メンバー、合意の内容など多くの点で共通していると思います。(詳しくは、エッセイ第61回 「雪のストライキ」とボローニャ市・ライダー基本権憲章 参照)

 第三に、今回の社会協約は、「自律協約」とされますが、その意味について、「参加と革新」紙(2022.10.27)は、3点を指摘しています。一つ目は、労使主導の社会的合意という「協約それ自体」に大きな意味があり、「労使が共存する初の踏み台」になるということです。二つ目は、協約に労使尊重が盛り込まれ、配達員を労働3権の主体=「労働者」として認定したことです。三つ目は、プラットフォーム配達産業市場秩序の確立に向けた基準を用意したことです。

 協約は、全体で1.総則、2.公正な契約、3.作業条件と保障、4.安全と保健、5.情報保護と疎通、6.後続課題の6章、33の条項で構成されています。また、これとは別に、「政府への建議」が合意されました。これらの全文は、以下に日本語試訳しました。

【全文】 プラットフォーム、経済発展とプラットフォーム労働従事者権益保障に関する協約
      -配達サービス業を中心に-    (ここを Click すれば、全文を表示)            
  • 1.総則
    1-1. この協約は、プラットフォーム経済の健全な発展とプラットホーム労働従事者の権益を保障するために、協約に参加する各主体の役割と努力を規律することを目的とする。
    1-2. この協約は、消費者の要請に回答して料理、生活用品などを供給者から受けて提示された位置に伝える配達サービス業を規律する。
    1-3. この協約の適用対象は次の通りである。
     ①「プラットフォーム企業(以下、企業)」とは、配達サービス業領域で多数の供給者と消費者、配達労働従事者を連結して配達サービス関連効率的な取引行為を促進するシステムと、これを運営する企業を通称する。
     ②「プラットフォーム労働従事者(以下、従事者)」は、プラットフォームを媒介にした業務遂行契約を締結して多様な輸送手段を通じて配達サービス業務を実質的に行うすべての人を指す。ただし、勤労基準法上、勤労契約を締結して配達サービス業務を遂行する人は除外する。
     ③「労働組合」とは、従事者が自主的に団結して労働条件の維持及び改善など経済的、社会的地位の向上を図ることを目的に組織した団体またはその連合体を言って従事者を代表する。
    1-4. この協約に参加した企業と労働組合は、信義誠実の原則に基づき、協約事項を実践して共同の目標達成に向けて努力する。労働組合は、供給者、消費者、従事者の効用を増進させるプラットフォームの純機能と企業の経営上の権限を尊重して、企業は、従事者が労働組合を自由に結成して活動する権利を保障し、団体交渉の主体で労働組合を尊重する。
    1-5. この協約に参加したすべての主体は、配達サービス産業の生態系の共栄発展における、プラットフォーム企業とプラットホーム労働従事者だけでなく、配達サービス消費者、飲食店などの供給者、地域の配達代行社など、利害当事者の利益を均衡させ考慮されなければならないという点に意を集め、協約の履行過程で、これを実践するために努力する。
  • 2.公正な契約
    2-1. 企業は、配達業務への入職要件を明確にして、従事者は、これに協力する。
    2-2. 企業と従事者間の契約は、対等な地位で締結されなければならず、相互間の権利と義務が簡単に理解できる形で明瞭に作成する。契約書には、契約の締結と終了に関する一般的事項が明示されなければならない。
    2-3. プラットフォームを媒介にした業務遂行契約を締結した従事者は、自らが希望する時間と業務を遂行する権利を有する。企業は、従事者が業務を遂行すべき日付や時間を指定せずに、望まない業務の遂行を強要しない。
    2-4. 従事者の帰責または規則違反による制裁の根拠と手続きは明確でなければならず、企業はこれを従事者が容易に確認できるようにする。
  •  3.作業条件と保障
    3-1. 企業と従事者は、社会安全網保障の基準となる納税の義務を履行するため、相互に努力する。
    3-2. 企業は、従事者が特定の業務を受け入れるか否かを決定する前に、当該業務の作業条件と、遂行を通じて自分が得る報酬に対する情報を明確に分かるようにし、報酬の精算時期には細部明細を提示する。
    3-3. 従事者は、プラットフォームが提示する政策を遵守して受諾した業務を効果的に遂行し、ブランドの価値を尊重し、加盟店と消費者との対面過程で適切なサービスを提供する。
