「電通はまつられた」社内ジョークに絶望、広告代理店社員が見た変われない業界 (12/25)

「電通はまつられた」社内ジョークに絶望、広告代理店社員が見た変われない業界
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2019/12/25(水) 10:00配信 弁護士ドットコム

〔写真〕「電通はまつられた」社内ジョークに絶望、広告代理店社員が見た変われない業界
電通本社ビル

2019年9月、電通の東京本社が社員に違法な残業をさせたとして、またも労働基準監督署から是正勧告を受けた。

新入社員だった高橋まつりさんが過労自殺してから4年。電通は法人として労働基準法違反の罪に問われ、有罪判決を受けているのにも関わらず、長時間労働は残り続けていた。

電通事件以後、広告代理店の働き方に変化は起きているのだろうか。最近まである代理店で働いていた社員は「表向きに発表する数値は変化しているのかもしれませんが、働き方は変わっていないのが現状だと思います」と話す。

事件以後の、働き方をレポートしてもらった。

●電通事件を「まつられた」という社員

私が広告代理店に入社したのは、電通事件が起きた後です。入社時の研修でも、高橋まつりさんの話題は出てきました。

どの上司も口をそろえて誇るように言うのは「うちは電通と違ってホワイトだから」という言葉でした。しかし現実は、電通が働き方改革で受注案件を絞り始めているので、あふれた案件を取りに行くという矛盾が発生していました。

高橋まつりさんの事件を「まつられた」と表現する社員が少なからずいました。あまり思い出したくないですが、「電通が『まつられて』から、こっちに来る案件が増えたんだよね〜」といった、モラルのない使い方をする先輩を見かけたこともありました。

「どうしてそんなことを言えるのだろう?」と疑問に思いましたが、「自分は違う」「そうはならない」と言い聞かせるようにして、気を張り続けているのかもしれません。

●高橋まつりさんの命日に

ある年の12月、毎日のように終電やタクシーで帰る日々が続きました。12月は、年末年始の番組に向けたCMや、キャンペーンの準備などがあるため、とりわけ忙しいのです。

私も休日だったクリスマスイブにも出勤して、誰もいないオフィスでパワーポイントを準備したことがあります。「年内にプレゼンしてほしい」というクライアントの要望に間に合わせるためでした。

「どうしてこんなことをしているのだろう」と思ううちに空しくなってきて、地下鉄のホームで、走っている列車に吸い込まれそうになったのを覚えています。初めての経験でした。

本当に疲れてくると、駅のアナウンスがなんと言っているのかも分からなくなってきます。電話越しに友達から「話していることが支離滅裂だけど大丈夫?」と言われたこともあります。

そんな時、高橋まつりさんの命日がクリスマスだったというのを知り、高橋まつりさんのツイートを読み返しました。つらさが痛いほど分かるような気がしました。

どうしても他人事だとは思えず、ネットで調べて、飛び降りたマンションに命日の夜に現場に手を合わせに行きました。

現場に行くまでは「二度とこんな事件を起こしませんから、安らかに眠ってください」と言いたかったのですが、手を合わせたあとに、その場で5分ぐらい考えて、「自分だけの力ではどうにもならない。つらいならば辞めるほかない」と思うようになっていきました。

●なぜ労働時間が減らないのか?

なぜ働き方改革を進めているのに労働時間が減らないのか。理由は、人数が限られているのに案件を取りに行くので「時間もスタッフも常に足りなくなっている」に尽きます。

複数の案件を、さまざまな部署の社員からなるチームで同時にまわしているので、全員が集まれる最小公倍数的な時間は、おのずと夜遅くになってしまうのです。

非効率的な打ち合わせのやり方も、長時間労働に影響していました。広告会社の打ち合わせと聞くと、クリエイティブなイメージを持つ方もいるかもしれませんが、自分たちのやり方にこだわり、言ってしまえば無意味なプライドがあるとも言えます。

「無駄な雑談をすることが意外な発想を出す」と本気で思っているので、会議は長引いてもなかなか進みません。無論「これはすごい打ち合わせなんだ」と言い聞かせないと、本人たちもやっていられないのかもしれません。

みんな早く帰りたいので口数も減るのですが、こだわりの強いメンバーがいると、結局全員が残らざるを得ない状況になります。

●クライアントとの共依存関係

自己改革できないことへの批判が広告会社に集まっていますが、一方で、クライアント企業にも問題があるように思います。

クライアント企業は、絶対にNOと言えない広告会社に対して、無理なスケジュールであらゆる業務をお願いしてきます。マーケティングから企画、制作、媒体の広告枠買い付けに至るまで、広告会社に「おんぶにだっこ」で依存しています。

特にオーナー企業の場合は、幹部の鶴の一声ですべてが決まってしまう場合もあります。

年配社員の成功体験なのかもしれませんが、「クライアントの機嫌を取ることで受注を増やす」という代理店側の考え方もあります。嫌なそぶりを見せず、クライアント企業の社長のお願いはどんなものでもきく。上司は「ズブズブの関係になっておけば、将来も案件が来るんだ」と説明していました。

例えば、CM撮影に経営幹部の家族が見にきて、一緒に記念写真を撮るために、CM撮影にとっておいた時間を削るような、矛盾が起きることもありました。

●残り続ける古い慣習

広告業界にまつわるブラックな話は聞いていましたが、一方で働き方改革が業界全体で進んでいるという話も聞いていました。特に「電通とは違う」というライバル意識を持っている社ならば、「もう少し安心して働けるのではないか」と当時は思っていました。

結局、限界を感じて辞めたわけですが、本当は、会社を最前線で引っ張っている20代〜30代の若手が率先して、働き方改革を進めていかなければなりません。ですが、業界の古い慣習を経営陣もコントロールしきれていないのが現状です。

クライアント企業との関係もあり、広告会社が働き方改革をしたところで、何か変化が起きるとは思えません。業界全体の環境を変えるのは難しいと感じました。

弁護士ドットコムニュース編集部

 

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