事例紹介 福井地裁 長時間過重労働で自殺の新任教師の裁判原告勝訴

事例紹介 福井地裁 長時間過重労働で自殺の新任教師の裁判原告勝訴

 福井地裁安全配慮義務違反で町と県に支払い命じる
地公災福井支部も2016年に公務災害認定

働くものの健康 第169号(2019年10月10日)6頁

 2019(令和元)年7月10日、福井地方裁判所(武宮英子裁判長)は、2014(平成26)年10月に自死した新任教師の嶋田友生さん(当時27歳)の死亡は長時間過重労働による精神疾患が原因で,校長が安全配慮義務を怠ったためとし、若狭町と福井県に対し,約6530万円(請求は1億130万円)の支払いを命じました。
町と県が控訴せず、判決が確定しています。
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嶋田さんは4年間の臨時職員を経て2014(平成26)年4月に新採用され、福井県若狭町上中中学校に赴任し、1年生の学級担任、社会と体育の授業、そして野球部副顧問を務めていました。
4月の着任後に恒常的な時間外勤務を余儀なくされた嶋田さんは、6月頃にはうつ病など何らかの精神疾患を発症していたとみられています。
パソコンの使用履歴や学校の警備記録などから判明した嶋田さんの8月を除く459月の時間外労働時間数は、月128〜158時間で、9月は169時間にも及んでいました。
また嶋田さんは初任者研修での上司からの厳しい指導や生徒指導・保護者対応など、強い心理負荷 にもさらされ、同年10月、「疲れました。迷惑かけてすみません。」と書き残し、自動車内で練炭自殺を図って亡くなりました。
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地方公務員災害補償基金福井県支部は2016(平成28)年9月、長時間労働による精神疾患が自殺の原因として公務災害と認定しました。
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裁判で証人尋問に応じた当時の校長は、嶋田さんが長時間学校にいたことを認識していたとした上で、「少しでもよい授業にするために工夫、改善するための自主的なものだと考えていた。早く帰るように伝えていた。」と述べ、命令はしていないと主張しました。また学校主任を同じ社会科の教員にして相談しやすいように配慮するなどし、定期面談も行っていたが、「悩みは話していなかった。」とも述べました。
また初任者研修の指導担当者は、「父親のような深い愛情と厳格さをもって指導しており、パワハラはない」と証言しました。
しかし判決は、担当授業の準備、 部活動指導, 初 心者研修の準備、保護者 対応などの業務について、「勤務時間外に行わざるを得なかった。自主的に従事していたとは言えず、事実上、校長の指揮監督下で行っていた」としました。そして「校長は、嶋田さんが保護者対応や授業の進め方に苦心していたことの報告を受けていた。 過重な業務が心身の健康 状態を悪化させることは 認識できた」と指摘し、そ れにもかかわらず業務内容の把握や変更を行わず、 早い帰宅を促すなどの口頭指導にとどまったことに対し、「安全配慮義務を怠ったと言わざるを得ない。自殺との因果関係も認められる。」と断じました。
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若狭町と福井県は7月12日、控訴しないと発表 しました。町長は同日記者会見し、控訴しない理由を「司法の判断や若く有望な教員を失ったことを非常に重く受け止める必要がある。学校現場の働き方改革に力を注ぐことが重要であると判断した」と述べ、賠償金も町が全額負担することを報告しました。
しかし県教委が2018(平成30)年9月に行った調査では、中高教員の4人に1人が月80時間を超えて時間外労働を行っていました。また同年、福井市立の小学校では、100時間を超える残業申告を、教頭が無断で過小に書き換えたことも発覚しています。
教員の数を増やし業務を減らすなど、実効性のある対策が急務です。

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