    3-4. 企業は、従事者に合理的かつ公正に業務を配分する。企業は、経歴、熟練、運送手段、地域、人的特性などの違いにより各従事者が選択できる業務を、異なる方法で提示する場合、これに関連する基準を従事者が知ることができるようにする。
    3-5. 企業は、政府と協力して従事者が自分の専門性を開発できる合理的な教育プログラムを用意するために努力する。
    3-6. 企業は、月給制など正規雇用の必要がある場合に、既存のプラットフォームを媒介に業務遂行の契約を締結して勤務した従事者を優先採用するために努力する。
  •  4. 安全と保健
    4-1. 企業は、産業安全保健法上の義務を全うして、産災保険への加入を督励し、適切な教育及び保護装具の提供、総合保険の案内などを通じて従事者が業務遂行過程で直面する可能性のある危険を予防するために努力する。
    4-2. 企業と従事者は、配達サービスの安全な遂行において、十分な休息の重要性を共に認識して、これを実現するため、相互努力する。
    4-3. 企業は、加盟店、消費者が産業安全保健法上顧客応対労働者保護措置を認識できるようにし、これを通じて従事者を人格的冒涜や暴言などから保護するために努力する。
    4-4. 企業は配達業務上の紛争が発生する場合を備えたマニュアルを作成して、企業と従事者は紛争発生時、葛藤が早急に解決できるように、相互努力する。
    4-5. 企業と従事者は安全で正確な配達のために、相互努力し、深夜、酷寒・酷暑期、雨天・雪川・強風・路面凍結などの悪天候と感染病危機の発効時には安全対策を講ずる。
    4-6. 従事者は突発的な危険が発生すれば、すでに受諾した業務でも中断することができる。企業は従事者が業務の中断が避けられなかった状況を事後に立証すれば不利益を与えない。
    4-7. 企業は、従事者に対して、配達を圧迫したり、従事者の責がない配達時間の遅延を理由で制裁しておらず、危険な速度競争を誘発できる政策を展開しない。
    4-8. 従事者は、法律によって定められた義務教育に必ず参加し、このほか、安全に関してプラットフォームが新たに提供する教育に誠実に取り組む。
    4-9. 従事者は、業務を遂行する過程で、道路交通法など関連法規を遵守し、安全な走行に格別に留意する。特に、交通事故処理特例法上の12大重過失による事故を発生させないようにする。
  •  5.情報保護と疏通
    5-1. 企業と従事者は、個人情報保護法など相互間及び顧客の個人情報と関連された法律を遵守する。
    5-2. 企業は、従事者が業務遂行過程で経験し得る苦情を処理するための窓口を用意して誠実に運営する。
    5-3. 従事者は、プラットフォームが提示する業務ガイドラインについて自分の意見を披瀝する権利があり、企業はこれに適合した疎通の窓口を用意して運営する。
    5-4. 企業は、従事者が業務遂行契約の終了後にも一定期間、勤務事実、期間、報酬など自身の勤務記録に接近して活用できるようにする。
  •  6.後続課題
    6-1. この協約に参加した企業と労働組合は協約事項の趣旨と原則を維持、実践・発展させるために、常設協議機構を運営する。
    6-2. 常設協議機構の構成はこの協約に署名した企業と労働組合、公益専門家の協議を通じて決定する。協約の最初の締結後に署名に参加した企業と労働組合の参加も保障する。
    6-3. 常設協議機構は次のような事項を扱う。
     ①協約事項の相互の履行確認及び協約の解釈上の紛争に関する協議と調整
     ②協約事項以外にも企業と労働組合の対立発生時に、これに関する協議と調整
     ③産業の発展と従事者権益保護に関する議論
      ガ. 配達料の基準と体系改善案の用意 : 安全運転、走行コスト、市場環境など
      ナ. プラットフォームの合理的で公正な業務配分に関するサービス政策、技術的要素など
      ダ. 配達サービス分野の職業訓練のインフラ及び協力プログラム構築
     ④協約事項と関連した制度改善の課題に関する政府との協力
     ⑤その他、配達プラットフォーム、産業および労働生態系の健全な発展に向けた議論
    6-4. 常設協議機構の構成、案件、運営方式などに関する細部事項は協約に参加した企業と労働組合が合意した別途の規則で定める。
    6-5. 常設協議機構はこの協約の締結後3ヵ月以内に設置して運営する。

