セブンは単なるミスではなく「違反」 残業代未払いに潜む二つの悪質性とは (12/18)

セブンは単なるミスではなく「違反」 残業代未払いに潜む二つの悪質性とは
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澤路毅彦2019.12.18 17:00 AERA

〔写真〕一部の残業代が未払いだったことを受け、会見するセブン−イレブン・ジャパンの永松文彦社長(中央)ら/12月10日、東京都千代田区 (c)朝日新聞社
〔写真〕セブン−イレブンを巡る主な出来事(AERA 2019年12月23日号より)

 残業代未払いが発覚したセブン‐イレブン・ジャパン。会見では「数字を誤った」と主張していたが、「法令違反」には変わりない。AERA 2019年12月23日号では、残業代の未払いが起きた背景に迫る。

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セブン‐イレブン・ジャパンが、アルバイトらの残業代の一部を支払っていなかったとして会見を開いたのは12月10日。

 未払いがあったのはフランチャイズ契約でチェーンに加盟する8129店。対象は時給制で働く計3万405人。総額は遅延損害金の1億1千万円を合わせて4億9千万円にのぼる。これはデータが残っている2012年3月以降だけで、実際には1970年代から未払いがあったとみられている。

 東京都内で開いた会見で、永松文彦社長は「多大なるご迷惑とご心配をおかけしたことを深くおわび申し上げます」と頭を下げた。未払いの原因については「当時の議事録や担当者の書類、社員の聞き取りをしたが詳細はわからない」と説明した。

 盤石だと思われていたセブンのビジネスモデルを揺るがす出来事が続いている。

 今年2月、大阪府東大阪市の加盟店主が人手不足に悩んだ末、本部との合意がないまま時短営業を始めた。このことをきっかけに24時間営業の是非が社会問題化。店主とのコミュニケーションに問題があったとして、古屋一樹社長(当時)が事実上、更迭された。

7月にスタートさせたスマートフォン決済「7Pay(セブンペイ)」は不正アクセスを受け、3カ月後の9月末に廃止。11月には本部社員が加盟店主に無断でおでんを発注していたことが明らかになっている。

トラブルが続く責任を問われた永松社長は「創業45年、環境が変わっているなかで、我々自身が変わってこられなかった」と答えた。

 しかし、今回明らかになったのは労働基準法違反。残業代の未払いには罰則の規定もある。経営環境は関係ない。

残業代の未払いはなぜ起きたのか。

 労働基準法は労働時間の上限を定めている。1日なら8時間、1週間なら40時間だ。労働組合や従業員の代表と合意すれば、上限を超えて残業させることができるが、その場合は上限を超えた時間分の残業代を払わなければいけない。

 残業代は、本来の賃金から計算される「単価」に割増率をかけて決まる。今のルールでは、月60時間までの割増率が1.25倍、60時間を超えると1.5倍となっている(中小企業には例外あり)。

 残業代の「単価」の計算方法は、労働基準法やその施行規則で決められている。

 時給制のアルバイトの場合、基本的には時給がそのまま残業代の「単価」となり、それに割増率をかけ、残業時間に応じた残業代を支払うことになる。ただ、時給以外に月ごとの手当がある場合は、その額を含めて「本来の賃金」とするため、手当の額を月の平均労働時間で割り、時給に合算したものを「単価」にしなければならない。

 セブンは、休まず出勤した場合の「精勤手当」と、リーダー格に払われる「職責手当」の二つを、法令通りに合算していなかった。そのため、本来より少ない残業代しか支払われていなかったという。

 セブンがこうした手当を導入したのは70年代以降。01年、手当分が残業代に合算されていないことが労働基準監督署から指摘され、二つの手当を残業代の単価に合算するようシステムを変更した。手当を考慮しなければいけないのは月給制の従業員でも同じで、01 年以前は月給制にも未払いがあった。

 セブン本部はこの時、法令違反があったことを公表していない。それだけでなく、法令通りにシステムを変更していなかったこともわかった。

 本来、時給と手当分を合算したものを「単価」とし、それに1.25倍の割増率をかけなければいけないのに、セブン本部は時給と手当分を別々に計算し、手当分は0.25倍の計算で支払っていたのだ。

 精勤手当と職責手当の合計は3千円。月の労働時間が100時間の場合、1.25倍で計算すると1時間当たり37.5円が残業代として上乗せされるはずだ。これを0.25倍で計算すると、7.5円にしかならない。10時間残業したとすると、300円の差額が出てしまう。

 こうした差額を、データが残っている範囲で積み上げた結果が4億9千万円だった。セブンは会見で「数字を誤った」と繰り返したが、合算して割増率をかけるのが法令に定められたルールだ。

 手当分をきちんと計算しない違反はセブンに限らないという見方がある。『残業代請求の理論と実務』の著書がある渡辺輝人弁護士は「時給制の従業員の残業代で、手当分をきちんと計算していないことは多い」と指摘する。

 その理由は技術的な難しさだ。「月給制の場合、年間の総労働時間をもとに単価を計算できる。ところが時給制の場合はシフト制で働いていることが多いので総労働時間が事前に定まっておらず、月の労働時間はさまざま。短期間でやめることもあるので、計算が難しい」。ただ、「1.25倍とすべきところを0.25倍にしたのは理解できない」と話す。

「残業代を法令通りに払っていないことは、大企業でも珍しくない」というのは古川景一弁護士だ。

「プログラムミスや計算ミスは結構ある。有名企業で数十億円支払った例もある。表面化しないだけだ」

※【セブンのイメージダウン必至か…本部の残業代未払いの重大性】へつづく

(朝日新聞編集委員・澤路毅彦)

※AERA 2019年12月23日号より抜粋

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