「休日少ない地獄のホテル」脱ブラックできた理由 (02/02)

「休日少ない地獄のホテル」脱ブラックできた理由
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200202-00000004-mai-bus_all
2020/02/02(日) 9:30配信

「時短の科学」の著者、内藤耕さん=2019年12月19日

 「人手不足」といわれる中、「労働時間短縮(時短)」への取り組みが社会的な要請となっている。この課題を科学的なアプローチで解決しようとするのが「時短の科学」(日経BP社)の著者、内藤耕さん(53)だ。時短を進めるための着眼点と、1年で時短に成功したあるホテルの事例について聞いた。【毎日新聞経済プレミア・田中学】

 <内藤さんは、経済産業省所管の独立行政法人産業技術総合研究所の職員として2006年ごろから国内サービス業の生産性向上を課題に徹底したフィールドワークを始めた。これまでに流通や飲食、宿泊業などの現場を数多く訪れてきた。経験や勘が頼りの現場で、システマティックで無駄がなく、顧客が満足し売り上げも確保できる運営の仕方を探っている。それが時短のためのアプローチにもつながっている>

 ◇暇な時に目を向ける

 ――長時間労働が問題視されて働き方改革が進む中、時短のため残業の削減に取り組むケースが多くあります。

 ◆内藤耕さん 忙しい時は残業をしてもいい。仕事があるのですから。特にサービス業の場合は、仕事の向こうにお金を払ってくれるお客がいます。「お客さんを放って、売り上げが減ってもいいんですか?」と言われたら経営者は困ってしまいます。「残業を減らせ」と現場に言う一方で、「売り上げを増やせ」と発破をかけていれば、現場は矛盾を抱えてしまいます。結局、追い詰められてサービス残業してしまいます。

 ――では、どうすれば?

 ◆仕事には1日の中や月単位で「忙しさの波」があります。私は忙しい時を凸(でこ)、暇な時を凹(ぼこ)と言っていますが、凹に目を向けることが大切です。凹の時は短時間労働することで、凸の残業時間と調整するんです。日々の残業をコントロールするのは難しいでしょう。改正労働基準法で定められた時間外労働の上限規制も、残業時間を月間で規制しています。

 ――働く側には会社から定められた就業時間があります。

 ◆法律に基づいて1日8時間労働と就業規則で定めている会社が多くあります。そう決めるから、働く側は最低8時間いることになる。凹の時に労働時間を柔軟にコントロールするんです。

 ◇従業員の休日が少なかったホテルの改革

 ――凹の対策だけで時短ができますか。

 ◆もう一つ大切なのは、凸と凹の波を小さくするようコントロールすることです。製造業でいう「平準化」です。会社はどうしても凸に合わせて設備や人員を確保しようとします。すると固定費が上がってしまい、凹に多くの課題を抱え込みます。この状況では、時短も生産性向上も望めません。時短と生産性向上は密接に関わっていて、生産性は言い換えると「売れるサービスを無駄なく提供すること」です。

 ――実際に、時短や生産性向上に成功した企業の事例はありますか。

 ◆大分県別府市の「ホテル白菊」は、従業員の残業が月数十時間という状況が常態化し、年間休日も90日ほどで、「地獄の白菊」と地元でやゆされ採用もままなりませんでした。それが18年の正月から労働生産性向上に取り組み始めると、1年で従業員の給料を上げながら、残業時間は月数時間に、休日も年105日になりました。売り上げも微増で、口コミサイトの評価も上がりました。

 ――何をしたのでしょうか。

 ◆調理場やフロントなどさまざまな業務にメスを入れましたが、その一つが事前に客室にセットしていたひげそりなどのアメニティー類を撤廃し大浴場に集約したことです。以前は予約者の年齢や性別を確認し、清掃係や仲居が対応していました。当然、予約が変更になればセットし直す必要があり、手間でした。

 それを、必要な場合は部屋へ案内する時に手渡すようにして、客室から電話で希望があればフロントが持って行くようにしました。結局、客室からの電話はほぼなく、手間が減った分、清掃係は調理場の補助や宴会場の準備に回り、仲居はフロントでより密にお客と接するようになりました。当初は人手不足を嘆いていましたが、人手は足りていたのです。

 ◇内藤耕さん略歴

 内藤耕(ないとう・こう)

工学博士。一般社団法人サービス産業革新推進機構代表理事。世界銀行グループ、独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センターを経て現職。著書に「時短の科学」(日経BP社)など。
 

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