【全文】 政府への建議 7項目(試訳) (ここを Click すれば、全文を表示) 
  • 1. 政府は、プラットフォームを媒介に業務遂行についての契約を締結してサービスを提供する多様な類型の労働実態を調査し、類型を分類して、かれらの権益を保護するための法・制度的改善策を用意する。
    2. 政府は、配達プラットフォーム労働者の安全と権益を実質的に増進できる多様な政策を実施して執行する。
     - 二輪車総合保険に関連する合理的水準の保険料を設定するための画期的な改善案用意
     - 配達サービスを遂行するための必須費用構造把握及び安全運行、市場環境などを考慮した適正配達料の根拠用意
     - 二輪車修理及びリース市場の不公正行為についての実態把握及び標準工賃費検討。
    3. 政府は、プラットフォーム労働者を包括することができる安全網体系を用意して死角地帯を解消する。
     - 雇用保険及び産災保険制度の拡大・改編。
     - 産災保険の加入率向上のための適用除外及び専属性基準の画期的改善。
     - 正確な所得把握と社会保険徴収のための国税庁など関連省庁の役割の見直し。
     - 色々な類型のプラットフォーム労働者の社会的保護のためのオン・アンド・オフ方式など、多様な形態の社会保険加入・徴収・保障体系の整備。
    4. 政府はプラットフォームの労働者のための新しい職業訓練及び雇用サービス案を作成する。
     - 雇用安定性のための職業訓練制度など拡大・改編。
     - プラットフォームサービスに適合した職業訓練インフラおよびプログラム整備。
     - プラットフォーム労働者に対する職業訓練費用支援
    5. 政府は、国会と協力して配達サービス業に関する法律を制定する。
     - 配達サービスの法的定義、支援・育成及び監督の根拠を含めた法律制定及び執行。
     - 地域別に所在した配達代行業社に対する登録と管理の対策作り。
    6. 政府はこの協約に参加して遵守するなど、配達サービス業の健全な発展に努力する企業を支援して、市場の秩序を歪曲したり、法制度を遵守しない企業を監督する。
    7. 政府は、プラットフォーム、経済発展とプラットフォーム、労働者の権益保障に関わる経済・産業・雇用・労働など関係省庁の所管業務分掌を明確化して、本協約によって運営される常設協議機構との一元化された通信体制を用意する。

 業界最大手「優雅な青年たち」(配達の民族)との団体交渉・団体協約

 配達サービスで初めての団体協約締結(2020.10)

 前回第80回エッセイで、民主労総サービス連盟サービス一般労組配達の民族支会が、2020年10月22日に、「優雅な青年たち」(「配達の民族」の物流サービスを担当)という配達プラットフォーム企業と団体協約を締結したことを紹介しました。この協約はプラットフォーム企業とプラットフォーム労働者間の団体協約の中では2番目の事例です。とくに、法的には「個人事業主」である配達サービス従事者との団体交渉に応じる必要はないという対応の義務はないという企業が多い中で、配達サービス企業では最大手の「配達の民族」が、配達サービス従事者の労働者としての地位を認め、その労働組合との団体交渉に応じたこと、さらに、その結果として、団体協約締結したことはきわめて大きな意味を有し、実際、社会的に大きな注目を浴びることになりました。さらに、この協約の主な内容としては、①会社の持続的成長についての合意、②安全に仕事をする毛に、③福祉強化を通じた処遇改善、具体的には、従来、労働者が負担していた配達一件あたり200~300ウォンの「配車仲介手数料」を無くしたこと、福祉向上のために健康診断費、休息支援費、衣類の費用を支給すること、④配達員の社会的認識改善のために労使共同努力などが盛り込まれています。なお、その後も、この協約は、更新されています。

 この協約の条文を下記の通り、日本語試訳しました。

        サービス一般労組-優雅な青年たちの団体協約(2020.10.22) 
             (ここを Click すれば、全文を表示)
  • 前文
    民主労総サービス連盟サービス一般労働組合(以下「組合」という)と優雅な青年たち(以下「会社」という)は、憲法と労働関係法、そして公正取引法の基本精神により経営権と労働基本権を尊重し会社の持続成長、組合員の安全に仕事をする権利、ライダーの社会的認識改善のためにこの協約を締結し、相互信義と誠実で遵守履行することを確約する。
  • 第1章 総則
    第1条[交渉団体] 会社は、労働組合が全組合員を代表して配送環境と配送条件および組合活動権利に関して交渉する労働団体であることを認める。
    第2条 [協約の優先] 本協約に定めた基準は、会社の配送代行基本契約書に優先して適用する。
    第3条 [適用範囲] 本協約は、会社と配送代行基本契約を結び配送業務を遂行する組合員に適用する。
    第4条 [配送代行基本契約書等の制定・改正] 会社が組合員の配送条件に影響を及ぼす配送代行基本契約書を制定又は改正する際には、組合の意見を聴取する。
  • 第2章 組合活動
    第5条 [組合活動支援の原則等] 会社は、組合活動を支援し、組合運営に介入したり正当な組合活動を理由に不利益な処遇をしない。
    第6条 [組合活動支援] 会社は、組合員が交渉委員として団体交渉に要した時間について組合と別途協議した費用を支給する。
    第7条 [施設便宜の提供] 施設便宜の提供は、次の各号のとおり支援する。
    1. 会社は、組合事務所の運営に必要な什器および備品購入に対する費用の一部。
    2. 会社は、組合行事費用の一部
  • 第3章 団体交渉
    第8条 [交渉要求] 組合は、本協約有効期間満了日以前の3ヶ月になる日から関連法令が定めるところにより団体交渉を要求することができる。
    第9条 [交渉義務] 会社は、組合が第8条にともなう交渉を要求する時にはこれに応じなければならず、正当な理由なしに拒否することはできない。
    第10条 [交渉対象] 団体交渉の対象は、次の各号のとおりである。
    1. 組合活動に関する事項
    2. 安全、保健に関する事項
    3. 配達料、配送時間等配送環境及び配送条件に関する事項
    4. ライダーの人権保護及び社会的認識の改善に関する事項
    第11条 [交渉委員] ①組合と会社は、各代表が委嘱する人で交渉委員を構成するが、各5人以内で労使同数で構成する。
     ②会議の議長は代表交渉委員が交代で行う。
     ③ 労使共に交渉代表が出席することを原則とする。ただし、やむを得ない場合、委任状を通じて交渉権限を委任することができ、会議2日前に相手方に書面で通知しなければならない。
    第12条 [幹事選任] 労使双方は、各々幹事1人を置いて交渉に必要な事前準備、交渉進行事項記録、交渉後事後措置などを取らせる。
    第13条 [合意書作成] 団体交渉で合意された事項は、文書で作成し、代表交渉委員または代表権を委任された交渉委員が署名または捺印して労使1部ずつ保管する。
  • 第4章 契約一般
    第14条 [契約解除] 会社は、組合員に対して契約解約をするにあたって配送代行基本契約書の内容に基づいて施行するものの、関係法令および社会通念上合理的手続きに従って処理する。
    第15条 [センター移動] 組合員が適当な理由でセンター移動を申請すれば、会社は最大限協力する。
  • 第5章 配達料及び配車仲介手数料
    第16条 [配達料] 配達料とは、配送代行サービスを行って受け取る一切の金品をいい、構成は次の各号のとおりである。
    1. 配達料
    2. 距離割増
    3. 天気割増
    4. 特別割増
    第17条 [配車仲介手数料] 会社は、現在組合員から支給されている配車仲介手数料を免除する。
    第18条 [配達料の支給方法] ①会社は、組合員に毎週水曜日から次週火曜日までに発生した配達料精算分を該当火曜日基準でD+3営業日に週単位で支給する。 ただし、支給日が祝日の場合、前日支給できる。
     ② 会社は。ブロスアプリ上に配達料支給明細書を詳しく記載するよう努力する。
  • 第6章 配送時間及び配車
    第19条 [配送時間] 会社は、社会的配送需要の増加を考慮して週当り配送時間を制限した政策等を弾力的に運営する
    第20条 [配車] 会社は、一般モード、AIモードのいずれかに優先して配車しない。
  • 第7章 ライダーの人権保護及び社会的認識改善
    第21条 [肖像権] 会社は、組合員の肖像権のために顧客注文アプリ上の肖像が掲示されないよう協力する。
    第22条 [ライダー社会的認識改善] 会社は、組合と共にライダーの社会的認識改善およびサービス質向上、配送プラットフォーム産業発展と市場秩序確立のために年2回キャンペーン、討論会などを開催する。 詳細は組合と会社間協議とする。
  • 第8章 産業安全及び保健
    第23条 [配送中に発生した各種事故処理] 組合員の帰責事由ではなく、業場の理由で飲食毀損などが発生する場合、組合員が責任を負わない。
    第24条 [産業安全および産業災害補償保険法] ①会社は、組合員の安全のために新規入職者に対して1ヶ月以内に安全教育を実施し、ライダーに対して半期別に安全教育を実施する。ただし、教育参加者には会社が定めた教育費を支給する。
     ② 会社は、組合員の安全のために台風、大雪、豪雨など重大な危険が予想される場合、配送サービスを中止することができる。
    第25条 [健康診断費用支援] ①会社は、毎年1月1日または7月1日のいずれかを基準日とし、次の各号をすべて満たした組合員が基準日から1年以内に健康診断を受け、これを証明できる書類を会社に提出した場合、該当組合員に健康診断費用10万ウォンを支給する。
     1. 基準日前日までの契約期間が連続して1年以上の者
     2. 基準日直前の1年間、1日20件以上の配送サービスを行った日が200日以上の者
     ② 組合員は、1月1日または7月1日のいずれかの基準日を特定して第1項の健康診断費用の支給を申請しなければならず、組合員が健康診断費用を支給された場合、該当組合員に対しては以後も同じ基準日を適用する。
     ③ 支払日以前に会社との配送契約が終了した者に対しては、第1項の金員を支給しない。
  • 第9章 配送環境改善
    第26条 [被服費支援] ①会社は、毎年1月1日および7月1日を基準日とし、次の各号を全て満たした組合員に基準日以後初めて到来する配達料支給日に被服費4万ウォンを各支給する。
      1. 基準日前日までの契約期間が連続して1年以上の者
      2. 基準日直前の6ヶ月間、1日20件以上の配送サービスを行った日が100日以上の者
     ② 支払日以前に会社との配送契約が終了した者に対しては、第1項の金員を支給しない。
    第27条 [レンタル費] 会社は、組合員が事故により配送サービスが不可能でバイクを返却した場合にはレンタル費を受け取らない。
    第28条 [業務支援] ①会社は、組合員の円滑な配送サービスのため、顧客センターとの業務方式を改善する。
     ② 会社は、常習的に調理を遅延したり、ライダーに悪口を言ったり、ライダーの人権を無視するなど悪性業場が生じないよう管理を強化する。
     ③ 会社は、組合員の円滑な配送サービスのためにカード決済機を導入する。
     ④ 会社は、悪用(アビュージング)問題を解決するために持続的に代案を用意し、具体的にブロスアプリ上で運行手段、本人認証をする検証制度を導入する。
     ⑤ 会社は、ライダーたちの悪用(アビュージング)問題解決と配送環境の改善のために定期的な政策協議を開催する。
    第29条 [コミュニケーション構造] 会社は、組合員とのコミュニケーションのためにSNS上の窓口を設ける。
    第30条 [プレゼント支給] ①会社は、旧正月および秋夕の各2週間前を基準日として、次の各号を全て満たした組合員に旧正月および秋夕の各1週間前までに10万ウォン相当のプレゼントを各支給する。
     1. 基準日前日までの契約期間が連続して1年以上の者
     2. 基準日直前の1年間、1日20件以上の配送サービスを行った日が200日以上の者
     3. 基準日直前の1年間、半期別安全教育を2回以上修了した者
     ② 支払日以前に会社と配送契約が終了した者に対しては、第1項の金員を支給しない。
  • 附則
    第1条 [有効期間] ①本団体協約の有効期間は令和2年10月22日から令和2年10月21日とする。
     ② 団体協約の有効期間が経過した後も新しい団体協約が締結されなかったときは、新しい団体協約が締結されるまで従来の団体協約の効力が存続する。
    第2条 [基準日] 本団体協約第25条ないし第26条の最初の基準日は2021年1月1日とする。
    第3条 [適用特例] 本団体協約第25条ないし第26条の適用において、2021年1月1日を基準日とする場合には、本団体協約第25条ないし第26条の内容を次の各号のように変更して適用する。
     1. 第25条:第1項第2号を「基準日直前の1年間、日別20件以上の配送サービスを遂行した日が150日以上の者」に変更して適用する。
     2. 第26条 第1項第2号を「基準日直前6ヶ月間に日別20件以上配送サービスを遂行した日が75日以上の者」に変更して適用する。
  • 2020. 10. 22
    サービス一般労働組合委員長 イ・ソンギュ    優雅な青年たち代表理事 キム・ビョンウ

 2021年、2回目の団体交渉と協約締結(2021.1.)

 続いて、2021年の団体交渉では、「保険料支援」と「基本配達料の引き上げ」が議題となりました。(以下、労働と革新 2022.1.8 参照)

 まず、保険料支援については、最終的に、「優雅な青年たち」と契約したライダーは、有償総合保険加入者の場合、年間最大100万ウォンの保険料が支援され、補償範囲が狭く保険料が安い有償責任保険加入の場合は年間50万ウォンが支援されることになりました。また、「配達の民族」のレンタルバイクを利用するライダーも年間100万ウォンが支給されます。ただし、支援を受けるのは、1年以上の配送基本契約者で、1日20件以上、年間200日以上の配送実績のあるバイク加入者で、最大2年間(22.1.5~2024.1.4)ということです。そして、労使は、配達共済組合の設立に共同して努力することで合意しました。

 次に、基本配達料については現行の3,000ウォンは維持されることになりましたが、従来の直線距離からナビゲーション実距離に変更され、実際の移動距離が反映される点で大きな改善となりました。直線距離方式では、500m未満は3,000ウォン、500m~1,500m未満3,500ウォン、1,500m以上3,500ウォン(+500mあたり500ウォン)でしたが、ナビゲーションの実距離基準では、675m未満の基本料3,000ウォン、675m~1900m未満3,500ウォン、1,900m以上3,500ウォン(+100m当たり80ウォン)に設定されました。

 この変更について、不利になることはないことを組合は確認して、2021年12月に暫定合意案が出され、組合員の賛否投票で、賛成率79.1%(投票率76.8%)で可決されました。この結果、民主労総サービス連盟サービス一般労働組合と優雅な青年たちは、2022年1月5日、「2021年賃金協約」の調印式を行いました。

優雅な青年たちとサービス一般労組の協約調印式労働と革新 2022.1.8

 2023年、3回目の団体交渉と協約締結(2023.7.5.)

 民主労総サービス連盟配達プラットフォーム労組と「優雅な青年たち」は、2023年の団体交渉で、2023年6月2日、「ライダーに対する支援水準を強化した共生支援制度」新設を中心に暫定合意し、組合員投票を経て、最終的に交渉妥結しました。今回の交渉では、希望するときに自由に運行するライダーの特性を考慮した「プラットフォームライダー共生支援制度」を導入することが中心的な議題になりました。これは、ライダーとして配達活動を継続することができるオーダーメイド型環境を作るための支援制度で、これに参加を希望するライダーは、「ベミン(配達の民族)スクールの安全教育修了」、「運転免許停止以上の処分履歴なし」、「バイク環境検査結果提出」など、社会・環境との共生のための活動を示す書類を提出します。そして、支援対象に選ばれたライダーは、地域により毎月460~520件の配達をすいこうすれば翌月21万5千ウォンの「共生支援金」を受け取ることができます。会社(優雅な青年たち)は、ライダーの持続可能な配達活動を支援するという趣旨で、配達中の事故などによる入院期間も配達遂行日と扱うことを含めて、支援制度の参加資格を与えることに合意しました。(毎日労働News 2023.7.6

 生活物流サービス産業発展法 (2021.1.26.制定)

 2021年1月26日、「生活物流サービス産業発展法」(「生物サービス法」や「生物法」と略称)が制定されました。この法律制定の背景には、コロナ禍でた宅配需要が急増する中で、宅配労働者の過労死が頻発したことがありました。その保護と待遇改善の必要が社会問題として大きく浮上したのです。

 しかし、2020年5月、政府・国土交通部が立法予告し、国会の国土交通委員会に上程した当初の法案は、以前、朴槿恵政権が推進しようとした物流市場規制緩和をベースにした、きわめて企業寄りの内容でした。これに対して、労働組合から、労働側の意見反映を無視した手続きであることに加えて、法案に含まれた、多くの問題点(①一部の宅配労働者を排除する構造的限界、②宅配事業者の無限乗車可能、③不法・脱法の温床である行政事務の委託、④宅配事業者への必須規制回避、⑤宅配労働者への損害転嫁)が指摘され、強い批判が出されました。(労働と世界 2020.10.8.)他方、貨物運送業界も、法案の規制が貨物運送業の営業権を侵害し、宅配産業の競争力を弱めるおそれがあること、宅配サービスと小荷物配送代行サービスを区分して運送手段を前者は貨物自動車、後者は二輪自動車とすることで運送手段の多様性を制限することに反対しました。

貨物連帯と公共運輸労組が、国会前で「生物サービス法」案に抗議 労働と世界 2020.10.8

 国会は、これら労働組合と貨物運送業界の意見を取り入れて、生物サービス法案の内容を一部修正しました。こうして修正を加えて成立した、生物サービス法の主要内容は、国土交通部の下の図表の通り、大きく三つに分かれます。

 第一は、「生活物流サービスの制度化」です。許可を受けて貨物自動車運送事業のうち、貨物自動車を利用して集荷、分類などの過程を経て小型・軽量中心の貨物を配送する「宅配サービス事業」と、二輪自動車を利用して貨物を直接配送または仲介する「小貨物配送代行サービス事業」に区分します。宅配サービス事業者は、国土交通部長官に登録が義務づけられ、小荷物配送業(配送代行、クイックサービスなど)は、登録の義務はなく、現状のまま自由な営業ができるとされます。しかし、事業者が申請する場合、要件を満たしているか審査して優秀事業者として認証する制度が導入されました。

 第二に、「従事者保護」として、①標準契約書の作成・使用の推奨、②宅配従事者の安定的な契約を保障するために、特別な理由がない限り、6年間の運送委託契約を保障する「契約更新請求権」の導入、③営業店に、従事者に対する安全・保健措置の履行をする安全管理義務、④配達ライダーなどのための共済組合新設、⑤従事者のための休息・福祉空間などの休息所づくりが規定されました。

 第三に、「消費者保護」として、被害に対する損害に対する連帯責任、標準約款、サービス評価を規定しています。

 この生物サービス法で、労働者の権利実現という点から注目されるのは、「標準契約書」を使用することで不当な契約を防止すること、宅配労働者の安定した就労のために6年間は運送委託契約を維持することです。前者については、既に、「標準書」社会協約が締結されるなど、事業者団体もこれに合意しています。後者については、大手宅配業者である韓進宅配・CJ大韓通運代理店を含めて、法律施行直前に、組合役員などの配達労働者の委託契約を打ち切ろうとする「不当労働行為」的対応が続出するという問題が報道されました。(毎日労働News 2021.2.17)今後、生物サービス法第21条が設置を規定している「生活物流サービス産業政策協議会」で、労働組合の代表者が参加して「社会対話」を前提に、労働者の権利を尊重した産業の発展・育成・支援の基本計画などについての協議が行われることが、大きな課題になっていくと考えられます。

 なお、既に、生物サービス法の成果が現れているのが、同法第37条の「国家と地方自治体は、生活物流サービス従事者の権益増進のために生活物流休息所を設置・運営することができる」という規定です。同条によれば、生活物流休息所の機能は、生活物流サービス従事者の①休息及び福祉空間の提供、②運送手段整備施設の提供、③労務および就職相談など求職支援、④保護及び福利増進のための事項として国土交通省令で定める事項が挙げられています(同条第2項)。

 このような「生活物流休息所」は、既に生物サービス法以前に、自治体の条例(前記)に基づいて各地に設置されていますが、2023年12月現在、ソウルでは9ヵ所、京畿道では14ヵ所で運営されているとのことです。最近では、仁川市が、2023年9月に、初めて市内に休息所を設置したことが報道されました。この休息所は、代行運転と宅配配達労働者専用で、民間の社団法人「労働希望発電所」が委託を受けて運営するもので、建物2階に位置しています(写真)。仁川地域の労働組合は、この休息所設置を歓迎していますが、追加の注文として、この休息所が市街地にあり、周辺にバイクを止めておく空間が十分でないとし、バイク専用駐車空間を用意してほしいと述べています。この点で、同じ京畿道の高陽市は、アクセスし易く、簡易な休息所(例:コンテナ型)を設置しており、このタイプなら運営費や利用率の点でも長所があり、このようなタイプを含めて数多く休息所を設置することを提案しています。(仁川日報 2023.11.26

    仁川市最初の生活物流休息所
    (出所)仁川日報 2023.11.26

(写真説明)
 仁川市が同市南洞ロデオ通りに「仁川生活物流休息所」を設置し、2023年11月24日に開所式を行いました。
  この休息所は、仁川地域で活動する宅配ドライバーと荷物配達ライダーのための空間として、専用面積は181.04㎡(54坪)で、教育・会議室などもあります 。 休息所には、マッサージチェア3台とリクライナー(背もたれが後ろにある肘掛け椅子)4台など、楽に横になって休める空間があり、パソコンとプリンターが設置され、飲み物も無料で飲むことができます。

 さらに、2023年6月28日、「配達サービス共済組合」が公式に発足することになりました。これは生物サービス法第41条に基づいて、1年余りの間、推進協議体と事務局が設けられ、2023年5月、国土交通部が設立認可しました。この共済組合は、民間保険会社に比較して20%ほど安い月・時間単位の保険商品を発売し、配達ライダーの安全性を保障すると同時に、費用軽減を図ることを予定しているとのことです。組合員となる会社は、「優雅な青年たち(配達の民族)」、「フライアンドカンパニー(ヨギヨ)」、「クーパンイツサービス」、「ロジオール(センガクデロ)」「バロゴ」、「ブルン」、「マンナコーポレーション」、「スーパーヒーロー」、「スパイダークラフト」の9社です。これによって、従来の「有償運送用保険料」約178万ウォンは、業界の事故が多いので、家庭用保険料(16万ウォン)に比べて11倍高い水準で、 加入率は40%を下回っていましたが、この割合を増やすことが期待されているとのことです。(Zdnet 2023.6.28

 労働組合(民主労総サービス連盟プラットフォーム労組)は、従来、事故を起こすと有償運送保険加入を拒否する民間保険会社が保険加入を拒否するという横暴があり、有償保険の義務化により、配達を生業とする労働者の保険加入を拒否できないようにすることを要求し、署名運動をしていました。共済組合の設立により、有償運送保険加入義務化へ一歩前進することになります。2023年6月28日、民主労総サービス連盟プラットフォーム労組は、この共済組合発足を歓迎する声明を発表しました。(プラットフォーム労組ホームページ

 最近の取り組みと課題

 以上のように、韓国のプラットフォームを通じての配達サービス労働者の権利実現の取り組みは、コロナ禍前の2018年~2019年から大きく前進してきたと言うことができます。まず、「ライダーユニオン」という、労働者自身の組織化が進み、また、二大労組の一つ民主労総傘下の「サービス連盟」が計画的な組織化方針に基づいて活発な活動を開始しました。
 一方で、こうした動きと並行して、先進的な自治体が「プラットフォーム労働者支援条例」を制定し、プラットフォーム労働者保護・支援の制度化を進めました。2020年には、政府・与党が仲介者の役割を果たし、プラットフォームを通じた配達サービスの業界と労働組合の間で二つの「社会協約」が結ばれました。これは、労働組合法上の「労働協約」とは違って法的な効力がない「社会協約」に過ぎないとされます。しかし、大手企業を含めたプラットフォーム企業が、法的には「個人事業主」とされる配達ライダーを、実際上、「労働者」として認めた点で大きな転機になりました。そして、配達サービスでの団体交渉が広がる中で、2020年、初めての法的にも効力のある労働協約(団体協約)が締結されたのです。こうした動きは、ILOやOECDが推奨する、労使の集団的協議=「社会対話」の韓国版と評価できるものです。
 これらを背景に、国会でも、急増した宅配サービスを対象とする「生活物流サービス産業発展法」が制定され、注目すべき内容の規制が導入されたことは、こうした動きがまだまだ遅れている日本の労働運動・労働法の関係者にとっても大いに注目すべき事実だと思います。
 ただ、韓国では、大統領が交代して政府の姿勢は、「親労働」から「親資本」へと大きく変わりました。2023年12月現在、野党多数の国会が可決した「改正労働組合法」では、配達ライダーなど個人事業主形式のプラットフォーム労働者について法的に労働組合法上の労働者であることを認める規定が含まれています。この改正労組法に対して、尹錫悦大統領が「拒否権」を行使するか否かをめぐって重大な局面に達しています。

 また、配達サービスをめぐっても、団交や協約締結に応ずる「優雅な青年たち」(配達の民族)以外の企業については、協約締結は大きく進んでいるとは言えません。2021年9月29日、ライダーユニオンと民主労総サービス連盟が共同交渉団を結成して、業界第三位の「クーパンイーツ」の子会社「クーパンイーツサービス」との団体交渉に漕ぎつけました。(ハンギョレ 2021.9.29.)しかし、結局、交渉が決裂し、協約締結に至りませんでした。そして、ライダーユニオンは、いくつかの地域(慶尚南道昌原市、京畿道安山市など)で、配達代行社との団体交渉を進め、協約を締結する取り組みを進めました。しかし、京畿道・始興市地域での配達代行社との間で交渉を追求する過程で、「二輪車配達ライダー協会」始興支部が、会員会社に「団交に応じなくてもよい」と指示した後、代行社が団交拒否していることを問題にし、不当労働行為として争っています(2023年7月)。
 韓国での全国的な労働組合法をめぐる動向や、こうした団体交渉・団体協約をめぐる粘り強い取り組みから目を離さず、今後も注目していきたいと思います。

 

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